エッシャー宇宙の殺人 (中公文庫 A 199)

著者 :
  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (291ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784122013629

感想・レビュー・書評

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  • 荒巻義雄『エッシャー宇宙の殺人』読了。
    様々な人の見る夢から成立する街カストロバルバ。この街ではエッシャーの騙し絵のような建造物が実在する。誰もが一度は見たことがあるエッシャーの絵画の中で起きる殺人を夢探偵の主人公が解決する連作短編なのだけれど、夢と幻想の世界だけあってやや本格度は薄い。しかしエッシャーの絵だからこそ発生する現象を土台にした事件はやはり面白い。特に2話の無窮の滝の殺人はミステリファンも十分楽しめる。モルグ街やまだらや密室の行者のネタバレがあるが(笑)
    僕が何より好きなのはこの小説の舞台。夢の街の中での日常があまりに魅力的で、仕事なんてしないでこの世界でのんびり暮らしたい、と本気で思ってしまった。幻想ミステリの傑作と言っていいだろう。
    つらくなったら再読して現実逃避しよう、そうしよう。

  • 『カストロバルバ~エッシャー宇宙の探偵局』改題文庫版。
    現実世界では平凡な人間である万治陀羅男(まんじ・だらお)が
    夢という別世界で名探偵ぶりを発揮する物語。
    舞台となる海港都市カストロバルバはM.C.エッシャーの作品が実体化された街で、
    エッシャーが創造した「新しい遠近法」や「不可能な図形」を応用した建築物で
    成り立っており、その名はエッシャー1930年制作の風景画に由来。
    街の空気が地中海性気候らしく描かれているのが、エッシャー作品に相応しい印象、
    だが――殺人事件を探偵が捜査して犯人を指摘するミステリの形式を取っているものの、
    そもそも舞台が夢の中であり、
    しかも、建築物がエッシャー作品を立体化した造形(!)なので、
    トリックなど、ああそうですか、としか言いようがない(笑)
    精神分析的解釈で動機を言い当てるのはいいとしても、
    結局、夢の中の話だし……。
    作者が心理学×建築学を修めた人だから、そういう筋立てになるんだろうか。
    確か、昔読んだ『聖シュテファン寺院の鐘の音は』も、
    建築家のアニマがどうとかいう話だったっけなぁ。
    そもそもミステリとして読むべきではないのかもしれないが、
    かと言って、SFとしても幻想文学としてもパンチが足りないというか、
    中途半端な気がして、よく出来た作品だと思うが今一つ好きになれない、といったところ。

  • 是非エッシャーの絵を隣に置いて読みたい。

  • 騙し絵で有名な画家エッシャーの絵が具現化された街カストロバルバ。
    そこで起こる様々な殺人事件を夢探偵、万治陀羅男が解決していきます。
    ちなみに夢探偵とは夢の中での探偵ということです。
    夢の中での殺人事件なのですが、けっして荒唐無稽な内容ではありません。
    世界観は妙ですし、事件もこの世界ならではのものばかりですが、必ず順を追って事件は解体されていきます。
    捜査は現実と同じに現地の警察がきちんと行いますし、陀羅男の推理方法もオーソドックスです。
    しかし、それだけでは事件は解けないところが非常におもしろいです。
    実は事件には登場人物の持つ様々な心の中の感情、不安や嫉妬等が密接に関わってくるのです。
    一連の事件に精神分析学的な解釈を与えて、関係する人物に当てはめていくことでようやく全貌が明らかになる仕組みなのです。
    精神分析学の説明も解りやすく、カストロバルバの世界観もとても楽しかったです。
    最高の連作短編集だと思います。

  • 物見の塔、無窮の滝、版画画廊、球形住宅…天才画家エッシャーの描き出した超建築の街カストロバルバの不可解な連続殺人、幻想の都市を訪れた夢探偵万治陀羅男はこの白日夢的世界に事件の謎を追うが。

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著者プロフィール

1933年小樽市生まれ。早稲田大学で心理学、北海学園大学で土木・建築学を修める。日本SFの第一世代の主力作家の一人。1970年、SF評論『術の小説論』、SF短編『大いなる正午』で「SFマガジン」(早川書房)デビュー。以来、執筆活動に入り現在に至る。単行本著作数180冊以上(文庫含まず)。1990年代の『紺碧の艦隊』(徳間書店)『旭日の艦隊』(中央公論新社)で、シミュレーション小説の創始者と見なされている。1972年、第3回星雲賞(短編部門)を『白壁の文字は夕陽に映える』で受賞2012年、詩集『骸骨半島』で第46回北海道新聞社文学賞(詩部門)2013年度札幌芸術賞受賞2014年2月8日~3月23日まで、北海道立文学館で「荒巻義雄の世界」展を開催。2014年11月より『荒巻義雄メタSF全集』(全7巻+補巻/彩流社)を刊行。2017年には『もはや宇宙は迷宮の鏡のように』(彩流社)を満84歳で書き下ろし刊行。2019年、北海道文学館俳句賞・井手都子記念賞、伝奇ロマン復活第一弾『有翼女神伝説の謎』(小鳥遊書房)を刊行(続編『高天原黄金伝説の謎』『出雲國 国譲りの謎』)。『SFする思考』で第43回SF大賞受賞・現在も生涯現役をモットーに、作家活動を続けている。

「2023年 『海没都市TOKIYO』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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