鬼才伝説 - 私の将棋風雲録 (単行本)

著者 :
  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (268ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784120050541

作品紹介・あらすじ

プロ棋士として数々の伝説を作った鬼才であり、同時に「祈り」のもとに一手をさす敬虔なクリスチャンでもある。
小学校入学前から将棋を始め、小学4年の時に新聞で将棋の観戦記を読んだことをきっかけに大人と対戦するようになった。小学6年で棋士養成機関である奨励会に入り、日本将棋連盟関西本部(大阪)に通い始める。すぐに頭角を現し、指導の場に居合わせた升田幸三棋士から「この子、凡ならず」と評された。また大山康晴棋士からは「大神武以来の天才」と言われた。
数々の勝負の中で、82年の名人戦で中原誠名人との対局は、歴史に残る名勝負となった。3勝3敗、持将棋1回、千日手2回の激闘の末、10局目で、念願の名人のタイトルを獲得した。その後、羽生善治棋士、谷川浩司棋士など若き新鋭との激戦を繰り広げた。
還暦となってもA級に在籍したが16年12月藤井聡太四段のデビュー戦となった竜王戦ランキング戦での対局は、年齢差62歳6カ月の対局として話題となり、対局は藤井四段が勝利。現役引退が決まった。

将棋では、銀将でストレートに攻める「棒銀」を得意とした。対局では、1手を考えるのに何時間もかける「長考」が多かったが、中盤までに持ち時間を使いきり、1手1分以内に指す「秒読み」となっても好成績を挙げ、「1分将棋の神様」とも呼ばれた。長いネクタイがトレードマーク。
記録係に「あと何分」と自分の残り時間を繰り返し尋ねる、旅館の滝の音が気になり止めてもらう、昼も夜もうな重の出前を取る、など対局中の逸話も多い。

本書は将棋棋士・加藤一二三が激動の将棋人生を振り返った自叙伝の決定版である。

感想・レビュー・書評

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  • 小学校の修学旅行は旭川へ行きました。お小遣いは5千円でした。そのお小遣いで唯一買ったのが、加藤一二三さんの詰将棋の本。当時は将棋に夢中でした。
    一地方の将棋少年だった当時の筆者からすれば、加藤さんは、まさに雲の上の人。雲の上どころか、神様のように崇め奉っていた記憶があります(事実、加藤さんは「神武以来の天才」と謳われました)。
    その神様のような加藤さんが後年、ゲームのキャラクターみたいな愛称を付けられ、若手芸人にいじくり倒されるようになるとは一体、誰が想像できたでしょう。
    本書は、今やお茶の間(死語か)で見ない日はないというほど、テレビに引っ張りだこの加藤さんの自伝。史上初の中学生棋士としてデビューするや順調に昇級し、弱冠20歳で名人戦に挑戦、第7期十段戦で十段獲得、その後奪還されるも、再び奪取し十段を2期保持、さらには初挑戦から実に22年の歳月を経て名人位を獲得するという、起伏に富んだ将棋人生が語られます。
    白眉はやはり名局の数々。当事者によって語られるだけに臨場感と迫力があります。特に1973年の第32期名人戦七番勝負で、中原誠名人と繰り広げた十番勝負の激闘には圧倒されました。棋士たちが盤上で繰り広げる真剣勝負は「芸術」だというのも頷けます。
    「升田九段は一言でいうと学究派、大山名人は意地や気合で指している」「(谷川さんの)あの老練さは生まれつき備わったものではないかとさえ思う」「(羽生さんは)もともと性格的に覇者的な資質を濃厚に持っているのだろう」など、独特のライバル評も読みどころでしょう。
    本書を読むまで知りませんでしたが、加藤さんが敬虔なクリスチャンであることは、加藤さんの将棋人生に大きな影響を与えているようです。「どんな時でも私のことは神におまかせしている。何か必要とあらば、神は私にメッセージをくださると信じている」との言葉から、厚い信仰心が伝わってきます。加藤さんにとって信仰と将棋は不可分なのです。
    さて、公式戦勝利の史上最年少記録(相手は加藤さん)など数々の記録を塗り替える快進撃で藤井聡太六段が注目されていますが、実は藤井六段には加藤さんを超えられない記録があります。18歳でA級八段というとてつもない記録です。
    加藤さんがいかにすごい人なのか、若い人たちにも分かってもらえるのではないでしょうか。ケータイ会社の会長さんに扮して呵々大笑している好々爺なんかでは決してないのです。

  • 最近の将棋ブームの礎を築いた功労者。
    メディアに出るのも、ブームで終わらせないために、尽力されているのだと思う。

  • ===qte===
    あとがきのあと「鬼才伝説」 加藤一二三氏 対局を後世に残すのが使命
    2018/6/9付日本経済新聞 朝刊

     バラエティー番組で得意の歌を披露したり、CMで会社の会長役を演じたりして、すっかり愛されキャラが定着した「ひふみん」が自らの半生を振り返った。繰り広げてきた数々の名勝負、魅力的な棋士たちの姿、趣味のクラシック音楽、芸能界での活動など話題は多岐にわたる。
     相手の気持ちを推し量る姿勢を重視する将棋界では、自分の対局を詳細に語る棋士は珍しい。転機となった番勝負に臨んだ際の心境や、対戦相手の様子を伝えるのは使命だと話す。「バッハやモーツァルトのクラシックが現在に伝わるように、私の名局も後世に残したい」。だからこそ、対局の背景や名局たるゆえんを自分の言葉で分かりやすく解説する。
     現役時代は、畳につくほどの長いネクタイや、相手の背後に回って盤面を見る「ひふみんアイ」などの振る舞いでも注目を集めた。藤井聡太七段が塗り替えるまで、最多連勝記録を保持していた神谷広志八段とのやり取りは読みどころだ。
     思うところがあって対局前に盤の位置を変えたところ、神谷八段は元の位置に戻すよう主張した。その後、後輩の神谷八段が仲裁者の言葉に従って妥協したが、「先輩が後輩をねじ伏せた形になるので」くじ引きで決めることを提案した。盤外の神経戦の様子も興味深い。
     「誰にでも読んでもらえる内容」という本書だが、トップクラスで活躍するある棋士にだけは見てほしくないと言う。自分のコメントに反応が薄かった彼に本書で苦言を呈したからだ。「思ったことを正直に書いたけれど、今は言いすぎたと気にしている」。意外と繊細な面もある。
     引退後も客員教授を務める大学の講義やテレビの収録を積極的にこなすが、「テレビに出る以上は視聴率はとるのは当然でしょう」とどこまでも前向きだ。芸能界では「歌手になりたい」と新たな目標を見つけ、これからもますます活躍の幅を広げそうだ。(中央公論新社・1500円)

     (かとう・ひふみ)1940年福岡県生まれ。54年に当時の最年少記録でプロ棋士になる。通算成績は1324勝1180敗。勝利数は歴代3位、対局数と敗戦数は1位。
    ===unqte===

  • 「ひふみん」の棋士としての道のりを、伝説の棋士たちとの交戦録や信仰を交え詳細に描く。加藤一二三伝説の真実が詰まった決定版

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著者プロフィール

1940年1月1日生まれ、福岡県出身。14歳で当時史上最年少の中学生プロ棋士となり「神武以来の天才」と評された。史上最速でプロ棋士最高峰のA級八段に昇段して以来、最年長勝利記録・史上最多対局数を記録。名人、十段、王位、棋王、王将のタイトルを獲得。2017年に現役引退後、バラエティ番組等にも多数出演し、「ひふみん」の愛称でも親しまれる。仙台白百合女子大学客員教授。

「2020年 『だから私は、神を信じる』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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