- Amazon.co.jp ・本 (410ページ)
- / ISBN・EAN: 9784120051746
作品紹介・あらすじ
第161回直木賞候補作!
将門という男は、なぜかくも激しく不器用なのだ!
音楽に取り憑かれ、「至誠の声」を求め旅に出た仁和寺の僧・寛朝。
荒ぶる坂東の地で出会ったのは、古き法に背き、ならず者と謗られる人物だった――。
土豪、傀儡女、群盗……やがて来たる武士の世を前に、混迷を生きる東国の人々。
その野卑にして不羈な生き様に接し、都人はどんな音を見出すのか。
父に疎まれ、梵唄の才で見返そうとする寛朝
逆賊と呼ばれても、配下を守ろうとする将門
下人の身にして、幻の琵琶を手にせんと策略を巡らす千歳
「至誠の楽人」の名声を捨て、都から突然姿を消した是緒
己の道を貫かんともがく男たちの衝突、東西の邂逅を、『若冲』『火定』の俊英が壮大なスケールで描き出す!
感想・レビュー・書評
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平将門の乱が起きる時期の関東を、京から来た僧の目を通して描く小説。
この時代をありありと描いた作品は珍しく、貴重ですね。
仁和寺の僧・寛朝は、皇族の血を引くが、早くから出家し、親に顧みられることもなかった。
寺の修業にある声明<梵唄>に魅せられ、<至誠の声>に近づくことを願って、はるばる関東まで旅に出る。
教えを請い、目指す境地に達したかったのだ。
声明を真剣に学ぶなど、考えたこともなかった世界ですよ。
寛朝は生きがいをそこに求め、ある意味では音楽を極めること、それを仏に仕える意味があると思っていたのでしょうか。
京の定めた法は関東にも届いているが、荒ぶる武者たちや貧しい農民にとっては、あまり実感がない。
強さや人間関係で揺れ動いていくのが実情。
平将門は器が大きく、魅力のある人間だった。
だが、人を信用しやすく、自分を頼って来た者を無下にすることはない。
それが次第にことを大きくし、しまいには災いを呼び‥
寛朝は実在し、東密声明中興の祖とされる人物だそうです。
たおやかに育った京生まれの僧が、苦難の旅を越え、さまざまな階層の人間と交流します。
武士たちのやっていることは、外から見るだけですが。
戦いの悲惨さもまた、人の生きる姿として、とらえたのでしょうか。
救いはどこに。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
これやこの
行くも帰るもわかれつつ
知るも知らぬも逢坂の関
蝉丸
朝(あした)には落花を踏んで相伴つて出づ
暮(ゆふべ)には飛鳥に随つて一時に帰る
白楽天
この二編の詩が お気に入り
または なんとなく 知っている
そんな人には 強くお薦めです
「声明」
「日本の古楽器 特に琵琶」
に ご興味がある方にも
強くお薦めです
澤田瞳子さんの作品の巻末に
紹介されている
「参考文献」は いつもながら
まことに 興味深く
また なぁるほど感 満載です
平将門さんの時代が舞台として
描かれており
将門さんが「主」でないのも
また 嬉しい -
〈至誠の声〉の教えをもとめ、坂東へとおもむいた僧・寛朝。
そこには、都とは違った世界が広がっていた。
都の思惑や律令がゆきとどかず、都とは違った理でうごいていく世界。
宇多天皇の孫として、都で生まれ育った寛朝視点だからこそ、荒ぶる坂東と都の対比が際立つ。
平将門の乱をえがいているのも、めずらしい。
貴族中心からもののふたちへ、時代の変化を感じられる。
寛朝や平将門だけでなく、異羽丸、多治経明、傀儡女など、人びとがいきいきとえがかれ、後半は一気読み。 -
朝には落花を踏んで 相伴って出づ
暮には飛鳥に随って 一時に帰る -
琵琶の音がひびいてくるような かなしい物語
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平安時代の貴族の世の中で力が及びにくい坂東。日本史の理解が深まりました。
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将門と寛朝。
戦の世と音楽。
対になるのかと思っていたので、
将門があくまでも添え物だったのにびっくり。
そうか、主人公は寛朝だもんね。
でも、なんだかいまいち乗り切れず。
うーん、将門がこの扱いかぁ・・・ -
人間の行動や考えや営み自体は本来は不浄なものではないと説く理趣経の精神を下地にして、戦による殺し合いも、盗みや妬みも美しさを併せ持っているというような世界観が描かれている。
終盤の将門が討たれるシーンは圧巻である。
蛇足ながら、最後に蝉丸の出自が出てきたことには驚いた。 -
交響楽を聞き終わったような読後感。
梵唄(ぼんばい)、読誦(どくじゅ)、催馬楽(さいばら)など、
なじみのない漢語に悩まされたけど、
流れるような文の美しさ、
音と光を色にして、画布に塗りたくるような激しさが
心地よい。
いままで読んだ澤田瞳子の作品の中で、
一番色鮮やかだと思う。