財政・金融政策の転換点-日本経済の再生プラン (中公新書 2784)
- 中央公論新社 (2023年12月20日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
- / ISBN・EAN: 9784121027849
作品紹介・あらすじ
世界の経済政策が大きく転換しつつある。これまで政府支出などの財政政策は抑制的に、金融政策はそれとは独立して行うことを常識としてきたが、昨今、その実効性が疑問視されるようになったのだ。巨額の政府債務と長期の低金利政策で財政破綻さえ囁かれる日本。この苦境をどのように打開すべきなのか。財政・金融政策の現代的な意義と機能を考察し、日本再生に必要な両政策の統合運用と高圧経済への移行を提言する。
感想・レビュー・書評
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2024/04/19再読する
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財政・金融政策の統合運用による高圧経済への移行を提言した本書は、初学者でもわかりやすく丁寧に(ときには丁寧すぎるほど丁寧に)財政政策とは何か、金融政策とは何か、それぞれ何ができて、何ができないかを説いている(第1章・第2章)。
第3章から俄然面白くなってくるのは1980年代以降の日本経済の舵取りがまさに財政・金融の整合性のない政策がいかに経済成長を妨げてきたかが具体的に書かれいるからにほかならない。そして政府債務の長期的維持可能性について、「狭義の財政の枠内だけで問題をとらえることはできない」「(金融政策によって長期金利を自然利子率と同じかそれを下回る水準に置くということで作り出される)低位の金利水準という前提条件のもとで政府の支出・課税の水準は決定される必要がある」(括弧内は引用者、以下同様)「そして、財政の維持可能性条件のひとつであるドーマー条件(r-g<0)については、幸せな形で、満たされなくなる場合(収益性のある投資プロジェクトの簇生で自然利子率が上昇する場合)がある。……(このような場合)政府債務の対GDP比を維持していくためにはプライマリ・バランスの黒字化が求められ」「この『理想の財政再建』を可能にするための成長政策を描くこと」が重要であると結論される(p.164)。
最終の第4章では具体的な需要主導型経済政策(需要が供給を作り出し、経済成長をもたらす)への転換が提言される。とは言え、何も目新しいことが主張されているわけではない。たとえばルイスモデル(低生産性部門から高生産性部門への労働力移動によって全体の生産性が上昇するということを途上国の近代化過程で実証したモデル。日本も高度成長の実現過程がそれに合致する)が提示するような論点はいまだに有効性を失っていないと筆者はいう。まさに然り。生産性の格差が地域や産業によって存在することは自明なので、高圧経済下でそれを促進することは可能である。ただしこれが従来の産業選別的な政策になってしまわないように注意する必要がある。著者は『官僚たちの夏』で描かれた特定産業振興臨時措置法案の挫折はのちの自動車産業発展にプラスになったことを例示しつつ、中立的で伸縮的な財政政策を提言している。さらに人材と経営の流動化、社会保障改革(介護・医療産業の合理化、高付加価値化)などが重要であり、それを高圧経済のもとで進めていく必要があると結んでいる。本書によって各方面での本格的議論が進むことを期待したい。 -
【配架場所、貸出状況はこちらから確認できます】
https://libipu.iwate-pu.ac.jp/opac/volume/570774 -
京都府立大学附属図書館OPAC↓
https://opacs.pref.kyoto.lg.jp/opac/volume/1280574?locate=ja&target=l? -
東2法経図・6F開架:B1/5/2784/K
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【請求記号:332 イ】
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難しい
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丁寧に解説してくださってはいますが結構な予備知識が無いと読み通すだけでも超ハードな本だと思います。しかし10回読んででも理解する価値のある内容です。伝統的な金融政策やリフレのみならずピケティやMMTなど近年のキャッチーな話題にも触れており知識の整理にもたいへん役立ちます。素晴らしい