日本語の謎を解く (新潮選書)

著者 :
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (263ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784106037849

作品紹介・あらすじ

7カ国語を自由に操る言語のプロが徹底解説! 「は」と「が」はどう違うのか。「氷」は「こおり」なのに、なぜ「道路」は「どおろ」ではないのか。「うれしいだ」とは言えないのに、「うれしいです」と言えるのはなぜか。「穴を掘る」という表現はおかしいのではないか。……素朴な疑問に、最新の言語学で答えます。日本語の起源から語彙・文法・表現まで、73の意外な事実。

感想・レビュー・書評

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  • 副題が「最新言語学Q&A」となっていて、言語としての日本語に、起源・音声・語彙・文字・文法などなど、多方面からアプローチしたもの。「日本語本」は好物で、目につくと読みかけてみるのだけど、安直な内容で期待外れってこともある。その点、本書はかなり専門的な内容にも踏み込んであって興味深かった。

    著者の専門は中国語。「お言葉ですが」シリーズや「漢字と日本人」の高島俊男先生も中国文学の専門家だ。日本語を考えるには、漢字についてのきちんとした知識が必須だなあとあらためて思う。日本語は、もともとは文字を持たない言語であったが、中国から入ってきた漢字を取り込み、長い時間をかけて今のような姿になってきた。つい忘れがちなそのことの意味はとても大きいとつくづく思う。

    深い内容だが、Q&A形式で読みやすい。ただ、質問に対する答えになっていないのでは?と思われるところがいくつかあって、そこが若干気になった。

  • 同僚に借りて。
    大学時代に学んだ言語学を久しぶりに思い出しながら読んだ。筆者が外国語にも精通していることで、様々な言語との比較があり、とても興味深かった。

  •  高校で古典も教える、中国語が専門の著者が、日本語の音声、語彙、文法、表現について、73の高校生からの疑問に言語学の視点から答えたもの。母語なのでそもそも疑問を持ちにくいことについて、まずそういう疑問があることが分かる(母語の相対化ができる)ということに気づける点も面白いし、また回答もそんなに専門的過ぎず、割と分かりやすい。日本語学の入門書として位置付けられるかもしれない。
     これまで言語の本はたくさん読んだつもりだったけど、結局おれは英語が中心だったので、日本語についてはずっとモヤモヤするところもあったが、結構へえ、と思ったことも多かった。以下はその部分のメモ。まず「旦那」がサンスクリット起源で、donationにも通じる、つまり同語源(p.22)ってどっかで聞いたことあった気がしたけど、忘れていた。大学の時に「言語類型論」というのを知って面白そう、って思ったけど「言語類型地理論は多くの言語のデータをあつかわなければならず、簡単にはできないためか、研究している人はあまり多くありません。それでも比較的最近の研究成果として、松本克己の『世界言語のなかの日本語―日本語系統論の新たな地平』を挙げることができます」(pp.28-9)ということで、研究者が少ない、というのは初めて知った。あと、ところどころ参考文献を紹介してくれているのも良い。次に日本語の音声について、個々の音声の話も面白いけど、超分節音素の話、つまりリズムの話とか面白い。「日本語のリズムは四拍子が基本であるらしいという説が唱えられています。」(p.45)という部分で、三三七拍子も五七五も、結局「休み」の部分を入れたら四拍子、って気づかなかった。あと「反対の意味の言葉」についての質問があったが、「実は言語における『反対の意味』というのは、厳密に言うと『反対』ではありません。『男』の反義語は『女』ですが、『男』と『女』の意味を考えてみると、『人間であって、性を表す言葉』という部分は一致しており、その性別の部分が反対になっているだけです。つまり、反義語とは類義語の一種であり、ある一部分が違っている言葉のこと」(p.71)というのも納得だった。そして「少し意味がずれるだけで、『反対』になる」(同)ので、反対の意味に変わる言葉がある、というのも納得。英語だと意味変化のパターンで良化と悪化(cunningは悪化、niceは良化など)があるけど、それとも関連するのだろうか。あと「言語の恣意性」って言語学の基本だけど、その反対(擬音語とか)は、「有契性」って言うらしい(p.77)。そんな用語あったっけ。忘れていたのか勉強不足なのか。ちなみにarbitrarinessに対して何て英語で言うんだろう、って調べたら、motivationだって。へえ。あと、「誤用」について、「言語学的に言うと、一人だけが言い間違えるのは『誤用』ですが、集団で使われるようになると、それはもはや言語の『変化』です。」(p.84)というのは規範か記述か、の基本の話で、その後の「美しい言葉遣いだから正しいのではなくて、正しいと決めたから美しいと感じているだけ」(p.99)に通じる話。「古文に対して、『現代語とまるで違う』という印象を持つ人も多くいます。しかし、ある言語の基本的な単語のうち、千年の間に滅びたり意味が変わったりしてしまう単語は全体の二十パーセントだという研究があります。(略)平安時代によく使われる単語のうち、八割は生き残っていると考えると、少なくとも『まるで違う』とは言えないのではないでしょうか。古文の試験では、現代語と同じ言葉が問われることはありません。違う部分だけが問題になります。そのようなところも『古文は現代語とまるで違う』という印象を助長しているのかもしれません。実際、大学入試でも現代語と違う単語を三百ほど覚えればひとまず対応できるといいます。これは中学校で学習する英単語の半分以下にすぎません」(p.89)ということで、こういう感じで冷静に捉えると古文の苦手意識も薄らぐのかなあと思う。おれも高校の時古文がずっとできないと思っていたけど、古文単語覚えたらそれなりに解けるようになっていった記憶がある。あとやっぱり音声や語彙の話はふーん、って感じだけど、文法の話が難しいと思ってしまう。定番の「は」と「が」の違い、もそうだけど、主語の話について、「『そもそも日本語に主語はないのだ』と声高に主張する人もいます。しかし正確に言えば、主語とは、その概念を導入したほうが文法を説明しやすいかどうかの問題であって、『あるか、ないか』ではありません。少なくとも現代語では、述語に対する主格は論理的にあります。『走る』という動詞なら、走る誰かがいるわけですし、『美しい』といえば、美しい何かがある場合がほとんどです。一方で、与格(〜に)や対格(〜を)はそうではありません。このように主格が優位であるという事実を考慮するならば、主語という概念を日本語に導入することは合理的だと思います。」(p.152)ということらしい。やっぱり極端な人目をひきやすい主張って、冷静に考えた方がいいよな、という例。あと話法?の話で、「英語などのヨーロッパ言語は、原則としてものごとを客観的な視点から語る構造を持っています。ヨーロッパ言語を母語とする人たちにとっては、日本語のように登場人物の主観的な視点に同一化してしまう文は、理解が難しいと言われています。(略)主観的視点を客観的視点に変更して翻訳する際に、誤訳してしまう例を比較的容易に見つけることができました。」(p.159)ということらしく、確かに小説の文を定期考査で出そうと思うことがあるけど、結構そのまま出しづらいなと思う部分が多い理由の1つはこういうことがあるかもしれない。この日英対照をもう少し突っ込んだ本をもっと読みたいと思った。「あの犬、かわいい」の「あの犬」は、話し手の「主体的判断の向かう先を主語に立てることができる」(p.164)、つまり「主語の側に存在物をおき、述語にその話し手の判断、感情を置くことができる」(pp.164-5)というのは現代英語にない文法なので、理解が難しい。でも日本語を勉強する外国の人はこういうの勉強しているのか。あと、「名詞に似た形容詞なのに、『形容動詞』と呼ばれているのか私は疑問で仕方がありませんでした。(略)「あり」は動詞ですし、助動詞がつくのも動詞の特徴だからです。」(pp.191-2)ということで、時々英語の文法を教えていて、形容動詞は?とか生徒に言われて、いやいやとか思うことがあるけど、こういう事情があるらしい。あと日本語の過去(というか完了?)を表す「た」は、「『たり』が縮まった」(p.200)ものらしい。それも知らなかった。日本語の時制に関しては紹介されている『日本語と時間―<時の文法>をたどる』という岩波新書があるらしいので、これを読んでみたい。
     読む前は結構これ時間かかるかな、と思って敬遠してしまっていたが、読み始めたら結構楽しく読めた。高校生が考えた疑問、っていうのが、教員をやっているおれには良かったかもしれない。(23/12)

  • 著者の本を読むのは3冊目。披露する為の知識ではなく、疑問を解消し新たな学びを円滑に迎えることができそうな良い本でした。Q&Aが秀逸^^

  • 日本語だけを焦点に当てるのではなく、他の言語と比較するからこその日本語の成り立ち、疑問に答えていただけてスッキリした。しかもかなり論理的。疑問を疑問で残せなかった人なんだろうな。最後の文章が個人的にどんでん返しで好き。

  • 日本語学に興味がある人が読むのに良いと思う。
    変に俗説に偏らず、オーソドックスな先行研究を引いているので間違いなく薦められる。
    大野先生のタミル語の話見るとついクスッとしてしまう。
    時々着地点が流れる印象なのと専門としている人には易しいので目新しさはないかも、という点で星4。これから勉強する人には良著です。

  • 「は」と「が」に当たる助詞の使い分けがあるのは日本語と朝鮮語くらいしかなく、世界的に見ても非常に珍しい特徴。P139
    「が」は、基本的には動作を行う主体ににる「主格」を表す格助詞。p140
    「が」が主格を表しているのに対して、「は」は主題を取り立てるのが主な役割。p142
    英語などのヨーロッパ言語は、原則としてものごとを客観的な視点から語る構造を持っています。ヨーロッパ
    言語を母国語とする人たちにとっては、日本語のように登場人物の主観的な視点に同一化してしまう文は、理解が難しいと言われています。p159
    世界の言語の大半がSVOかSOVのどちらかになっている。

  • 学生から出された日本語についての疑問について答えると
    いう形で書かれた本。何となく、昔読んだサンポウブックス
    の「○○99の謎」というシリーズを思い起こさせる構成で
    ある。

    初心者にも読みやすく、なおかつ最新の言語学に裏打ち
    されているだろう内容は興味深い。参考文献も豊富に提示
    され、言語学・日本語学の入口としては申し分の無い本で
    あろう。

    ただ、一つの疑問に対しての回答が短めで、どうしても
    「浅く広く」という印象は拭えない。この本を読んでから
    参考文献に挙げられた各専門書に当たるのが正解だろう。

  • ↓貸出状況確認はこちら↓
    https://opac2.lib.nara-wu.ac.jp/webopac/BB00249776

  • 17/06/30

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著者プロフィール

1982年、埼玉県生まれ。慶應義塾志木高等学校卒、慶應義塾大学大学院文学研究科中国文学専攻博士課程修了。博士(文学)。慶應義塾志木高等学校講師(国語科)等を経て、現在、お茶の水女子大学基幹研究院助教。専門は中国語を中心とした文体論、比較詩学。著書に『7力国語をモノにした人の勉強法』(祥伝社文庫)『物語における時間と話法の比較詩学』(水声社)『物語論 基礎と応用』(講談社選書メチエ)『日本語の謎を解く』(新潮選書)『ノーベル文学賞を読む』(角川選書)などがある。

「2019年 『使える!「国語」の考え方』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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