木洩れ日に泳ぐ魚

著者 :
  • 中央公論新社
3.22
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本棚登録 : 1840
感想 : 312
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  • Amazon.co.jp ・本 (263ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784120038518

感想・レビュー・書評

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  • 寝れない夜に色々と考えて不安に思っていたことは、朝になると実は大したことではなかったり、忘れてしまうことがある。朝は昨日までの思いや考えリセットして、新たに一歩を踏み出すための儀式のような感覚がある。昨夜、色々と考えていたことが、やはり考えるべきことであれば、朝になっても覚えているし、取るに足らないこと、考えるべきでないことは、忘れてしまう。不安定な感情、意識を沈める、不必要な記憶の削除…それが朝を迎えるということであるように思う。

    そういう点で、本作の設定に少し疑問を持ちながら読んでしまった。

    「恩田陸にしか書けない、緊迫の舞台型ミステリー 舞台は、アパートの一室。 別々の道を歩むことが決まった男女が、最後の夜を徹し語り合う。 初夏の風、木々の匂い、大きな柱時計、そしてあの男の後ろ姿——共有した過去の風景に少しずつ違和感が混じり始める。 濃密な心理戦の果て、朝の光とともに訪れる真実とは。 不思議な胸騒ぎと解放感が満ちる傑作長編! 「一つの部屋に、男女が一人ずつ。具体的な登場人物はこの二人だけ。そして、章ごとに男の視点と女の視点が入れ代わる。 読み進むうちに、どうやら、二人は今まで同居していて、引っ越しを決め、最後の夜を共に過ごそうとしていると分かってくる。 そして、さらに読み進めれば、二人はある殺人事件に関わっているのかもしれないという予感がしてくる。 ……まだ、小説を読まないまま、先にこの解説を読み始めた人に伝えられるのはここまでです。」 (解説・鴻上尚史 Google booksより)


    男性・高橋千浩と、女性・藤本千明(高橋美雪)はふたりの最後の一夜に別れに至った経緯を振り返る。その振り返りの中で、欠如している記憶と事実を繋げるために、欠如している理由を推理していくのどが、千明の推理に少し無理があるように思える。

    忘れている記憶は忘れようとした記憶なのかと、思わせておきながら、彼らの明日がそれによりどう変わっていくのか理解できず、結局、最後まで消化不良で終わった。

    一夜の中で変わっていく二人の心の方向が、情緒的に表現されている。ガス自殺の映画の話など読んでいて心理的な閉塞感と切迫感がある。
    ただ、この作者にいつも感じる不思議な感覚は、本作でも感じられた。

  • 恩田陸さんは本当にジャンルが広いんですね。
    これまで読んだどの恩田作品とも違った雰囲気でした。
    男女が夜を徹して語り合う変わったミステリーで、一晩で、しかも部屋の中だけで、どんな結論が出るのかと想像がつきませんでした。
    不穏さや感情の起伏が丁寧で、前半の心理戦は特に読み応えがありました。
    何をもって愛情となるのか、この物語ならではの解釈だったところと、
    時折登場する「木洩れ日に泳ぐ魚」の比喩と思われる描写が、なんとも危うくて無力さが漂う綺麗な文章だったところが良かったです。

  • 同居生活を解消しようとする男女の、一夜の物語。
    始まりはある男の死だった。
    彼を死に追いやったのは彼だったのか。彼女だったのか。
    そして二人の間にあった愛とは何だったのか。

  • 心理戦で、感情の描写がメインだけれど、心に響くことがなかったです。主人公たちの関係が、共感しずらい境遇、というのもあるのかも。サスペンス的な要素もありますが、驚くような展開もなく、しずかに終わる物語…という印象です。

  • 数時間の時間の流れを、この分量で表現する恩田陸。
    力量を感じる本である。
    お互いの視点で物語を進行させようとしている点も面白い。
    いろんな点でずるい男。
    感の働きすぎる女。
    テーマ性は強く感じることができなかったけれど、
    話はそれなりに面白いので
    何か読みたいなーという人にはおすすめかも。

  •  男女が酒を飲みながら話しているだけなのに、ヒリヒリするような息苦しい緊張感が漂っている。高い塀の上を歩いている二人が落ちないか、ハラハラしながらみているような緊張感こそが本作の面白いところだろう。二人の会話だけでここまで物語を深められるのはさすが恩田陸と唸ってしまう。
     「執着」「酷薄」相反するような感情に囚われてしまいそうで常に恐れを胸に抱いている登場人物たち。物語は非現実的な設定であり展開であるが、緊張感にとらわれていて途中では気にならない。ただし、終盤、朝が明けてくるあたりから緊張感が狂気と倦怠に変わり、魔法が解けたように、非現実感が押し寄せてくる。最後の30ページくらいが残念なほど、つまらない。勿体ない・・・。最後が上手く書けていたら、☆4つだったのに。

  • 3.4
    心理戦です。
    内容の殆どがその描写につかわれてます。
    サスペンス風でもあり、ミステリーでもあり、
    読むのはちょっと疲れます。

  • 別離を決めた男女、最後の日の有り様。
    とある事件をきっかけに二人の関係は破綻。
    その事件の真相を2人で語る、と言うもの。
    緊迫した雰囲気の中、過去や現在、未来にも亘り真相を探るべく二人の話は続く。
    たった一晩の出来事とは思えないような濃密な夜。
    ヒロとアキの葛藤。
    真実を知ることが正解とは限らない。

  • 妄想二人劇。
    久しぶりに読む恩田さん。何が始まるのかと序盤の手探り感が面白かったが、読み進めるにつれ、不満や反目の理由を妄想に求め、それがあたかも真実であると信じるのは関係を終わりにしたかっただけで、事実を確かめるという発想にならない二人の稚拙さに緊迫した心理戦とはちょっと違うのでは?と思った。
    主筋に挟み込まれるいくつかのエピソードも散漫に感じ、ラスト数ページも私にはげんなり、、、であった。多分雑誌連載で小出しに読んだらハラハラドキドキしたのかも。朝ドラと同じで。

  • 久しぶりに読んだ恩田陸。
    ドキドキしながら、たまに背筋がぞっとする場面もあり、一気に読んだ。
    やっぱり恩田陸はこのドキドキ感がたまらない魅力!
    だんだん明らかになっていく真相と2人の関係が、スリル満点に描かれている。

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著者プロフィール

1964年宮城県生まれ。92年『六番目の小夜子』で、「日本ファンタジーノベル大賞」の最終候補作となり、デビュー。2005年『夜のピクニック』で「吉川英治文学新人賞」および「本屋大賞」、06年『ユージニア』で「日本推理作家協会賞」、07年『中庭の出来事』で「山本周五郎賞」、17年『蜜蜂と遠雷』で「直木賞」「本屋大賞」を受賞する。その他著書に、『ブラック・ベルベット』『なんとかしなくちゃ。青雲編』『鈍色幻視行』等がある。

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