屋根裏の仏さま (Shinchosha CREST BOOKS)

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  • Amazon.co.jp ・本 (171ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784105901257

感想・レビュー・書評

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  • ピクチャー・ブライドとしてアメリカへ渡った幾人もの女性たちについて「私たち」という人称で綴る物語。写真1枚を信じてアメリカに来てみれば、似ても似つかないうえ横暴な男がいて、帰るに帰れず過酷な労働に勤しみ、やっと落ち着いたかと思えばアメリカと日本の戦争のためにすべてを失い収容所へ。タイトルは、そんな「私たち」の一人が屋根裏に置いていった仏像を指している。
    最初は「私たち」という人称使いに慣れなかったけど、その趣向がわかるとがぜん読みやすくなった。幾人もの女性たちの人生が垣間見えてきた。ピクチャー・ブライドというといかにも苦労した心美しき人々のように描かれがちだけど、奔放なあまり故郷にいられなくて異国に渡った人もいたようで、それはそうだろうなとそのぶん真実味が増した。著者はそのあたりの文献もずいぶん参考にしながら書いたらしい。一方で、この解釈は日本人的な感覚とはちょっと違うなと思うような部分もあった。
    最後の最後で語りの人称が変わる。うまく表現できないんだけど、それがまた印象的だった。

  • 写真のみを頼りにアメリカへ渡っていった女性たち。
    まったく写真とは異なる伴侶、つらく苦しい労働、差別、戦時下での強制連行。

    ひとりひとりの日系女性、「わたし」の声は集約され、抽出され、「わたしたち」の声となる。

    読者は彼女らの声に耳をすます。

  • ちょうど1世紀ほど前、写真と手紙だけを頼りにアメリカやハワイへ渡った写真花嫁たちのお話。
    情報網が発達した今、これほど思い切った行動を取るのは不可能に違いない。
    期待と不安を抱えて乗った船の行き着く先に待っていたのは、写真とはまるで違う夫、手紙とはまるで違う環境…。
    帰ることもできず、コツコツと作り上げた生活が落ち着いてきた頃に起きる戦争…

    横浜の移民博物館(だっけ?)を訪れた時の印象とはだいぶ違う。

    この作品のすごいところは、語りが"一人称複数"で進められているところ。斬新。
    一人の女性を追うのではなく、たくさんの女性たちのそれぞれ違った状況を同時進行させることによって、写真花嫁たちの生活を一般化せずに全体像を描き出している。
    読んでいる私を"わたしたち"がぐるりと取り囲み、一斉に話しかけてきているような不思議な感覚。
    本を読んでいるのに演劇を見ているみたい。
    スーラの点描画を端から端まで細かく見ているよう。
    そんな感覚になる本。

  • 「ハルコは、小さな真鍮の、笑っている仏さまを屋根裏の片隅に置いてきたが、仏さまは今でも、まだそこで笑っている。」

    写真だけで結婚を承諾し、海を渡ってアメリカにいる日本人に嫁いだ少女達。
    安穏な暮らしを信じていたが、実際はほとんど詐欺のような話で、貧しい日本人の夫と共に過酷な労働をさせられることになる、やがて日米開戦の日を迎え…という実話だと思いたくないくらい苦しい実話を元に書かれた作品。
    「わたしたち」という語り口が見事。
    逆に一人一人の声が際立ち、肉声を聞いているような気になるほど。
    抑えた文章は美しく(訳も素晴らしい)、しかし彼女達の苦難はひしひしと感じさせる。
    最後の反転も上手い。
    胸の奥に棲み続けそうな一冊だった。

  • 20世紀初頭、日本人移民の妻となるため、写真だけを頼りに異国へ嫁いでいった「写真花嫁」たちを描いた小説。
    小説といっても特定の主人公はおらず、「わたしたち」を主語にした語りが続く。
    「船のわたしたちのなかには、京都から来た者もいて、繊細で色白で、生まれてからずっと家の奥の薄暗い部屋で過ごしていた。奈良から来た者もいて、日に三度、ご先祖様に祈り、今もお寺の鐘が聞こえると言った。山口の農家の娘もいて…」
    といった感じ。
    写真とは似ても似つかない夫とか、慣れない土地での生活とか、差別とか、そういうものの中で、それぞれがそれぞれに、不幸だったり、幸せだったり…個々の「わたしたち」が重なり合って、全体として一つ大きな絵を描く、そういう語りになっている。
    太平洋戦争が始まって、日本人・日系人たちが町から消えるところまでで物語はおしまい。
    昨今の日本では「移民受け入れの是非」が議論になることが多いけど、かつては日本人が海を渡る側だった。この物語はそういう日本人を描いた作品だけど、そこに留まらない普遍性を有した物語でもある。

  • 写真だけの「お見合い」で、米国に嫁いだ日本人花嫁たち。
    希望と打算を抱いた花嫁達の、絶望や希望の思いが、ふりつもる淡雪ように「わたしたち」によって語られる。

    そんな風に結婚した人々がいたなんて知らなかった。
    お見合い写真が20年前のものだった、経歴は嘘だったなど、詐欺にあったように渡米し、されど気軽に逃げ帰ることもできないアメリカ。
    しかしアメリカで幸せな人生を手に入れた幸運な人もいた。
    読むごとにたくさんの人生が押し寄せてきてつぶされそうになった。懸命に生きて、行き着く先が収容所とは。

  • 「わたしたち」という独特の主語と、淡々とした語り。
    そのなかから、「写真花嫁」という形で渡米した女性たちの、つらい運命と、不屈の心と、ほのかな希望と……それやこれやがうかびあがってくる。

    そもそも、写真だけの「お見合い」に応じて海を渡るなんて、それなりの冒険心がなければできなかったことだろうなと思うし、それだけに行ってみた先での「これじゃなかった」という失意も一通りではなかっただろう。なかには、そのまま亡くなってしまった人もいる。でもなかには、それでもどうにか堪え忍んで生活を軌道にのせ、子どもを産んで、そこに希望をたくし、そうしたら子どもたちは英語を話すアメリカ人となって、また自分からは離れていくというさびしさを味わった人たちもいる。

    そうこうしているうちに、第二次大戦が始まって、日系人排斥。血のにじむような思いで積み上げてきたものはみんなうばわれてしまう。少し明るさの兆していたなかに、きゅうに暗雲がたちこめて、だれもが疑心暗鬼になり、うわさが現実になっていくありさま。それを初めて「歴史」としてではなく、身近で起こったできごとのような感覚で味わった。

  • 女子栄養大学図書館OPAC▼ https://opac.eiyo.ac.jp/detail?bbid=2000060869

  • ふむ

  •  すべてが1、2行で「〜した。〜でした。」という形で書かれていたので、どんどん読むのがしんどくなっていきます。

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著者プロフィール

1962年、カリフォルニア州パロアルトに生まれる。父は戦後渡米した一世で母は二世。イェール大学で絵画を学び、コロンビア大学大学院で美術学修士号取得。二人の弟は弁護士と政治哲学及び倫理学講師。2002年、大学院在学中に書き始めた本書でデビュー、注目を浴び、アレックス賞、アジア系アメリカ人文学賞を受賞。2004年、グッゲンハイム奨学金を受ける。2011年、二作目の『屋根裏の仏さま』を刊行、PEN/フォークナー賞、フランスのフェミナ賞外国小説賞、ドイツのアルバトロス文学賞ほかを受賞、全米図書賞最終候補となった。

「2018年 『あのころ、天皇は神だった』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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