雨上がり月霞む夜 (単行本)

著者 :
  • 中央公論新社
3.63
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感想 : 48
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  • Amazon.co.jp ・本 (317ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784120051395

作品紹介・あらすじ

大坂・堂島で紙油問屋を営んでいた上田秋成は、一帯を襲った火事ですべてを失い、幼なじみの雨月が結ぶ庵のもとに寄寓して、衣食を共にするようになった。ところがこの雨月、人間の言葉で憎まれ口を叩く「遊戯」と呼ばれる兎を筆頭に、「妖し」を惹きつける不思議な力を持っており、二人と一匹の前に、つぎつぎと不可解な事象が振りかかるが――。

江戸時代中期の読本『雨月物語』に材を取った、不穏で幻想的な連作短編集。

感想・レビュー・書評

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  • 全ての絡め方がお見事だった一冊。すごく良かった。
    あの雨月物語をアレンジし、幻想的に仕立て上げられたこの物語、今まで読んだ西條作品の中で一番好きだ。
    幻想的な絡め方はもちろん、秋成と雨月の友情を超える絡め方も、兎の遊戯の存在、絡め方も全てがバランス良くお見事。
    人たるもの、人の世を語る雨月の言葉、秋成の心が哀しみと共に心に響く。
    遊戯の可愛らしさと毒舌ぶりも物語の癒し的な感じでいい。ラストシーンも秀逸。心にぺたん、としてもらった気分。
    また遊戯に会いたい。

  • 「本当に恐ろしいのは、妖しなぞではない…人間よ」
    この世の人間が抱える不安、嫉妬、執着により生み出された祟りほど始末に負えない。
    人間はとかく存在の不確かな霊や妖しを恐れるけれど、人間の妄念ほど恐ろしいものはない。

    『雨月物語』といえば、霊や妖しの出てくる怖い物語のイメージが強かったけれど、人間の持つ弱さ、愚かさ、理不尽から生まれた話はリアルにストレートに胸を突くものばかり。
    人間が夢幻に簡単に騙されるのは、他人には知られたくない本心を隠すためなのかもしれない。

    江戸の怪異譚『雨月物語』の西條流連作短編は、賢い兎の妖し・遊戯の導きのお陰もあってとても楽しく読めた。
    雨上がり月が朧に霞む夜、原作者・上田秋成が一人書斎で見たという月に思いを馳せながら…。
    表紙のような賑やかで楽しい月だといいな。


  • 雨月物語をきちんと読んでからの方が面白かっただろうな。

  • 稀代の傑作「雨月物語」をファンタジーノベル作品として、現代によみがえさせた西條奈加さんのこの一冊。
    導入部から素晴らしく、一気に読ませられた。

    あの世とこの世の狭間で、揺らめく情感。
    キワモノにならない、人物描写。
    読んでわかるが、実に魅力的なのだ!
    映画一本を鑑賞したほどの、いや、それ以上の傑作。

    ますます次回作に注目。

  • 雨月と秋成と兎の遊戯との掛け合いが楽しい。
    主題を知らずに読み進めていたので、後半の展開はちょっと意外だった。
    出来ることならば、まだ二人と一匹の掛け合いを読んでいたかった。

  • 江戸の中頃、大阪の地で、美しい月夜に兎の妖と出会った雨月。彼には成し遂げたい事があり、兎はそのために尽力すると約束する。

    雨月の家には、幼馴染の秋成が火事で焼け出されて居候をしている。
    霊力が強く穏やかで優美な雨月、がさつと呼ばれて霊感は皆無の秋成、雨月には従順だが秋成とは喧嘩ばかりの兎の妖の遊戯、ふたりと一匹がさまざまな怪異と遭遇し、この世の無常ややるせなさを知りながら真実へ近づいていく、という物語だ。

    物語のモチーフを知らずに読んだので、最後に明かされたネーミングの意味に、ああ、そうか、これ、そういう話だったのか、と驚いた。

    あえてなのだろうけれど登場人物の会話や行動や生活様式にあまり時代がかった雰囲気がなく、江戸時代の話、という感じがしない。
    時代小説というよりは、架空の江戸時代を舞台にしたファンタジーとして読んだ。

  • 単に「月」とタイトルにあること、妖が出てくること。そこに惹かれて読み始めたが。。
    文体があわないのか?
    リズムが違うのか?
    読むのに時間がかかってしまったな。。

    途中、何度となく辞めようか?と思ったりしたが、なんとなく、最後まで読んでみたい。という思いもあり、それが勝った。
    が、残り3分の2くらいで、一気にリズムに乗れた感。
    あの読めない期間はなんだったのだろう。。

    これ、「雨月物語」を実際に読んでいたら、始めから楽しめただろうな。。
    それが少しもったいなさを感じる。

    口の悪い遊戯。
    でも、この妖、結構好きだな。。
    雨月から委任された見守り役。
    もしかしたら、今も、「雨月様の物語がこんな形で世に出ている。さすがは雨月様!」と、思っているのかしら?

  • 何の前知識もなしに読み始めました。 大坂商人の町の話なのに全く活気というものが感じられなく、どのようにどんな話が進んでいくのか…。幼馴染の仙次郎こと上田秋成、正太郎こと雨月、そして妖の兎・遊戯が主な登場人物。ここで知識のある人は気づくのだろうけど、私は全くわからず。でもそれはそれで物語を楽しむことができました。『情に身を任せるのも、同族の肉を食らうのも、やはり自然のうちではないのか?現に獣は、春になれば盛りを迎え、死んだ仲間の肉も食らう。獣じみた行いなればこそ、人は禁忌としてそれを戒めているのであろう。さよう。自然から外れておるのは、我ら人の方なのだ』 『どうして月には、何事か語りたくなるのか。日は眩し過ぎて、常に活気に満ちあふれていて、弱音を吐いてもはね返されそうだ。対して月は、何も主張しない。黙って耳をかたむけてくれる。』 だから、弱った時いつもついつい月を眺めてしまうんだわ。

  • うーん、期待したほどは…

  • 火事で紙問屋・嶋屋を失った秋成は
    妖が視える幼馴染・雨月の住む香具波志庵に居候し、
    また月夜に現れた"遊戯"という兎の妖と
    一緒に暮らすようになるが、
    それから怪奇な出来事に巻き込まれるようになる…
    奇譚連作短編・9話。

    奇々怪々な出来事に触れるうち
    雨月の秘密を知ってしまった秋成。
    雨月の決断…
    見届ける遊戯。

    "磯良の来訪"は吉備津の釜を読んでいたので、
    そうきたか!!と面白かったので
    他の雨月物語の内容知ってたら
    また面白さが違ったかもしれない。

    最後…物悲しく
    寂しいような哀しいような…。

    『雨月物語』誕生秘話。

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著者プロフィール

1964年北海道生まれ。2005年『金春屋ゴメス』で第17回日本ファンタジーノベル大賞を受賞し、デビュー。12年『涅槃の雪』で第18回中山義秀文学賞、15年『まるまるの毬』で第36回吉川英治文学新人賞、21年『心淋し川』で第164回直木賞を受賞。著書に『九十九藤』『ごんたくれ』『猫の傀儡』『銀杏手ならい』『無暁の鈴』『曲亭の家』『秋葉原先留交番ゆうれい付き』『隠居すごろく』など多数。

「2023年 『隠居おてだま』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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