宅配便130年戦争 (新潮新書 151)

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  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (207ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784106101519

作品紹介・あらすじ

日本人の暮らしを変えたコンビニ、自販機、宅配便。このなかで、民間宅配便業は、明治の「飛脚」以来百三十年間、常に官立組織の風下に立たされてきた。とりわけ、今日の「宅急便」を実現させるまでにヤマト運輸が監督官庁と繰り広げた闘いは長期に渡った。現在、民営化を控えた「郵政公社」が、民業に対抗し、宅配便事業を着々と進めている。国際資本の参入や、新事業の展開など諸問題を抱えた宅配便の未来は。

感想・レビュー・書評

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  • ここ数十年で、日本人の消費生活を大きく変えたのが、コンビニ、自販機、そして宅配便なのだという。
    確かに私が子どもの頃、家の近所にコンビニはなかったし、宅配便はもちろんなかった。
    自販機はあったけれど、これほどの数も種類もなかった。
    今では当たり前だというのに。

    そのうちの宅配便。
    江戸時代、荷物や手紙を運んでくれるのは飛脚だった。(民営)
    それが明治時代に郵政事業が国の事業となり、全国一律の金額で配達してくれるとはいえ、ポストや郵便局まで持ちこまなければならないし、サービスとしては明治に作られた法律から逸脱することなく、時代に合わないものとなっていた。

    そこに切り込んでいったのがヤマトだ。
    事業申請しても放置したまま認可しようとしない郵政省に、公開質問状を出したり、司法に訴えたり。
    世論を味方に少しずつ事業拡大しようとするヤマト。

    それに対して法律を盾に、大和の言い分を認めない郵政省。
    しかし、世の趨勢がそれを認めないことに気がつくと、今度はヤマトの牙城を切り崩しにかかる。
    官の権力を振りかざしてみたり、大きく値下げをしてみたり。

    10年ほど前の本なので、本当に明治維新から130年もの官と民で戦っていたんだということがわかる。
    法令を遵守するのが官の根幹とはいえ、利用者の利便よりも法令順守というのは本末転倒にしかならない。
    国家公務員として忸怩たる思いをかみしめながら読みました。

  • 今ごろ読んでみたが、歴史的な内容は読みごたえあり。外国通販企業にこの業界が荒らされてしまうことなど、当時は思いもよらなかっただろう。

  • 遡れば江戸時代の飛脚にたどり着く宅配便ビジネスだが、現代のモデルは戦後の高度成長の流れにのって登場・発展したものだ。その過程での、官 vs 民のバトルをまとめてくれた本。ビジネスモデルの萌芽期には、運輸省や警察庁など、道路・路線の許認可バトルが中心、そして、ある程度ビジネスモデルが完成してくると、郵政 vs ヤマトの既得権攻防が主な対立構図になる。DCOMO vs SoftBank の相似形とみれば面白い。

  •  日本が世界に誇るべき企業として、「製造業」で「ホンダ」「ソニー」があるとすれば、「サービス業」においては「宅急便」の「ヤマト」があると思っていたが、本書の明治以来の「宅配便」の歴史を読むと、その変転と企業の勃興は実に興味深いと思えた。
     明治初期の「飛脚便から宅配便まで」の歴史。「宅配便が変えた日本人の暮らし」の考察。「『官』と『ヤマト』の戦い」等を読むと、まさに時代と事業の変転を見る思いがした。
     本書の焦点が、「官」とリーデングカンパニーである「ヤマト」の戦いにあること、そして「ヤマト」が「官」との戦いに勝利しつつ企業規模と事業規模を拡大し、新たな市場を開拓したことは間違いがないのだろうが、いまひとつ「ビジネスモデル」としての深い検証が足りないようにも思えた点には不満が残る。
     さしたる知識はないが、佐川急便の労働者の労基法違反の激務が世間を騒がしたことがあるが、宅配便労働者の過重労働は、現在はどうなっているのだろうか。
     また、日本郵便では「郵メイト」という年収300万未満の非正規労働者が多数存在するとの問題があったと聞いているが、このような違法あるいは問題ある労務の存在はどうなのだろうか。
     もっと掘り下げた「ビジネスモデル」の観点からする考察が、本書には足りないようにも思えた。やや残念。

  • [ 内容 ]
    日本人の暮らしを変えたコンビニ、自販機、宅配便。
    このなかで、民間宅配便業は、明治の「飛脚」以来百三十年間、常に官立組織の風下に立たされてきた。
    とりわけ、今日の「宅急便」を実現させるまでにヤマト運輸が監督官庁と繰り広げた闘いは長期に渡った。
    現在、民営化を控えた「郵政公社」が、民業に対抗し、宅配便事業を着々と進めている。
    国際資本の参入や、新事業の展開など諸問題を抱えた宅配便の未来は。

    [ 目次 ]
    第1章 宅配便とは何か(「宅配便」とは何か;宅配便はどのように運ばれるのか ほか)
    第2章 宅配便が変えた日本人の暮らし(宅配便利用の風景;拡大する通信販売と産地直送 ほか)
    第3章 飛脚便から宅配便まで(古代の飛駅、中世の飛脚、近世の飛脚;飛脚便から郵便小包へ ほか)
    第4章 「官」と「ヤマト」との闘い(運輸省との闘い;郵政省との闘い ほか)
    第5章 宅配便の明日(メール便の拡充;生活支援事業への拡大 ほか)

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    [ 関連図書 ]


    [ 参考となる書評 ]

  • クロネコvsお役所と言うところか。ヤマト運輸の企業努力については他の本でも語られているので目新しいものはない。

  •  あるときサークルKに行くとクロネコの宅急便をとりあつかわなくなっていた。ぼくはその時、直感的に、これはきっと郵便局(総務省)の攻勢だと感じた。当時まだ郵政は民営化されていなかった。本書にはクロネコのヤマトとお上の「抗争」が生き生きと詳しく書かれている。家庭の小荷物をあつかったヤマトの宅急便は当時、大口しか扱わなかった運送業界の常識を破るものであったし、それを全国に届けることも当時は常識をはずれたものであった。ヤマトはお上に対しそれをねばり強く要求した。それに対するお上の態度はほおっておくというものだった。そんなとき、これまでなら民は泣きねいりをするのが常識だったが、ヤマトはそれを不作為の行為とみなし、裁判所に訴えるという手を使った。あるいは新聞紙上で、お上の道理のなさを訴えた。このお上に対する挑戦的な態度は痛快でさえある。既存の業者に対するヤマトの態度にまったく問題がなかったかどうか本書には書かれていないが、それはある意味自由競争の原理である。しかし、税制等優遇措置を受けている郵政公社が、その利点を利用し、料金を下げてヤマトをつぶしにかかる態度は許し難い。競争とは平等原則の上にこそ成り立つものであるからだ。このお上と民の抗争は実は明治以来130年も続いてきたことを本書は解き明かす。

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著者プロフィール

鷲巣 力 (わしず・つとむ):1944年生まれ。東京大学法学部卒業。平凡社に入社し、林達夫著作集や加藤周一著作集の編集に携わる。雑誌『太陽』編集長、同社取締役。退任後はフリー編集著述業を営み、立命館大学加藤周一現代思想研究センター設立時に同センター長に就き、現在、同研究センター顧問。著書に『加藤周一を読む』(岩波書店)、『書く力──加藤周一の名文に学ぶ』(集英社新書)など多数。

「2023年 『丸山眞男と加藤周一 知識人の自己形成』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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