物語オ-ストラリアの歴史: 多文化ミドルパワ-の実験 (中公新書 1547)

著者 :
  • 中央公論新社
3.50
  • (6)
  • (10)
  • (17)
  • (2)
  • (1)
本棚登録 : 153
感想 : 15
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (296ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121015471

作品紹介・あらすじ

APEC提案、カンボジア和平の国連提案、農業貿易の自由化など、オーストラリアは国際社会の構想を次々と実現してきた。中規模な国家ながらベンチャー精神にあふれた対外政策はどこから生まれてきたのか。さらにアジア系移民が暮らす多文化社会は、かつての白豪主義からの一八〇度の転換であり、社会革命といえる。英帝国、米国、アジア諸国との関係を軸に一五〇年の歴史空間を描き、新しい国家像の核心に迫る。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • オーストラリアの通史を手早く理解するのに役に立つ。
    ただ、事実をフラットに並べているところもあるので、関心がなかなか深まらない。歴史も浅く、何をオーストラリアの文化として捉えるか?そのような本を追加で探す必要がありそう。

    以下抜粋
    ・なぜ、イギリスは、遠く離れて不便なオーストラリアに、わざわざ白人のための植民地を建設したのであろうか。最大の理由は、アメリカが独立したからである。

  • 1880年(アメリカが独立してオーストラリア入植が始まってから)くらいからの歴史。イギリスとの微妙な関係、オセアニアの諸島国との地位。第一次、第二次世界大戦への参加でのアイデンティティの確立と模索。白色社会から多文化社会への舵切りと根強く残る意識。

    イギリスの植民地として生まれ、アメリカに頼ろうとし、白人が多数を占めながら地理的な関係からアジアと仲良くせざるを得ず、大国と小国の狭間で、独自の政治的文化的アイデンティティを模索しつつあるオーストラリア。

    読みやすく、簡潔にオーストラリアの立ち位置が分かり、見方が変わる。

  • 仕事の都合上、オーストラリアについて勉強する必要があったので、Amazonで「オーストラリア」と検索して見つけた本を読みました。
    本書はオーストラリア大陸植民地後の、”国家としてのオーストラリア”の歴史に焦点を当てた本となります。なので、アボリジナルといった先住民や、大陸の歴史を紐解くものではありません。
    しかし、本書では多くのデータとキーパーソンの深堀りが充実しており、文庫本サイズでありながらオーストラリアについて包括的かつ具体的なイメージがもてる良書だと思います。

    というわけで、必然的にその歴史は建国がスタートになるわけですが、驚いたことに、オーストラリアには独立や建国を祝う日(独立記念日や建国記念日)がないというのです。オーストラリアデーという祝日が1月26日に制定されているものの、これはイギリスの船団が1788年同日にオーストラリア大陸に上陸をした記念日に過ぎないのです。
    日本では神話に基づいた建国を祝う日というものが制定されているし、アメリカはもちろん、カナダやインドにも独立記念日がありますが、オーストラリアにはそれがないのです。

    また、イギリスの植民地としての歴史は18世紀末からですが、連邦国家として自治権を手にいれたのは1901年と非常に歴史が浅いです。また、自治権を得たのちも、当初は外交権はイギリスに握られていたり、今でも総督と呼ばれるイギリス国王代理が常駐しており、首相の罷免権を持っていたりと、どこかイギリスから独立しきれていない側面が現在も残っているようです。

    このような経緯からも分かる通り、オーストラリアは国家としてのアイデンティティの確立に悩んできた国である、というのが率直なイメージです。
    その悩みの真相は、イギリスに翻弄されてきた歴史にあると言えそうです。

    19世紀には、イギリス連邦の奴隷制撤廃により労働力が不足する中、オーストラリアはゴールドラッシュに沸きますが、そこに便乗してきた中国人労働者(低賃金でよく働く)に悩まされ、白豪主義が台頭します。そして、白豪主義を推進するためにオーストラリア連邦が誕生し、白豪主義は国家の政策として正当化されていきます。
    そういったことから、大洋州においては帝国主義者扱いを受けつつも、オーストラリアはイギリスのボーア戦争や義和団事件への派兵を通じて忠誠心を高めていくことになります。

    しかしながら、第一次大戦、第二次大戦と、2度の大戦を機に、イギリス連邦の力は急速に衰え、イギリス自身はヨーロッパ回帰の思想(EU)へと傾倒していき、オーストラリアはイギリス連邦の輪から孤立していきます。
    そこで、戦後はアジアへの急接近を見せながらアジアの一員を模索する一方、ベトナム戦争への介入の結果、大量の難民を受け入れざるを得なくなり、白豪主義は終焉を迎えることに・・・。
    結果的に、嫌が応にも多様性を受け入れざるを得ない空気が生まれ、総合的な経済力(GDP)では欧米先進国には及ばないことへのコンプレックスにも苛まれながら、アジアを中心とする「ミドルパワー外交」(欧米の大国が手を出さない問題やチャンスに目をつける外交、APECの発足などが代表例)という自国の立ち位置をなんとか見出していくのです。

    その中でも、多様な資源に恵まれた国土というのは、もはや奇跡としか言いようがないでしょう。ミドルパワー外交と、多様な資源により、世界の経済危機にも耐えながら経済成長を続け、一人当たりGDPでは随一の国へと成長した、、、というのがこの国の歴史のようです。

    しかしながら、自動車産業を代表とする製造業が成り立たなかったり、映画や音楽などソフト産業はハリウッドに持って行かれたりと、量質ともに大国になりきれないというコンプレックスは相当大きいのではないかと勝手に想像します。
    このようなことを踏まえると、オーストラリアは様々なコンプレックスを(本心では望んでこなかった)多様性で吸収し、独特の活力へと転化している国なのではないかと考えます。

    なーんてことを考察しながらも、先日訪れたメルボルンはとても素晴らしい街でした。
    人は気さくだし全く表面的な優しさというものを感じず、日は浅いながらも歴史建築と大都会が融合していて、そこにいるだけでいい気分になれる街です。
    そして何と言っても気軽に、どこでも、手ごろに楽しめるラテライフ(私はフラットホワイト派)。
    愛すべきオーストラリアという国をより深く理解しながら、旧イギリス帝国時代にも知識の幅を広げていきたと思います。

  •  いつも行っている本屋で一番目立つところに「物語」シリーズ特集が並べられていました。
    「物語」シリーズ、こんな面白そうなシリーズを今まで知らなかったなんて、これから読み進めたいと思います。まずは今の自身の業務で最も関わりのある国、オーストラリアから読むこととしました。
     オーストラリアと言えば、かつては白豪主義を政策に掲げていた白人国家というイメージでしたが、最近はアジア系移民を寛容に受け入れ多民族国家となっているようです。白豪主義も、日本は白人国家ではありませんが、移民に職を奪われる恐怖から移民を排斥しようし、似たようなことをやってしまうかもしれません。白豪主義を掲げるに至るまでの経緯を知ることで、単に悪名高い白豪主義という理解から一歩深めることができました。
     ミドルパワー戦略という言葉はこの本で初めて知りました。オーストラリアといえば、世界に影響力を与える準大国というイメージでしたが、言われて見れば国家面積が広いといってもほぼ砂漠、人口も3,000万人程度、豊かな国でありますが、人口が少ないこともありGDPは世界第13位。数字では大国と呼べないのかもしれませんが、存在感は大きく感じます。それはアメリカやイギリスのような大国が手を出さないような国際問題を、積極的に解決しようとすることで存在感を発揮しているようです。さながらニッチな領域を開拓するベンチャー企業のように。
     多民族国家となったオーストラリアが今後どのような国になっていくのか興味深いです。

  • オーストラリアの歴史が一通り学べる。細かいところは覚えたりしてないけど、世界に翻弄されながらポジションを探して行ったのは、ニッチャーの戦略として正しいし世界にとっても必要なポジションだと思った。

  • ●地理的な距離で言えばアメリカより近くにある白人国家ではあるが、オーストラリアの歴史について何一つ知らなかった。そういった意味で勉強になった。

  • オーストラリアの建国から2000年までの歴史が詳しく書かれている。今ある多文化社会のオーストラリアは以前からあったものではなく、時の流れとともにアイデンティティを変化させてきた。英帝国、アメリカ、アジア、どこと戦略的に組んでいくのか。オーストラリアはアジア太平洋のリーダーという認識だったが、その時々の国際政治により、親米、親日、親中、、、と戦略を変えてきた。これからもアジア勢の流入は止まらないだろうから、アジアとの関わりは密接になっていくだろう。しかしどこかで我々は白人国家だという意識が見え隠れするのは変わらないのかもしれない。

  • 新書文庫

  • イギリスの余剰人口、流刑犯罪者の送り先としての植民地。アメリカが独立したため白羽の矢が立ったのがオーストラリア。
    イギリスの対オーストラリア政策は、常に対アメリカの反省から来ている。そのおかげでオーストラリアには独立戦争が起こっていない。

    このシリーズにしてはちょっと残念。
    オーストラリアの歴史と銘打ちながら、実際は20世紀の政治史と、内容が偏りすぎている。
    オーストラリア史を扱う本自体が数少ないため余計にがっかりだった。

    後で思ったが、オーストラリアの勉強で最初に読む本として適してないのかも。ある程度の歴史概略を把握してから読むとまた違うかもしれない。

  • 私には少し難しい内容だったけど、学ぶことがとても多い本だった。

全15件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

竹田いさみ1952年東京都生れ.上智大学大学院国際関係論専攻修了.シドニー大学,ロンドン大学留学.Ph.D.(博士,国際政治史)取得.獨協大学名誉教授,同大学院講師.専門は海洋安全保障,東南アジア・インド太平洋の国際関係,海洋と海賊の世界史.著書『移民・難民・援助の政治学』(勁草書房,1991年,アジア・太平洋賞特別賞受賞),『国際テロネットワーク』(講談社現代新書,2006年),『世界史をつくった海賊』(ちくま新書,2011年,国際理解促進図書優秀賞受賞, 山縣勝見賞特別賞受賞),『世界を動かす海賊』(ちくま新書,2013年,山縣勝見賞特別賞受賞),『海の地政学』(中公新書,2019年)など.

「2023年 『物語 オーストラリアの歴史 新版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

竹田いさみの作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×