- Amazon.co.jp ・本 (214ページ)
- / ISBN・EAN: 9784121010735
作品紹介・あらすじ
徳川吉宗が8代将軍の座につくと、紀州藩士205名を幕臣に編入、側近とした。その中に将軍の耳や目となり活動する隠密の一団があった。御庭番である。彼らは表向き、将軍やその家族の身辺警備・取次などを勤めたが、いったん命が下ると姿を変えて各地で情報収集に当たった。のちにその家筋から幕政に重用される人材を生む。本書は、厳格な統制と秘密保持をもって将軍に情報をもたらし、徳川権力を支えた御庭番を精密に考証する。
感想・レビュー・書評
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再読。『幕末百話』に御庭番の人の話が少しあって、そういえば御庭番の本が1冊あったはずと本棚を漁ったらこれが出てきた!たぶん「るろ剣」にはまっていた頃に読んだのだと思う(蒼紫さま・・・笑)
そんなわけで、御庭番というと黒装束の忍者を思い浮かべてしまうけれど、実際には全然そうじゃないことをこの本で知ったのでした。戦国時代にいた伊賀だの甲賀だのの忍者は、徳川幕府が出来たあとは一部幕府組織に組み込まれたもののかつてのような諜報活動はしておらず形骸化、伊賀者という名前は部署名として残っていたものの内実は別に伊賀の血筋でもなんでもなくなっていたらしい。
いわゆる幕末まで残る「御庭番」という役職を作ったのはご存知暴れん坊将軍八代吉宗で、紀州家出身だった吉宗が将軍就任時に紀州から自分の家臣を大勢幕府に連れてきて、その中の十七家を「御庭番」とした。ドラマと違って実際の将軍は気軽に町に出たりはできないので、老中など重臣の言いなりになりがち、それを回避するために吉宗自身が直接情報収集をするための機関だったらしく、さすが暴れん坊将軍、史実でもかなりのやり手。
本書はそんな御庭番の仕事ぶりを資料を元に詳しく解説されている。彼らの仕事ぶりからうける印象は、忍者やスパイというよりは覆面監察官。他藩への調査にももちろん出向くけれど、基本的には庶民の暮らしぶりを観察し、良政を布いてる良いお殿様や役人は褒めて出世させ、賄賂を受け取ったり不正を働く役人はクビにするなど、かなり公正だしある意味正義の味方。
事例の中でやや緊迫感があったのは、幕末の桜田門外の変のあと、薩摩藩への調査の仕事。薩摩は入国審査が非常に厳しいので潜入が難しいことで有名だけど、しかしそこは忍者と違うところで、上役も「無理に潜入しなくていいよ~」というスタンス、周辺調査だけで(でも3か月かけて)戻ってこれるところはなかなかホワイトな職場かもしれない。
一応隠密は隠密で、表向きの役目は警備員的なお仕事。これは、と見込まれた人だけが隠密の使命を受けるので、御庭番に配属されても一生表向きの仕事しかしない人もいるとのこと。時代劇なんかに出てくる忍者的イメージとは大幅に違うけれど、御庭番自体はとてもかっこいい仕事でした。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
徳川林政史研究所の史料などに基づき、御庭番の家系をはじめ、隠密御用の実態など。
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忍者と言えば黒ずくめで空を舞い、水の上を走り、地に潜り様々な術を使う。
そんなイメージが先行していて本当の所は謎に包まれています。
この本はそんな忍者の末裔と言われ、同じ様なイメージで見られている江戸時代の御庭番の実像を同時代の書類や彼らの日記を元に解き明かしています。
この本を読めば彼らが様々な術を使ったりする異能の職業集団ではなく、普通の人間と同じ様に歩き、普通の人間と同じ様に食べ、そして同じ様に悩んでいる事がよくわかります。
ただ、彼らを御庭番足らしめているのが、彼らに綿々と受け継がれてきた徳川家への忠誠心と情報収集の技なんだなと思いました。