壬申の乱: 天皇誕生の神話と史実 (中公新書 1293)

著者 :
  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (328ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121012937

作品紹介・あらすじ

六七一年十月、天智天皇の弟大海人皇子(天武天皇)は王位継承を断わり吉野に隠棲。翌月、天智の子大友皇子は大海人を討つべく五人の重臣と盟約を結んだ。天智後継の座をめぐる壬申の乱の発端である。天智は大友かわいさで大海人を疎外したのか。大友は絶えず後手にまわり敗れ去ったのか。王位継承をめぐる対立はなぜ大規模な戦争に発展したのか。通説を再検討し、古代最大といわれる攻防のドラマを再現、その歴史的意義に迫る。

感想・レビュー・書評

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  • 671年、天智天皇の後継をめぐる大海人皇子と大友皇子との対立は武力衝突に発展。壬申の乱と呼ばれる古代史最大の内戦だ。戦いは多くの豪族たちの支持を受け、能力に優れる大海人皇子が大友皇子を圧倒したというのが教科書的解説。

    しかし、その解説のもとになっている多くは勝者、大海人皇子側が残した書物によるもの。本当に勝者側に正義はあったのか、大友皇子は父のゴリ押しで後継となったのか。最新の研究で、壬申の乱を見直す。

    天智天皇は弟、大海人皇子の協力を得て、妻を女帝に推したかったらしい。大友皇子は単なるその中継ぎだった。しかし、大海人皇子は野心を隠し、都から離れて隠居しつつ、王位就任のチャンスをうかがう。そして、天智天皇の死後、準備を重ねて壬申の乱を起こした。というのが、著者の主張。

    この主張が事実かはさておき、面白かったのは王位をめぐる争いは過去にもあったのに、なぜ壬申の乱だけ大規模な軍事衝突になったのかということ。乱の直前、天智天皇の名により日本最初の戸籍、庚午年籍が作られ、兵役を課せる民衆の数を正確に把握できるようになっていた。そのため、両軍は大量の兵士を調達することができたのがその理由。

    国民の福祉のための行いが反乱を大規模化させたというのは、なんとも皮肉だが、政治や技術の進歩が戦争を深刻にするというのは現代でも同じだ。

  • 壬申の乱は7世紀末にあった日本最大規模の内乱で、大海人皇子と大友皇子の間で起きた皇位継承をめぐる争いだ。勝者側の記録である「日本書紀」ぐらいしか残っていないため、本書でも推測の域を出ない記述は多い。しかし、わずかな記述からどのような作戦を敗者の大友皇子は立案・実行したかの考察は、とても刺激的で興味深いものであった。

  • 私は、大伴吹負くらいまでの名前しか聞いたことがないレベルですが、美濃あたりの小さな豪族までどんどん出てきた本書には、その奥深さに唸りました。

  • 日本書紀をひもとき、起こった事件に対して、推測を膨らましていく。制約の多い古代史だが、大王から天皇へ変わるその時が鮮やかに映し出された。

  • 壬申の乱は天智の崩御後、王位継承権を持つ大友皇子と大海人皇子が、「女帝」倭姫王に譲位を促して即位するために起こした内乱であると筆者は主張しています。大友も大海人もそれぞれ挙兵の準備をしており、偶然の要素に左右されながらも大海人軍が優勢に戦いを進めて勝利したとします。ただ、筆者のいう「旧い関係」、王族と各氏族との個人的な関係が果たしてどの程度まで壬申の乱に影響したのかは、推測が多いので何とも言えないです。
    先に読んだ倉本一宏『壬申の乱』と本書とでは、乱の様相が大きく異なるので、その辺りをもう少し詳しく調べてみたいと思いました。

  • 承久の乱、応仁の乱と並んで有名な壬申の乱。少ない記録に基づき大胆に推測を加えた乱の実相。活きた歴史が楽しめる良著。

    中公新書のフェアで購入。万葉集にハマっていることもありずっと気になっていた壬申の乱。

    筆者は乱を天武天皇が天智天皇の息子の大友皇子から皇位を簒奪したというイメージを否定し、大后・倭姫王からの譲位の過程の争いだったとしている。

    律令制下で我が国初の戸籍、庚午年籍。兵役を行うことが出来たことが大規模な動員、乱へと繋がった。

    古代の人物であり読みが難しく、巻末の目次と行ったり来たりであったが、臨場感溢れる描写を楽しむことができた。

  • 乱の全貌が再現されていて面白く読めるけども、推測に推測を重ねるような箇所も見受けられて、素人目には是非の判断が難しい。史料的制約から仕方ないかなとも思うが、これは他の関連書籍も読んでみないといけないかな。

  • 六七一年十月、天智天皇の弟大海人皇子(天武天皇)は王位継承を断わり吉野に隠棲。翌月、天智の子大友皇子は大海人を討つべく五人の重臣と盟約を結んだ。天智後継の座をめぐる壬申の乱の発端である。天智は大友かわいさで大海人を疎外したのか。大友は絶えず後手にまわり敗れ去ったのか。王位継承をめぐる対立はなぜ大規模な戦争に発展したのか。通説を再検討し、古代最大といわれる攻防のドラマを再現、その歴史的意義に迫る。

    戦の進展を時間で追って行く方法と後世の関ヶ原戦とイメージを重ねる書き方であり、
    歴史紀行書という位置づけがいいかもしれない。
    同様の書に「応仁の乱」「観応の擾乱」があるが、その人気に便乗しただけの一冊という感じ。

  • 壬申の乱の原因を、通説とは異なった見方で読み進めていく本書。
    そもそもこの時代の出来事は資料が少ないため、書かれていることに常識を加えて、出来事の一つ一つで何が起こったかを構築する必要がある。その意味では、著者の姿勢は非常に真摯なものだ。大友皇子も大海人皇子も、どちらも派遣を巡って熾烈な争いをしていたということが非常によく理解できた。
    他方で、私見と史実が限りなく混然一体となって書かれているため、私のようなずぶの素人が読むには少し留意が必要かもしれない。

  • 近江大津京、その日◆大海人皇子をめぐる群像◆内乱の発生と展開◆内乱の拡大と終焉

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著者プロフィール

遠山美都男

1957年、東京都生まれ。学習院大学文学部卒業。同大学大学院人文科学研究科に進み、博士(史学)を取得。専門は日本古代史。『壬申の乱』『白村江』『天皇誕生』『蘇我氏四代』『大化改新と蘇我氏』ほか著書多数。

「2022年 『新版 大化改新 「乙巳の変」の謎を解く』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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