日本近代文学入門-12人の文豪と名作の真実 (中公新書 2556)

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  • 中央公論新社
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感想 : 12
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  • Amazon.co.jp ・本 (280ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121025562

作品紹介・あらすじ

「三遊亭円朝の落語通りに書いて見たらどうか」と坪内逍遙に言われた二葉亭四迷は、日本初の言文一致小説『浮雲』を生んだ。「書くことで食べていく」先輩にならった樋口一葉の最晩年は「奇跡の一四ヵ月」と呼ばれた。翻案を芸術に変えた泉鏡花と尾崎紅葉の師弟。新聞小説で国民的人気を得た黒岩涙香と夏目漱石。自然主義の田山花袋と反自然主義の森鴎外。「生活か芸術か」菊池寛と芥川龍之介。12人でたどる近代文学史。

感想・レビュー・書評

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  • P103
    また原作では、ヒロインの相手役は別の女性の支えもあって立ち直る。しかし『金色夜叉』の貫一は金への憾みと執着から、冷酷無情な高利貸になり金の亡者となり果てて、みずからの誇りや人生の意義も見失っていく。高利貸に、「こうりがし」(=こおりがし・氷菓子)という発音の類似と、厳しい取り立ての冷たいイメージから、「アイス」という異名を与えて流行語にしたのもこの作品である。宮と貫一の人生は、後年ふたたび交錯するが、その展開も原作とは似て非なるものであった。

     いやいや、「ピンプ」の「アイスバーグスリム」よりも先どりしすぎやろ、このアイスの異名……は、さておいて、この本、非常に面白く、それでいておさえる所をおさえた最高の近代文学入門となっているように思う。

     円朝と二葉亭四迷の、耳から目へ移動するさいの、落語速記本と、それから、「勢いで書いた」という偶然性の面白さ。やはり、音の蓄積、落語のリズムの蓄積、それが言文一致につながり、日本の近代文学の始まりとなったのだ。「リズム」が近代文学の誕生の核心であったことが述べられているように思う。

     それから、一葉と三宅花圃からみる、女流作家たちの萩の舎でのしのぎの削り合いと、書いてお金を稼いで生きていく様。
     痩せ世帯の大黒柱とセレブお嬢様。お金持ちであるはずの三宅花圃も葬儀代を出せないほど苦しんでいたが、社交界を描写する小説で人気を出し、無事に葬儀を行えた。
     一葉の強みは貧しい中で触れ合った人々、苦界の人々を描き出すことができたということだ。
     この対照的な世界の見方の差のある二人を、同門同士として描き出していく。

     尾崎紅葉と泉鏡花における、西洋や東洋の種本を使って、翻案していく、師と弟子の流れ。(金色夜叉の原作、パーサ・M・クレーの「女より弱き者」など)この師弟関係も、西洋と東洋の種本の対比が面白く書かれている。

     次は、小説のための新聞(夏目漱石)か、それとも新聞のための小説(黒岩涙香)か。漱石は近代社会における個を追求し、弟子にその深遠なテーマを受け継がせていった。そして涙香は西洋文学を次々に翻訳し、また自身も書き、自然主義の殻をやぶり、大衆文芸の原点をつくり、現代のエンタメにつながっていく土台を作り上げた。
     もし純文学と大衆文学の分かれ目があるとするのならば、「漱石と涙香」が決定的なのかもしれない。

     ほかに、鴎外と花袋における反自然主義と自然主義、菊池寛と芥川龍之介における生活第一と芸術至上主義。各章二人ずつを対比させながら、近代文学における重要なポイントを押さえていく。入門として究極の一冊と言えると思う。

  • 文体をテーマに三遊亭円朝と二葉亭四迷を取り上げるというようにテーマごとに2人ずつ取り上げて合計12人、代表作を中心にその人生を描いている。最後が菊池寛と芥川龍之介である。それぞれの作家の文学史に持つ意味がまざまざと浮かび上がってきて、とても面白かった。これらの作家を巡る人々や時代の様相や別枠のトピックスもまた興味深い。芥川などを読みふけった学生時代を思い出して、ちょっとなつかしい気分になった。

  • 第1章 異端の文体が生まれたとき―耳から目へのバトン
    第2章 「女が書くこと」の換金性―痩せ世帯の大黒柱とセレブお嬢さま
    第3章 洋の東西から得た種本―模倣からオリジナルへ
    第4章 ジャーナリズムにおけるスタンス―小説のための新聞か、新聞のための小説か
    第5章 実体験の大胆な暴露と繊細な追懐―自然主義と反自然主義
    第6章 妖婦と悪魔をイメージした正反対の親友―芸術か生活か
    終章 文学のその後、現代へ

    著者:堀啓子(1970-、兵庫県、比較文学)

  •  人物史中心というスタイル。
     作品の解説という要素は、あまり無い。
     けれど、ここを第一歩に進めていく時には、確かな足場になるだろう。

  • 1年前に読んでいたのに、記録もれ。

  • 今日の日本文学の礎を作った名高い文豪たちの様々な面をエピソードや丁寧な分析、いろいろな傍証や引用をもとに検証された労作です。こんな作品が新書版で読めると言うことがとてもありがたく、この国の文化の素晴らしさだと思います。

  • 日本文学史にまつわる本を探していて出会った本書。
    12人の文豪を取り上げながら、文学における表現方法や、作家の生い立ちおよび作品が生まれた背景やそれぞれの作家としてのスタンス、またいかにして読者に作品を届けるかなど当時の奮闘ぶりが垣間見れる作品と感じました。

    それぞれの作品・人生の裏側に物語があり、あらためて日本文学を読み直したいと思え、その足がかりとして参考になる良書だと思います。

    個人的には、なぜか三遊亭円朝・黒岩涙香・菊池寛の、作品を読んだことがない作家のエピソードに興味を持ちました。
    そしてこの世にある大量の作品にも、いろいろな舞台裏があるのだと想像し、文学にまつわるすべてのことに敬意を持ち、心して今後の読書ライフを満喫したいと思いました。

    恥ずかしながら、私には文中の単語などやや難しく電子辞書で調べながら読了しました。

  • 文学史を時系列通りに辿っていくというよりも、テーマを絞って掘り下げていく本である。
    黒岩涙香について知ることができて、良かった。

  • 章ごとのテーマの設定が面白く、そこにそれぞれ2名だけに焦点をあて扱うことで見えてくるモノがあって面白い。
    2名の選び方も面白く、円朝と四迷とくれば「ああ、文体構築の話だな」とピンと来ますが、涙香と漱石を並べられると接点が思いつかない二人で、「新聞小説」というキーワードでようやく結びついて「なるほど!」といった感じの。
    他には一葉と田辺花圃(お互い切磋琢磨した女流)、紅葉と泉鏡花(師弟)、花袋と鴎外(自然主義と反自然主義)、菊池寛と芥川龍之介(正反対の親友)…とどれも面白い着眼点!
    最後にかなりザックリですが現代に繋がるまでの近代文学史の話もふれていて、読みやすく面白い1冊でした。
    巻末の索引と主要参考文献の詳細な一覧も流石です。便利。

  • 近代日本文学について代表的な人物を選んで学ぶことができる。すべてを網羅しているわけではないが、この本を読めば、近代日本文学の発生から展開まで通覧できる。ちょうど三宅雪嶺の評伝を読んだ後なので三宅かほについて詳しく知れてよかった。樋口一葉、田山花袋、読んでみようかな。

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著者プロフィール

堀啓子

1970年生。1993年、慶應義塾大学文学部国文学科卒業。1999年、慶應義塾大学大学院文学研究科博士課程(国文学専攻)単位取得退学。博士(文学)。現在、東海大学文学部教授。
主著『日本ミステリー小説史』(中公新書, 2014)『和装のヴィクトリア文学』(東海大学出版会,2012)『新聞小説の魅力』(東海大学出版会, 2011)訳書『女より弱き者』(バーサ・クレー著 南雲堂フェニックス,2002)ほか

「2019年 『日本近代文学入門』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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