- Amazon.co.jp ・本 (176ページ)
- / ISBN・EAN: 9784105901684
作品紹介・あらすじ
生唾なしには読めない! 美味しい食を分かち合うことの歓び。食べることはその土地と生きてゆくこと。舌を燃やし、思い出を焼きつくすほど辛い唐辛子、庶民のキャビアと呼ばれるサルデッラに腸詰サラミのンドゥイヤ……。南イタリア、カラブリア州出身の作家が、アルバレシュという特殊な言語と食文化を守ってきた郷土の絶品料理と、人生の節目における家族の記憶とを綴る自伝的短篇集。
感想・レビュー・書評
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著者の出会ってきた数々の料理と、出会ってきた人々。滋味深い自伝的短編集だ。
ひたすらうまそう…イタリアの料理食べたい…と思いながら読みました笑
しかしただ料理の思い出に限らず、著者はイタリアの中でも少数言語アルバレシュ語を話して育ち、小学校に入って初めてイタリア語に触れ、16歳で初めて教科書以外の本を読む。そういった、作家としての著者の片鱗にも触れられる。
著者に限らずアルバニア系イタリア人としての生き様に触れられるところも見どころである。
味覚は子どもの頃に形成されるというが、生まれ育った地元、母の作る料理、家族で囲む賑やかで幸福な食卓、地元を離れてドイツで仕事をするようになった著者はそういった思い出から郷愁を抱いたりもする。
私も同じ日本国内でも、やっぱり地元の味じゃないと物足りないだろうなあと思うのでうんうん、と頷きながら読んだ。あっ、でも水がおいしいところには住みたいかも…本書でも水の大切さと脅威について書かれてましたが。
故郷の味に郷愁を抱く著者と、郷愁なんて抱くもんじゃないよ、世界を味わいなさいという著者がドイツで出会ったひとの言葉が染みる。
著者の生まれ育った南イタリア、カルブリア州の小村では、一部の有力者が安い給料で雇用するため、著者を大学までやるために著者の父親はドイツへ出稼ぎに行くのだが、著者は父親が大好きで出稼ぎに行くたびに寂しい思いをする。
ちょっと本筋とはずれるけど、著者が生まれたのが1954年なので、多分著者の父親が出稼ぎに出てる時期ってドイツが東西に分かれてるころでは…?西はともかく東は豊かではなかったのでは…ドイツのどの辺りにいたんだろうとちょっと気になりました(いろいろ地名が書いてあったかもしれないけど海外の地理に疎いもので…)。
さて、目次はさながらフルコースのメニュー表といった装丁で、始まりからどんな美味しい物語があるのだろうとワクワクさせられます。
個人的には、圧倒的に表題作で前菜の「海と山のオムレツ」が大好きです。
海と山のオムレツは著者のおばあちゃんの創作料理なのですが、
「ピガードで採れたオリーブオイルに、うちの雌鳥の卵を五、六個、腸詰めの大きな塊、あまり辛すぎないサルデッラを大さじ二杯、オイル漬けのマグロを一切れ、赤玉葱一個、パセリ、それに胡椒と塩を少々。…まず腸詰めと玉葱を刻み、大きな器の縁に卵をこつんとぶつけて割り入れ、そこにすべての材料を加え、フォークを使って驚くほどのスピードでかき混ぜる。フライパンにひいた脂がぱちぱちと音を立てはじめるのを待って、祖母は混ぜた材料を丁寧にあける…」
しかもそうやって作ったオムレツをシュティプラと呼ばれる焼きたての柔らかなパンに挟むんですよ。
もうめちゃくちゃ美味しそうでしょ!
食べてみたい。
次点で「アルベリアのシェフと婚礼の宴」。料理の美味しそうな描写と宴の賑やかさはもちろん、アルベリアのシェフの作る料理への愛情と郷愁を、著者の文章からひしひしと(その後の短編でも)感じられるからです。
訳者あとがきによると、本書の原題をそのまま訳すと「婚礼の宴と、そのほかの味覚」となるそうですが、そこをあえて「海と山のオムレツ」と題するところが素晴らしいと思いました。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
イタリア南部生まれの著者の自伝的小説とのこと。
この著者が生まれた村ではアルバレシュ語という少数言語が使われており、著者自身は小学校に入るまでイタリア語を知らなかったらしい。
イタリアといえばブーツの形をした国だ。細長いイタリアの中にも、いろんな文化があり、いろんな人達がいるんだなぁ。
主人公「僕」の父は、地元の村ではお金を稼ぐすべがないので、ドイツに出稼ぎに行く。僕の友人も、10代からドイツへ出稼ぎにいったという記載もあった。
言葉の壁はあるのだろうけど、日本のような外国への苦手意識、敷居の高さは全くないのだろうか。
そして、ドイツってお金持ちな国なんだなぁと感心した。
この本は、「僕」の幼い頃の話(「海と山のオムレツ」)からはじまり、僕が大人になり我が子と共に「海と山のオムレツ」で祖母と訪れた岬に行くという話で終わった。
こういうの良いなぁと思う。
私は、自分の子供時代のことなんてほとんど覚えてないつもりだったのに、自分の息子が生まれてから、ふと思い出すことがある。それで、その話を息子に聞かせるのだ。
イタリアでも、著者がその息子に同じように語って聴かせ、共に笑っている、そんな風景を思い描いて、あたたかい気持ちになった。
私がもうひとつ、この本から受けた感銘は、何度か登場する「アルベリアのシェフ」が「僕」がもうすぐ結婚すると言ったときの発言だ。
「(結婚する相手の女性が、主人公にとって)なくてはならない存在になったんだね」。
これ、スマートでかっこよすぎませんか・・・?
私も、これ言える場面があったら、さらりと言いたいくらい。
心の中の「言いたい言葉リスト」に早速かきこみました。
日本では古より、同じようなシチュエーション(若い男性が結婚することを年配男性に伝える場面)で、年配男性は若い男性に「人生の墓場」「年貢の納め時」と恐怖を植え付け、刷り込みをしてきたわけですが、こういう言ってる人以外全員が不快になる言葉を使用することは、即刻禁止にしてほしいもんだよ。このアルベリアのシェフの言葉を読んで、私はこれと真逆な日本文化が悲しくなった。
シェフはその後も、サプライズで華麗に登場、結婚式での別れ際「嫁さんと、いつか生まれる子どもたちとすばらしく楽しい人生を謳歌するんだ」と主人公に言ったり、最後までスマートでかっこよすぎでした。
すっかりファンです。
きっとね、主人公もシェフのファンなんだろうな~と思うんです。
イタリア人というと、明るくナンパなイメージだけど、心から陽気で、家族を大事にしている。見習いたいなぁと思うような人たちがたくさん登場しました。
外国の本はあまり読んだことない人にも、これはおすすめしたい本です。 -
強い陽射しと吹きつける海風の美しい浜辺にうっとり、そして何度も生唾ごっくん。ああ、なんて幸せな幼少期の思い出なのでしょう。祖母が作るとびきりのオムレツ、婚礼やクリスマスのごちそう、村人たちみんなで分け合って食べた巨大なスイカ…。
味はわからずともおいしさは十分に伝わりました。
物語は円環を成すように、著者の小さな息子と著者の両親を交えてなつかしい浜辺へと向かう。もちろん、母特製のパンもたずさえて。この光景がいつまでも続きますように。
※今後、星をつけるのはやめました。星の数で悩むのがいやになりました笑 -
とにかく出てくる料理が食べたくなる。
よくわからない料理もあるので、それをぼんやり想像すると、ますます食べたくなる。
どれも家庭料理なのだと思う。それが、おいしさだけじゃなくてあたたかさも感じられて、とてもとても心地が良かった。
友だちや家族や犬や恋人たちとの関係をより彩り引き立てる料理の存在が、幸せな気持ちにさせてくれる。
特に家族との関係が素敵だった。
すごくあたたかくて、その姿に幸せを感じて、羨ましくてちょっと泣きたくなった。
アルベリアのシェフが好き。
とりあえずオムレツ作った。パスタ食べたい。美味しいオリーブオイル舐めたい。 -
イタリアのお話。おいしそうな表現がいっぱいで、思わずよだれが…
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読んでて、ただただ腹が減った。
仕方ないからサイゼに寄ってしこたまワイン飲んで帰るわ。 -
南イタリア カラブリア州出身で、アルバニア系移民のルーツを持つ著者の、料理とそれにまつわる記憶を元にしたエッセイ。幼少期に祖母と海辺で食べたオムレツサンドや、結婚式に出席したときに食べた郷土料理の数々などのいかにも美味しそうな料理と、それを一緒に食べた人たちとの幸福な時間の記憶がキラキラと輝いている。
オスマン・トルコ帝国の侵攻から逃れて船でアルバニアから逃れてきた人たちがイタリアで独自の文化を守っていることも知らなかった。
十分な収入を得られないために、故郷を離れ、ドイツに出稼ぎに行く人も多いようだ。郷愁にさいなまれながらも職を求めてイタリアやドイツの各地を転々とする姿にたくましさを感じた。家族や故郷、そして食事。自分の中に自らの根っことなるような記憶が確かにあれば、見失わずにすむのかな。
シチリア島を舞台にした映画「ニューシネマパラダイス」が大好きな私。フィレンツェ郊外で暮らしている日本人のチホさんのブログも好きで読んでいるのだけれど、チホさんの旦那さんのご出身がやはり南イタリアのプーリア州で、夏に帰省された際に海辺や小さな町の写真をupしてくださるので、私自身は南イタリアにはまだ行ったことがないけれど、なんとなく雰囲気を思い浮かべることができた。
美しい景色を見て、美味しい料理を味わうために、いつか南イタリアにも行ってみたい。 -
南イタリア・カラブリア州出身の作家が、家族と土地の記憶を食文化に乗せて語る自伝的短篇小説集。
イタリアンメニューを模した全16篇。
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出てくる料理の多くはイタリア(カラブリア)の伝統料理。大蒜、唐辛子マシマシ。日本人の私には読んでいるだけでお腹いっぱいになった(笑)
ああ、私は日本人なんだなぁ、と思ったり。
好きなシーンは主人公が16歳で初めて「本」と出会うところ。もう、最高。本好きは全員読んでほしい→
あと、全体的な構成が良い。とても良い。こういう流れ、大好き!
アルベリアのシェフがいい味出してるんだよなぁ。
あと、主人公の父親もね。昔のお父さんって感じ。
郷愁を感じないタイプなんで、その辺りは全く共感できなかったけど、南イタリアの空気を感じられて良かった。 -
「最高の調味料は空腹である」
幼年期・少年期の思い出は「セピア色」といわれるが、匂いや味もまた思い出の一つとなる。
美食とはいかないまでも、正月のお餅の焦げる香りや駄菓子屋の甘いおやつには、既に失われた人たちや遠い過去の風景を呼び起こすちからがある。
そしてこの本。
ワインとパスタとニューシネマパラダイスの国
(シチリアだったっけ)。
親しい人たちと笑いながら食べる幸せ。
物語の料理はどれも食べたことが無いはずなのに、なぜこんなに美味しそうに私を刺激するのか……。
さぁ、今日、誰と何食べる?