言語世界地図 (新潮新書 266)

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  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (215ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784106102660

感想・レビュー・書評

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  • 雑誌「フォーサイト」の連載をまとめたもの。各言語を4ページずつで解説する単調な構成だが、読み始めるとぐいぐいと引き込まれた。言語学的な解説はさておき、それぞれの言語の話者の分布、民族や宗教との関係、言語の系統や同系言語との相互理解ができるかどうかなどが盛り込まれている。使用文字が同系統の言語間で異なる場合があることや、その背景に宗教や地域支配の歴史があったりすることがおもしろい。

    ・メディチ家の支配するフィレンツェがルネッサンスの中心地だったため、トスカーナ地方の方言がイタリア語の標準になった。
    ・セルビア語とクロアチア語はほぼ相違がないが、セルビア人は東方正教系でキリル文字を用い、クロアチア人はカトリックでローマ字を使う。
    ・ハンガリー、ポーランドはカトリックでローマ字を使う。チェコ、スロバキアもローマ字を使う。
    ・ハンガリーは、5〜6世紀に中央アジアでマジャール人とトルコ系のオノグル族が共存していたため、周辺諸国がUngariaと呼んだことに由来する。
    ・中世以来、チェコはドイツの支配下に、スロバキアはハンガリーの支配下にあったが、ほぼ完全に相互理解できる。
    ・11世紀後半から3世紀にわたってノルマンディー公国出身の王族がイギリスを支配したため、英語にはフランス語起源の外来語が非常に多い。20世紀初頭まで外交文書で用いられていたのはフランス語で、英語が使われ始めたのは1919年のベルサイユ講和条約以降。

    ・スリランカでは、19世紀以降のイギリスによる植民地支配下で、南インドから労働力として連れてこられた多数のタミル人がタミル・イスラーム解放の虎(LTTE)につながった。
    ・ラオ語とタイ語はタイ諸語に属し、非常によく似ている。ラオ文字はクメール文字を基にしたもの。
    ・ウイグル語は中央アジアのイスラム世界の共通語として使用され、アラビア文字を改良したウイグル文字を使用している。
    ・広東語は北京語とは相互に通じない。華僑の約4割が広東語話者。
    ・台湾では、17世紀に支配し始めたオランダやスペインによって中国本土からの漢民族が移住し、福建省出身者が8割以上を占める。台湾語は福建省の?南語と同一で、北京語とは相互に通じない。
    ・韓国語と日本語の文法はとても似ているが、基本語や音にはかなりの相違がある。
    ・アラビア語の口語は地域によって意思を通じあえないくらいの違いがあるが、文語は地域全体でほぼ共通で、放送、演説、儀式などで用いられている。
    ・アフガニスタン北部のダリー語とタジキスタンのタジク語はペルシャ語と同一。アフガニスタン南部のパシュトー語とは互いに理解できない。タリバンはパシュトゥーン人中心で、北部同盟はダリー語民族主体。

  • 一見『世界の言語入門』と似ているが、かなり毛色が違う。本書で取り上げられているのは、世界46の主要言語だ。既に休刊してしまったが、『フォーサイト』という国際情勢誌に連載されたものを元にしているだけに、経済的な影響力の強い大言語のみについて書かれている。オーソドックスな解説だが、言語の話だけでなく、歴史や政治についても言及されていて、これはこれで面白い。

    それにしてもアジアは、言語的に見てもヨーロッパよりもずっと複雑で、多様である。ヨーロッパの言語のほとんどは印欧語族に属し、ごく例外的にウラル語族、コーカサス諸語、バスク語があるのみである。それに対し、例えばインドシナ半島5ヵ国の主要言語だけを見ても、オーストロアジア語族(ベトナム語・クメール語)、タイ・カダイ語族(タイ語・ラオ語)、シナ・チベット語族(ビルマ語)の3つの異なる語族があるのだ。

    タジキスタンのタジク語とアフガニスタンのダリー語が、ペルシア語とほとんど同じというのは知らなかった。また、インドに次いで公用語の数が多いのは南アフリカで、11種類もあるというのも初めて知った。11種類のうち、英語とアフリカーンス語以外は全てバンツー系の言語(ニジェール・コンゴ語族の一部)であり、そのうちの一つは「ン」で始まるンデベレ語であり、別の一つは、吸着音があることで有名なコサ語である。

    あとがきにある「世界の言語状況に関する知識は、世界情勢の正しい理解に大いに役立つ」というのは、全くその通りだと思う。民族とはすなわち言語であり、民族紛争は言語間の争いであると言ってもいい。言語を通して眺めた世界は、国ごとに一色に塗りつぶされた世界地図よりもずっと真実を表していると思う。

  • 言語学者である町田先生が書いた色々な国の言葉に関するコラム集。

    各言葉でそれぞれ内容が簡潔してるので、どっからでも読めます。
    ただ膠着語とか孤立語とか文法事項など少し内容が言語学に偏ってるので、その国の文化を知りたいっていうよりは純粋に言語に対して興味がある人向けです。

  • なんでも、世界で使われている言語は6000も7000もあるとのこと。
    (ただ、違う言語といってもお互いの意思が通じるものもあるし(例:スウェーデン語とノルウェー語など)、同じ言語といっても、あっちの方言とこっちの方言ではまったく意思が通じない(例:広東語と北京語)なんてものもあるとのこと)

    ほぼ単一言語とみなせる日本にいるとわすれがちなのですが、
    言語の違いが人々の相互理解を妨げ、国家としての発展が妨げられているケースが多々あることを、
    改めて思い出します。

    オーストラリアの英語が結構発音が違うのがあるは知っていたんだけど、インドの英語もかなり違うみたいですね。Hinglishという言い方をするときがあるそうです。このネーミング笑える。

    古代インカの末裔の言葉も残っているのですね。ケチュア語というそうです。
    マヤにしてもアステカにしても高度に発展していた文明ですね。紙の記録が残ってないのは本当に惜しい。


    ニュースなどで世界情勢が報道されているときに、その地域での言語状況や歴史、文化がどのようなものであるのか知っていれば、同じ事態であってもその理由や背景をもっと深く推察することができます。
    また、交渉相手の出身地のそれを知ることにより、相手がどんな考え方をするのかの手がかりが得られるでしょう。

    こういうものを積み重ねていけば、少しは「勘」がはたらくようになるはずと思います。

    2009/05/31

  • 町田健が新潮社発行の月刊紙『フォーサイト』に連載した記事をまとめた世界で使われる言語についての書。

    世界には6千から7千の言語が存在するということ、
    ほぼ単一言語と言っていい日本に住む人間としては、こんなにも言語が存在することに驚かされる。

    本書では、その一部、といっても主要な言語について、その発達や特色が解説されている。

    「第1章 ヨーロッパ」では19言語、「第2章 アジア」では14言語、「第3章 中東、アフリカ」では10言語、「第4章 アメリカ大陸、その他」では4言語、合計47言語についてそれぞれ4頁程度で解説されている。

    一冊の本にまとめられているのはありがたいが、やはり月刊誌などで少しずつ読むのに適した内容に感じた。

    ----------------
    【内容(「BOOK」データベースより)】
    世界に存在する言語数は七千にも及ぶ。単純に計算すると、一つの国で何と三十以上もの言語が使われていることになる。その中から四十六の主な言語を取り上げ、成り立ち、使われている地域、話者数、独自の民族文化を徹底ガイド。言葉を使うとは、単に他者に意味を伝達するだけではない、社会的なアイデンティティーを表すことでもある。言語の奥深さ、多様さ、面白さ、そして社会情勢にかかわる背景などを紹介する。
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    【目次】
    はしがき

    第1章 ヨーロッパ
    スペイン語、ポルトガル語、イタリア語、フランス語、バスク語、アイルランド語、オランダ語
    ワロン語・フラマン語、ドイツ語、ギリシャ語、ルーマニア語、セルビア語・クロアチア語、ハンガリー語、チェコ語・スロバキア語、ポーランド語、フィンランド語、スカンジナビア諸語、バルト三国、ロシア語

    第2章 アジア
    タミル語、インド英語、シンハラ語、ベトナム語、ラオ語、ウイグル語、チベット語、モンゴル語、広東語、台湾語、韓国語(朝鮮語)、日本語

    第3章 中東、アフリカ
    アラビア語、ペルシア語、トルコ語、アフガニスタンの公用語、チュルク諸語、グルジア語、クルド語、ヘブライ語、スワヒリ語、南アフリカの公用語

    第4章 アメリカ大陸、その他
    英語、ケベックのフランス語、ケチュア語、国連公用語

    終わりに
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  • 言語学としての分類だけでなく、言語からみた世界情勢についても述べられていて面白かった。

    章の構成が地域毎になっているので、後から興味のある国・言語だけを絞って読むことができるので便利。資料集のような感覚。

    大学の時にもう少し言語学の授業を真面目に受けてれば良かった。

  • 最近、世間の英語崇拝に時折気持ち悪さも感じることが多い。
    しかし本書を読んでいると、英語はあくまで「たまたま」歴史のいたずらで共通語に近い現在地位を得ただけであって、唯一絶対の言語ではないと気づくことができる。世界には実にたくさんの言葉が溢れていて、人々はそれぞれの母語を通して世界を見ている。言語の側面から国家、民族についての見識を深めることができる良著だ。

    パッと見、ギリシャ語が一番難しそうだった。
    名詞、動詞が非常に複雑に活用する上に、動詞ほとんどが不規則動詞。いつか手をつけてみたいものだ。

  • 各地域の言語の成り立ちにつき、その言語的な特徴、歴史的背景を解説した本。 語学の勉強が嫌いな僕としては、こういう本を読んだら意外と勉強する気も沸くのでは?と思って読んでみましたが、なーんもかわりませんでした。 

  • 世界各国、地域の特徴と使用されている言語の案内。

    日本以外にも日本語と同じ膠着語が意外と多いことや、世界各地で使われている英語が言語的に見ると珍しい特徴を持つことなど、気付かされることもあるが、網羅している地域、言語が多いため、各言語の特徴は簡潔に書かれており、言語の入門としては不足。

    雑学的な感覚で世界各地域の知識を得るには良い内容だと思う

  • 「言語世界地図」というタイトルだけど、民族の歴史や経済、文化なども折り込んで説明されていて面白い。
    言語は、文化だけではなく、人種、国、宗教、歴史など色々なモノから形成されてきたのだなと分かります。
    だから民族≒言語になりうるのだなと思いました。

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著者プロフィール

1957年福岡県生まれ。東京大学大学院人文科学研究科博士課程単位取得。
現在、名古屋大学教授。専門は言語学。
著書『言語学が好きになる本』『生成文法がわかる本』『日本語のしくみがわかる本』(以上、研究社)
『チョムスキー入門』『ソシュール入門』(以上、光文社新書)『言語世界地図』(新潮新書)ほか。
フジテレビのクイズ番組「タモリのジャポニカロゴス」に解説者としてレギュラー出演

「2009年 『変わる日本語その感性』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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