本当に偉いのか あまのじゃく偉人伝 (新潮新書)

著者 :
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784106106880

作品紹介・あらすじ

坂本竜馬は結局何をした? 評価が上げ底されがちな明治の偉人、今読んでもちっとも面白くない文豪、宗教の“教祖”まがいの学者……「裸の王様」をブッタ斬る、目からウロコの新偉人伝!

感想・レビュー・書評

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  •  特に面白かったところをピックアップすると、【日本文化の精髄は、中世以前の文化にこそある。】は、今後のヒントになった。
     この本は「崇拝批判」である。とくに「西洋崇拝」と「明治崇拝」がターゲットだ。比較文学の手法が必要で、「明治の文人は、何をどれだけパクったのか」または「凄いと言われる人はどこまでがパクリで、どこまでがオリジナルなのか」を明らかにし、人格者のように仕立て上げられることを阻止する。へんに深読みせず、文章を文章のまま受け取り常識で考える。小谷野氏はずっとそれをやってきたので、この本でもだいぶ、成功していると思う。

     【夫婦別姓がどうとか言われているご時世に、松岡陽子マックレーンとか、ソントン不破直子とか、日本人女性が西洋人と結婚すると、複合性を名のったり、中には日本姓を捨てた名を名のる人すらいる。ところが、東洋人と結婚して姓を変えた人というのを私はいまだに知らない。このことは日本人の西洋崇拝がいかに根強いかの証拠だと言っても過言ではあるまい】のところとかは、とても良い。外人と付き合う女はなぜ顎がじゃっかんしゃくれているのか? 妙に笑顔を生き生きしているのかとか、女性の不思議には興味が尽きない。女性は、男性とは違う、階級の使い方を持っている。男性と女性での階級とは何かの違いがここにある。

     あと、カントについて【キリスト教にからめとられてきた西洋哲学を解き放ったのが「純粋理性批判」である。倫理は実践において現れるという主旨が「実践理性批判」である。「判断力批判」は美学で、芸術のよしあしの判断は、ある共同体において行われるということを言っている。学問の考え方の基礎を作った人である。】とかめっちゃわかりやすかった。これだけで新書一冊分だ。

    【世間では理性によってよくなったはずの近代社会がなぜアウシュビッツを生み出したのか、という言い方をするが、それなら文化大革命やポル・ポトだってあるし、イスラムのテロだってある。アレントはヒトラーやスターリンが、近代の資本制社会が生み出したものと考えているようだが、歴史を見れば、独裁や大虐殺などはいくらもであるのである。】というのも、とても良かった。詩を書くのは野蛮だ、のことだが、東北の震災についての詩を書いたら、それは偽物だとか、そういう歴史的トラウマには詩は表現できないというが、では戦国時代の物語や、各地で歌い継がれている詩はなんなのか。震災について書かれた詩は、たんにクオリティが低いだけであり、野蛮でも何でもないのではないか。アメリカ人とかのものすごい詩人が、震災の詩を英語で書いたら、ものすごくありがたがったのではないか。
     これは【日本人はどうも、日本文化を理解する西洋人というと、涙を流して「うわあああ西洋人さまが日本を理解してくださったあ~」と随喜渇仰するような西洋崇拝の人が多い】という小谷野氏の指摘にも、つなげたいし、つながる。そして、【赤羽栄一は、シーボルトが帰国後書いた『日本』で、林蔵が発見した海峡を「マニワノセト」と名づけたことから間宮海峡ができ、シーボルトを「日本の恩人」と呼ぶ人に対して、では坪内逍遥がシェイクスピアの全作品を翻訳したからといって、逍遥を「英国の恩人」と英国人が言うか、と喝破した】というのもそうだ。
     面白いこと満載だ。
     216ページ田山花袋のところで、「解説で徹底批判される例」だが、「文庫版の解説」という条件でなければ、解説批判というのは色々とあると思う。現代詩文庫の蒲原有明詩集における寺田透の解説は、徹底批判に見える。(たぶん)

  • まあまあ
     これは著者の本のなかでもあまり好きではない――つまり、あまりいいとは思へない本だ。世間が称揚してゐる人物を疑問視して、埋れた人物を掘りおこさうとしてゐる。
     しかし書き方がよくないと思ふ。初心者には細かすぎることまで書いてあるし、世界史や日本史など、歴史記述については、もうすこしわかりやすく書いてほしかった。
     あと、著者の専門が比較文学だから仕方ないのだが、藝術や歴史関連の偉人に偏ってゐる。ニュートンやアインシュタインなど、科学史方面からネタをひっぱってきてもよかっただらう。

  • 普通に本を書いても売れない出版不況が来ています。

    では、売るために何をすべきか?

    それは、いい意味でも悪い意味でも、注目されることです。

    良い本を書けば注目されるのではなく、注目された本がよい本になるのです。

    その手段の1つとして、炎上商法は有効です。

    ただし、それなりの覚悟とキャラづくりが一致していなければ、一方的にバッシングを浴びるだけの一発屋で終わります。

    さて、著者の小谷野敦氏ですが、本人自身が天の邪鬼で世をすねた人物でもあるためか、かなり意地悪で批判的な言動も板についていますし、それなりの知識量もあるため、反論や喧嘩OKという無頼派批評家としての立場を獲得しています。

    「本当に偉いのか」というタイトルも当然、偉人を批評できるほどあんたが偉いのか?という反応が返ってきますが、内容はどれもさほど断定的な評価はしていません。

    おそらくその理由は、偉人とはその道で残した業績のみで評価されるべきなのか、それともその人生そのものが品行方正で女や金や名誉に恬淡としていることまでも要求されるのかという評価の前提がはっきりしていない点にあるような気がします。

    となれば、著者の好き嫌いという個人的な嗜好がメインで判断されてしまい、実際、ほんの些細なエピソードで断罪される偉人たちを見るとその評価自体の客観性にも疑問符をつけてしまいます。

    とはいいながら、おそらく読者はそれほど厳密な評価論を期待しているわけでもなく、気軽に斜め読みできる本でもあります。

    追記ですが、オギノ式で有名な「荻野久作」の項で、さらっと自身の誤読の告白をしていますが(P181)、その理由が筆者の表現不足に苛立ったせいと責任転嫁をしていますが、彼もまったく潔くありませんね。

  •  明治時代の「偉人」、世界史上・日本史上の「偉人」、現代の大物文化人など、「偉人」として扱われることの多い人々を一人ひとり俎上に載せ、“世間で言われるほど偉人ではないのでは?”と辛口批評していくコラム集。
     最後の第6章は逆に「本当は偉いぞ偉人伝」と銘打たれ、“世間では過少評価されているが、じつは偉人だと思う”人を取り上げている。

     人物評コラムとしての出来不出来に、かなりバラつきがある。
     たとえば、ガンジー(本書の表記はガンディー)や坂本龍馬についての項は、大物偉人にもかかわらず扱いが雑で、「えっ、たったこれだけ?」と拍子抜けする。とくに龍馬については、ほとんど“大河ドラマの中の龍馬像”に触れているだけで文章が終わっている。

     いっぽう、日本の文学者についての項目は、さすがに著者の専門分野だけあって、総じて読み応えがある。卓見が多いし、勉強にもなる。
     とくに、夏目漱石や中島敦に対する過大評価の要因を分析したくだりなど、なるほどと膝を打った。

    《はじめは「明治の偉人」にするつもりだったが、範囲を広げて、だいたい物故者中心に、また明治以前、海外も含めて並べることにした。》

     ――と「はじめに」にあるが、そうした経緯のせいか、第1章「上げ底された明治の偉人」が最も面白く、内容にも力が入っている気がする。
     最初の意図どおり、「明治の偉人」だけで一冊にすればよかったのに。

  • 著者の作品は、何冊目だろう。
    いつもテーマが面白いので、読みたくなってしまう。

  • 相変わらず捻くれまくった感じの論評が面白い。

  • 歴史上の偉人が本当に偉いかどうか作者が斬っていくスタイル。上げ底された偉人や誤解の多い偉人、本当に偉い偉人など収録されている人物は多い。
    自分的には「偉い」の定義が提示されていないようなので納得できる人物評もあるが、坂本龍馬のように大河ドラマの話から入りフットワークが軽いだけで偉くないと断じるのには疑問が残った。
    また中島敦は原典が元ネタで他のオリジナルも面白くないとのこと。古典に自分の感性を載せたのだからアレンジャーは偉人になれないということのようだが死後80年くらいたっても読み継がれているのだから十分凄いとは思う。

  • 兼常清佐の考え方にまったく賛成。やはり録音とライブは比較できないと思う。読んでみたい。→小谷野敦さんから理解が間違っているとの指摘をいただく。ありがたい。

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著者プロフィール

小谷野 敦(こやの・あつし):1962年茨城県生まれ。東京大学文学部大学院比較文学比較文化専攻博士課程修了、学術博士。大阪大学助教授、東大非常勤講師などを経て、作家、文筆家。著書に『もてない男』『宗教に関心がなければいけないのか』『大相撲40年史』(ちくま新書)、『聖母のいない国』(河出文庫、サントリー学芸賞受賞)、『現代文学論争』(筑摩選書)、『谷崎潤一郎伝』『里見弴伝』『久米正雄伝』『川端康成伝』(以上、中央公論新社)ほか多数。小説に『悲望』(幻冬舎文庫)、『母子寮前』(文藝春秋)など。

「2023年 『直木賞をとれなかった名作たち』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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