百人一首: 恋する宮廷 (中公新書 1725)

著者 :
  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (229ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121017253

作品紹介・あらすじ

鎌倉時代初期、藤原定家によって編まれた「百人一首」は、カルタとしての普及もあって、私たちが最も親しんでいる和歌のアンソロジーである。時代ごとにさまざまな読まれ方を許容する奥深い世界は、現代においてもまた、今日ならではの社会環境や情報の上に立った読みを可能にするはずである。本書は、現代詩の第一人者が、海外の詩歌にも思いを馳せながら、百首について、豊かな読みの可能性を示すものである。

感想・レビュー・書評

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  • 百人一首を詩人が独自の解釈で読み直す。静岡新聞の連載コラムが書籍化された異色の百人一首論。

    中学生の子供の正月の行事。百人一首を暗記して大会。映画「ちはやふる」のように、日本独自の風物詩として続く。子供の頃を思い出しつつ、本棚から積ん読本を取り出し少しづつ読み返してみた。

    本書は、教科書的な内容よりも自らも詩人である筆者の独自の解釈のよう。そもそも基礎知識の欠落した自分にはちょっと難しかった。上中級者向け。

    もっと勉強してから再挑戦したい。

    でもどちらかというと技巧をこらした宮廷の歌より万葉集のおおらかさのが性に合うようにも思える。

  • 見開き2ページに歌と作者、そして意訳とその歌の背景や作者の生涯についてが書かれている。
    この本の特色は、なんといっても意訳の部分。
    教科書で習ったものとは多分全然違う解釈の歌が多い。

    歌に詠まれているものだけを見てもわからない。
    そこには恋愛模様だけではなく、歴史との対話あり、今現在の政争の顛末ありと、実にドロドロと人間臭いのだ、という。
    それは、歌は詠んだ人のものでありながら、あとからそれを読んだ人の解釈を付け足して、どんどん膨らませていくものであるという著者の主張である。

    世のなかはつねにもがもな渚こぐあまの小舟の綱手かなしも
    鎌倉右大臣=源実朝の歌
    “男女の仲にはじまって世は無常といわれるが、常凡の人情としてはやはり常に変わらずあってほしいもの。常の穏やかな日なら渚をゆっくり漕いで行く漁師の小舟が、今日は波が荒いからか、曳舟の曳綱に曳かれて行く。それをうち眺める自分とて、いつ運命の曳綱に曳かれないとも限らない無常の身だ。”

    これを実朝が本当に意味して詠んだとしたら、それはすご過ぎるだろう。
    あくまでも彼の運命を知っている、のちの人の解釈に過ぎないとは思う。
    それでも、頼朝は男子を二人ももうけて、孫も男子であったのに、結局あっという間に権力は妻の実家である北条氏に移る。
    平氏を滅ぼした源氏の頭領の血は、受け継がれて行かなかったんだなあと、最近私もしみじみ思ったところだったので、なかなかにタイムリーな解釈でした。

    あまたある和歌の中から100首を選ぶこと。
    それだけでも大変な事業だと思うのに、この選集は歌の順番にも意味があるらしい。
    天智天皇から始まり順徳院で終わる100首。

    “かくして天智天皇に始まる王朝時代は終わり、武家政権時代が始まる。定家もその家も生き延びるためには時代の趨勢に従わざるをえず、公的な単独撰の『新勅撰和歌集』からは後鳥羽・順徳両院の御製は省かざるをえなかった。その償いとして両院御製で止めたアンダーグラウンドの王朝詞華集決定版が、私的な単独撰『小倉百人一首』だったのではないか。”

    副題の恋する宮廷とは、恋情すら世渡りの手段であり、政治であるということ。
    全然甘くない恋する宮廷。

    西洋の貴族たちが恋愛の詩を作り始めるのは、これから数百年もあとのことなのだそうで、そう考えると、日本って昔から平和だったんだなあ。
    何しろ平安時代だし。
    戦争に明け暮れているときは、恋の歌などで世の中は渡っていけないのである。

  • 「『小倉百人一首』は恋する宮廷の終わりの時代を生き、宮廷とともに追放された最後の宮廷歌人藤原定家が、宮廷時代の代表歌人たちをその歌を形代に、自分自身も歌を形代に加えて封じた、恋する宮廷の柩であり、墓だったのだ」(あとがき)。既読の百人一首本に対し、時代の背景と照合して詠み人の心情の機微まで洞察する斬新で個性的な解釈に驚きました。ちょと深読みし過ぎでは?と思うこともありましたが、百人一首の芳醇さが詩人の想像力を無制限に羽搏かすのでしょう。一首一首を深く愛でたい、いつか私も自分なりの読み解きができますように。

  • 百人一首について、お勉強のために読む。

    ひとつひとつの歌について、著者なりの丁寧な「読み」がされており、歌の解釈は本当に多種多様だな、と思った。

    時には「うがちすぎでは?」と思うような読みもあったものの、表面的な読みだけではなく、当時の政治的背景を透かして見せたり、作者の生涯にしっくり照らしあわされていたりと、納得のいく読みも多かった。

    私は小学生のとき、担任の先生によって百人一首を中途半端に覚えされられた生徒だったので、その時に暗記した歌ばかりが今でも印象深く残っており、それ以外の歌とどうしても愛着に深い差がある。


    好きな歌はどれだろうと考えてみたところ思い浮かんだのは、

    春すぎて夏来にけらし白妙のころもほすてふ天のかぐ山(持統天皇)
    わたのはら八十島かけてこぎいでぬと人には告げよ蜑のつりぶね(参議篁)
    ちはやふる神代もきかず龍田川からくれなゐに水くくるとは(在原業平朝臣)

    最初のほうの歌ばかりである・・・。
    それと、これは蛇足だが、最近とある人から「春すぎて~」の歌を「あなたの名前の漢字から、この歌を連想した」と言われて嬉しかった。

  • けっこう大胆な解釈。
    そこまで深読みしていいのかなーって思うこともしばしば。
    ただ、学術的な正確さ等々取っ払って読んだなら
    おもしろい本だと思う。

  • 選者定家を第二の作者、自らを第三の作者とし、明治以降の海外の詩歌など多くの知見も援用して、
    「後読み」によりこの詞花集を読み解いていこうというもの。

    百首の現代語訳は、詞書や出典元の勅撰集の配列などを参照にした詳しく行き届いたもの。
    個々の解釈では、詩人らしい深読みが多く、踏み外しであってもまた興味深い。

    業平『ちはやぶる』では「血やは降る」と読み替え、祖父平城上皇の寵姫藤原薬子の血と
    政変の記憶が「からくれない」に込められているとし、
    良暹『さびしさに』は優れた抽象詩・思想詩であり、比べれば西行・寂蓮・定家の「三夕の歌」
    は書割のようだと評し、
    基俊『契りおきし』は受け取った相手がじつに後味の悪い思いをするような人事の恨みで、
    作者の屈折した性格がどことなく定家に似ているという指摘など…

    帝王の恋歌が感応して五穀の豊穣を約束する(丸谷説に似ている)という考えから、
    冒頭と掉尾それぞれに置かれた「帝王父子と二人の宮廷歌人」を通して全体の構成にも言及。

    巻末の対談「王朝を葬送する」では、定家がいなければ、王朝は閉じず、その文学の位置が定まらないと。
    『王朝全体を柩に入れて、蓋をした。自分も中に入って、内側から蓋を閉じて、殉死した』

  • おなじみの百人一首のパッと目が覚めるような新解釈。
    宮廷の雅な恋の歌、と思っていた和歌に、違う角度から光を当てている本でした。

    「百人一首は藤原定家による王朝時代へのレクイエム」という著者の説に面白みを感じました。
    天智天皇に始まり後鳥羽院の承久の乱で幕を閉じた王朝時代が百人一首の構造にも見受けられる。
    そういう見方もできるんだ!ふむふむ。

    恋歌と見せかけて政治や人事について訴えているのだ、という解釈には驚きました。
    崇徳院の「瀬を早み岩にせかるる滝川のわれても末にあはむとぞ思ふ」は、ずっと情熱的な恋の歌だと思っていたのですが…。
    歌人の生涯や政治的立場などが加味され、百人一首を新鮮な目で見ることができました。

    それから、女性歌人の歌がやっぱり素敵です。
    伊勢大輔や小式部内侍は読むたびに、喜びを感じます。

    私は詩や和歌全般は全くわからないので、著者の高橋先生が海外の詩歌や詩人の名前を挙げられている部分はよくわからなかったのが残念です。
    でも、そんな素人の私でも驚きながら面白く読めた本でした。

  • 稀代のアンソロジスト定家、王朝を葬る。日本の詩歌の根本原理は恋にある。その詩歌を統べるのは天皇である。
    「ものをつくる人間、表現する人間が中流意識なんか持ったらおしまいです。」

  • あんまり好みの解釈ではありませんでした。

  • 何首ぐらい暗誦できるだろうか…。

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著者プロフィール

昭和12年12月15日、北九州八幡に生まれる。
少年時代より詩、短歌、俳句、散文を併作。のち、新作能、狂言、浄瑠璃、オペラ臺本などを加へる傍ら、古典文藝、藝能の再見を續ける。
俳句関連に句集『句帖』『童鈔』『稽古』『金澤百句』『賚』『遊行』『十年』『那須いつ
も』『百枕』『季語練習帖』、評論『私自身のための俳句入門』『百人一句』『季語百話』『詩心二千年』等。本
芸術院会員。文化功労者。

「2024年 『花や鳥』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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