公安調査庁-情報コミュニティーの新たな地殻変動 (中公新書ラクレ 692)

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  • Amazon.co.jp ・本 (244ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121506924

作品紹介・あらすじ

「あの時、MI6は、公安調査庁に


極秘情報を渡していた――」




深い霧に覆われた情報組織、これが公安調査庁だ。一般の目が届かない深層で情報活動を繰り広げ、決して表舞台に出ようとしない組織。逮捕権を持たないため、人の心の襞に分け入るヒューミント(対人諜報)に存在意義を見出している。公安警察や外務省と情報コミュニティーの主導権を競う公安調査庁。インテリジェンスの巨匠ふたりは、その素顔に切り込み、過去の重大事件の裏側を初めて論じてみせた。いま公安調査庁から目が離せない!

感想・レビュー・書評

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  • 「想像を絶するような事態を覚悟して備えておけ」
    911同時テロや、福島原発事故を予測して対応する組織、それが、公安調査庁である。

    公安調査庁は、国際的にも認知された第一級のインテリジェンス機関であること、公安調査庁でつよいのは、ヒューミント(人によるインテリジェンス)、とオシント(公開情報諜報)である。が結論です。

    ・インテリジェンスとは、国家が生き残るための選り抜かれた情報である。国家の舵取りを委ねられた政治リーダーは、彫琢し抜かれ、分析し抜かれたインテリジェンスを拠り所に、国家の針路を決める。

    ・米ソ両陣営は国際条約で生物化学兵器の製造使用が禁止されても、細菌・ウィルス兵器で襲われる事態に備えて、感染症の専門家を養成し、防護策を研究することをやめなかった。

    ・公安調査庁は、かつてオウム真理教が起こしたサリン事件を手掛けた経験を持ち、生物化学兵器に対する豊富な情報を蓄積している。世界の感染症とウィルスの専門家から貴重なヒューミント(人的情報収集)を集めて収集分析し政治の意思決定に貢献できる潜在力を秘めている。

    ・金正男身柄拘束事件は外交カードとして横田めぐみさん拉致被害者を取り戻せる可能性があった。

    ・サード・パーティー・ルール:情報機関というのは、基本的に自前でとってきた情報しか、横には流せない。

    ・相手国が嫌がる、出したがらない情報を入手するのが、インテリジェンス・オフィサーの仕事である。

    ・公安調査庁の職員すべてが、基本的に調査官。このためかなりフラットな組織である。

    ・公安調査庁には逮捕権がない。それは、警備公安警察とバッティングしてしまうから。第二警察となってしまう恐れがあったから。

    ・公安調査庁は、法務省の下部組織であり、そのトップは検事で、幹部クラスには、警察官もいる。

    ・国家のインテリジェンス活動におけるクライアントはただ一人。日本では、内閣総理大臣であり、アメリカでは大統領である。

    ・外国情勢も公安調査庁の対象となっている。もはや、外務省の選管事項という時代ではない。

    ・日本で問題を起こすかもしれない危険人物を、監視対象とみるだけでなく、逆に情報提供者として協力してもらえる存在と認識することが大切

    ・やがて母国に帰った時には、地道に情報の収集活動をしてもらえ、何らかの形で連絡してもらえれば、貴重な情報が入手できる。

    ・調査官は記憶力と再現力の訓練を徹底的にやっている。聞いた話を正確に記憶する訓練を徹底してやる。

    ・インテリジェンス・オフィサーに必要な言語力は、日本語である。語学力は、新聞を正確に読むことができニュース番組を聞いて理解できる。

    ・高度な言語力をもつ専門官をつくるためには、3000万から5000万が必要となる。

    ・AI全盛時代になっても、ひとの心の襞に分けて入っていく質の高いヒューミントは欠かせない。

    ・公安調査庁発足当初は、右翼が対象だったが、共産党、左翼が対象になっていく。

    ・日本の暗号技術が各段に進歩したのは、ポーランドの協力のおかげ。ソ連を仇敵にしてきたポーランドは親日。

    ・日本共産党と朝鮮労働党は、実は一体。日本国内をかく乱して、朝鮮半島を丸ごと共産化する意図。

    ・警察権をもっていないからこそ、人間関係を大切にして情報活動をやらざる得ない。こうした諜報技術、経験を軍から公安調査庁が引き継いだことは大きな意味があった。

    目次は次の通りです。

    まえがき
    第1章 金正男暗殺事件の伏線を演じた「最弱の情報機関」
    第2章 コロナ禍で「知られざる官庁」が担ったもの
    第3章 あらためて、インテリジェンスとは何か?
    第4章 「イスラム国」日本人戦闘員の誕生を阻止
    第5章 そのDNAには、特高も陸軍中野学校もGHQも刻まれる
    第6章 日本に必要な「情報機関」とは
    あとがき

  • このお二方の対談は
    『独裁の宴 - 世界の歪みを読み解く』
    『米中衝突-危機の日米同盟と朝鮮半島』
    『日韓激突-「トランプ・ドミノ」が誘発する世界危機』
    を読んだので、今回のタイトルには
    「は?なんですか、それ」と思いました。

    しかしこの公安調査庁というのはスゴイです!
    〈国家の安全を脅かす団体や人物についての情報を集める機関で、法務省の下に置かれています。
    警備・公安警察とは違い、強制捜査、逮捕権などを持たず、収集した情報は合同情報会議などを通して内閣に上げるまでが仕事です〉

    記憶に新しいところでは、2014年イスラム国に外国人戦闘員として加わる目的で渡航しようとしていた北大生の行動をくいとめた事件。

    かっこいいでしょう?
    しかも彼らは名刺をきったり手帳を見せたりせず
    寄る辺なき立場で調査活動を行います。
    隠れて見ていてパトカーで追いかけてきて
    「一時停止しなかったぞ」「進入禁止だ」などと言ってくる連中とはえらい違い。

    イギリスでは彼らのような仕事をドラマにして国民に見せているけど、日本では知名度低い。
    公安調査庁の公開情報『内外情勢の回顧と展望』を開いてみたらいいそうです。

    手嶋氏のまえがきより
    〈公安調査庁は、かつてオウム真理教が起こしたサリン事件を手がけた経験を持ち、生物・化学兵器に対する豊富な情報を蓄積している。世界の感染症とウイルスの専門家から貴重なヒューミント(人的情報収集)を集めて、収集・分析し、政治の意思決定に貢献できる潜在力を秘めている。未曾有のパンデミックに見舞われたいま、独自のインテリジェンスこそ、ニッポンが生き残る力となるーその冷厳な事実を本書から汲み取っていただければと願っている〉

  • 公安調査庁…日本の情報機関、警察と違い強制捜査・逮捕権は持たない。

    今までの各国の情報コミュニティにおいては、国家安全保障の中心テーマには「テロリズム」が据えられていたが、コロナ後には「パンデミック」が最重要レベルに位置づけられた。

    現在、日本では外務省が情報を取れなくなり、代わりに内閣情報調査室や公安調査庁が頭角を表してきた。

    公安調査庁が逮捕権を持っていないのは、警備・公安警察との役割の干渉を防ぎ、独立性を担保するため。また、「その情報を使って何をするか」はあくまで政府に委ねている。

    膨大で雑多なインフォメーションは、経験を積んだインテリジェンス・オフィサーが評価分析して、初めてインテリジェンスに加工される。これはビッグデータとアルゴリズムの関係。いくらビッグデータを集めようとも、人間が組むアルゴリズムが間違えていれば終わる。最後は人間頼り。
    また、珠玉のような情報は、人と人とが触れ合うことを通じて生まれてくる。

    ヒューミントは、自ら積極的に対象に肉薄し、ピンポイントで情報を引き出す。そのためには揺るぎない人間関係を築き上げ、「嘘をつけない」信頼関係を構築する。

    公安調査庁設置の目的は、社会秩序の維持にある。最大の責務は共産革命の阻止。

    アメリカ、ロシア、日本でのインテリジェンス・プレイヤーが、こぞって外交、安全保障分野という政治の表舞台に抜擢されている。
    インテリジェンスを直に握る政治のプレイヤーが、枢要な地位を占めたりすると、国の針路を大きく誤ることになりかねない。これを防ぐためには、選挙で選ばれた国会が、諜報活動をきちんと監視する仕組みを持つことだ。

    公安調査庁は、上手くいっているときは仕事が見えない。しかし、存在意義が国民に伝わらないかぎり、公安調査庁への理解と支持を得るのは難しい。

    インテリジェンス感覚を磨くために
    ・小説の、登場人物のセリフの「意図」を読む
    ・公開情報を読み込み、状況証拠を固めておく訓練をする
    ・今やっている自分の仕事のうち、ここが事実でここから先はキーパーソンに会って確かめる、という線引きをして、自分の仕事を客観的に評価する

  • 日本のインテリジェンス面の弱さは人口に膾炙してきたが、一般に知られない中で一定の力を有している事は心強い。イギリスは国民の情報感度が高いとあるが、やはり市井一般の底上げが全ての根幹なのであろう。

  • 公安調査庁が2001年5月の密入国事件で秘密裏に手柄を挙げていたというストーリーを皮切りに、公安調査庁の歴史や役割について手嶋さんと佐藤さんの議論形式で論を進めていく。

    珠玉は、公安調査庁の歴史を紐解いた5章と方向性を論じた6章かなと。特に、6章において、情報機関への国会の監視、情報機関員の身分保証、情報機関のメディア戦略の必要性というところはとても説得力があった。前半は少しダラダラ長すぎる感あり。

  • 公安調査庁は組織として小さいながらも、ヒューミントをはじめとした非常に優秀な情報収集能力をもった組織であることが分かる。

    その他、日本のインテリジェンス組織についての知識を色々と得ることができた。

  • 図書館で借りて読んだ。
    大昔にテリー伊藤さんが書いた公安調査庁の本では「公安調査庁と言う組織は新聞の切り抜きしかしていない」と揶揄されていたが、昨今ではかなり状況が違うようである。

    公安調査庁の調査官は逮捕権を持たないことで調査能力を上げてきたと言うことや、対外活動で成果を上げていることなど、自分の中でアップデートされた知識も多かったように思う。

    また、インテリジェンスの重要性や、現在のインテリジェンスの世界における潮流を知ることができ、

  • 読了。面白かったが難しかった。公安警察と違うんだと知った。

  • お二人の対談本は、刺激に満ちていて面白いのだけど、下手すると単なる頭の良い陰謀論になってしまう、受け止められてしまうという側面があるなあ。
    この本は、法務省のもとにある公安調査庁というインテリジェンス組織について、国際事件を下敷きにしながら解説していくというものだが、なんというか、公安調査庁がなにかというところは結果わかりにくい。
    例えるならば、インターポールが、銭形警部のように現場に赴いてルパンを逮捕するような業務はやっていないというそういうことか。
    SNS全盛の時代において、すぐそこにスパイがいる、本人もそんなことを全く意図していないけれどもという時代になってしまったように感じる。ツイッターに投稿された写真一枚から、その人の居場所が割り出せてしまう世の中なのだ。
    本当に大切なことはインターネットの海になんか落ちていないということとあわせて、情報の使い方次第ではそれは大きな脅威にもなってしまう(類推できてしまう。)ということなのだと思う。

  • 相変わらずサクッと読めてよし

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著者プロフィール

手嶋龍一  Teshima Ryuichi 外交ジャーナリスト・作家。9・11テロにNHKワシントン支局長として遭遇。ハーバード大学国際問題研究所フェローを経て2005年にNHKより独立し、インテリジェンス小説『ウルトラ・ダラー』を発表しベストセラーに。『汝の名はスパイ、裏切り者、あるいは詐欺師』のほか、佐藤優氏との共著『インテリジェンスの最強テキスト』など著書多数。

「2023年 『ウクライナ戦争の嘘』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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