- Amazon.co.jp ・本 (227ページ)
- / ISBN・EAN: 9784121002891
感想・レビュー・書評
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各作品の思想史的な意義を適切に論証している。特に日本の戦後思想の部分は鋭い。まっとうな意味で児童文学批評の名に値する名著。子どもたちの不真面目な「替え歌」のくだりも、目から鱗が落ちた。
・グリムが語りつぐものであれば、アンデルセンは思い描くもの。
・現実逃避ではない。反対に、空想物語への子どもたちの喝采と拍手は、この日常世界に対する大きな期待のあらわれ。
・不自然である、という規定は、近代のもの。人間が科学的世界観を確立し、合理的思考を唯一の思考としたところから生まれる。
・美といい、民主主義といい、抽出された概念である。それは、もともと人間に先行する絶対的な価値観ではありえない。人間が歴史の中で、生活の中で、じぶんとの関わりあいで確かめてきたものである。
・もし、民主主義を描くなら、主義の解説ではなく、それを価値あらしめる人間の葛藤を描くべきだったろう。
・選択の正しさは、選択の仕方の誤りをおぎなわない。
・与えられたものだから、日本に根付かないのではない。根付かせるべく努力しないから、「与えられた」ままに終わるのだ。
・「まじめ」の名において、子どもや若者にそうした生き方しか許さなかった「閉ざされた世界」。そういう青春を生んだ「まじめさ」。そのことを考えると「まじめ」であることは、はたして美徳なのだろうか。
・子どもたちは替え歌によって、いま、自分が置かれているこの世界を唯一の世界とする発想に拒否権を発動しているのだ。
・世の中には、本を読むことをなんか神聖な儀式のように思い込んでいる人もいる。しかし、読書の楽しみとは、もともと、勤勉な人間に対する「道草のすすめ」なのではなかろうか。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
児童文学のなかで描かれる「あたりまえの世界」「ふしぎな世界」「おかしな世界」を糸口に、さまざまな作品を参照しながら「児童文学とは何か」を解き明かしていく。
かなり古い本(昭和47年)だが、「子供」のあり方を固定化し、彼らが成長し変化していく存在であることを否定して大人側の価値観を押しつけることへの鋭い批判は現代においても十分な説得力を持つのではないだろうか。古典的名作だけが子供の本ではないと強調されていることを踏まえた上で、ブックガイドとして読むのもいいと思う。ピアス『トムは真夜中の庭で』の解説は素晴らしいものだし、私の好きなバラージュ『ほんとうの空色』や、モルナール『パール街の少年たち』にも触れられていて嬉しい。 -
一応学術書だけれど、なんだか文体がやさしい。
児童文学の物語の分類など、人が何にどきどきわくわくするかの研究でもある、と思わされる。