ものぐさ精神分析 (中公文庫 き 3-3)

著者 :
  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (429ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784122025189

作品紹介・あらすじ

人間は本能のこわれた動物である-。人間存在の幻想性にするどく迫り、性から歴史まで文化の諸相を縦横に論じる、注目の岸田心理学の精髄。

感想・レビュー・書評

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  • いやーこれまたいい本ですね。
    昭和51年だから。。50年くらい前?

    まずは「歴史」
    「抑圧って消えずに戻ってくんじゃん?教室を追い出された学生が力ずくで戻ろうとしたり擬装して戻ろうとしたり」と謎切り口で始まる。集団は1人の人間として分析出来るから擬人化とかじゃなくて人間と同じにやってくよーと。ペリー来航で日本人は精神分裂になっちゃった。外と内が完全に別れてコントロール不可になったの。尊王攘夷、征韓、ほらね。みたいな。
    特に「韓国を征服することは自分を白人側に置くこと」はなんか分かる。女装が言うことって自分が男としてやりたいことだらけで女性に対する配慮ゼロなんだよね。(何の話だっけ)
    冒頭70ページは怒涛の勢いで日本近代を、吉田松陰を、国家を、太平洋戦争を精神分析していく。
    んで「歴史」の中の最後の章では「人間は現実を見失った存在。だから幻想に生きてる。他人と部分的に幻想を共有してるだけ。でそれを現実と呼んで生活してるだけ。」とばっさり。犯罪者ってエリート兄弟に1人だけ現れる穀潰しと一緒よ。んでそいつがいなくなったら他の奴が穀潰しになんの。その正義を存続させるためにどれだけのものを取り除くかにかかってるからね。だってエリート兄弟たち、無理してんだもの。抑圧されてんだもの。だから末の穀潰しの弟の尻拭いしながら解消してんのよ。とな。で、そのエリート兄弟たちは何か神聖なものを拠り所として生きてる。そこでまた問われる。人間って何かを聖化せずに生きていけまんのん?と。
    「必要悪」とはまた違うけど、この世界は全部幻→共同幻想→心許ないから絶対的な何かが欲しい→聖化→でも何かを聖化するとそれ以外を穢れとして血祭りにあげることになる→何かを聖化せずにいられる?もし無理なら未来はあんまり良くないものじゃない?と。
    最後の章は「これって歴史の範疇かね?」って感じだけど歴史を、明治以降の日本人を、精神分析し続ける。
    途中アメリカの話に立ち寄るところもいい。
    自由平等民主っていいますけど100万のインディアン虐殺の上の話ですよね。脅迫的反復が広島長崎ベトナムの大量虐殺に繋がるのよ。父親の虐待にあった女性は同じような男に惹かれる。父親の虐待は実は愛情だったと思い込むために残酷な男に愛情を確認しようとする。が残酷は残酷のみ。
    父親に愛されていなかったことを認めなければ彼女の人生は変わらない。アメリカもそれと同じ。インディアン虐殺を認めて欺瞞と暴力で奪った土地を返さない限り、自由平等民主の幻想が偽りであったことを認めない限り今後もチャンスと口実があればどこかの民族を大量虐殺するで。と。

    「性について」
    赤ちゃんからのナルチシズムの変遷とフェティズムの分析が特におもろい。子供が肌身離さないハンカチは自己の全能性ナルチシズムの投影だと。とするとフェティズムは未熟な人格となる。
    圧倒的に男の方がフェティズムに関する犯罪も多く、男の性欲は性器を離れてると言える。
    フェティズムってブスの証だと思ってたけど根底は未熟さなのね。もう最悪じゃん。笑
    人間の性欲には身体と心のズレがあるからフロイトの言う幼児性欲は不能者だ。幼児は性欲を感じても不能であるが、タブー(近親相姦)を設けて自分の不能が原因ではなく外的禁止と考える。(酸っぱい葡萄)人間は不能者から始まる。だから口唇期があるのだ。(他の動物はいきなり性器期)
    性器を使った性行は本能なんかではなく、自然ではない。勿論倒錯も違う。そもそも人間のエロスに関して自然なものなどどこにもない。
    「人類が滅亡しないのは出産に繋がる性行為を文化とし強制出来たから。動物と人間の性行為は似て非なるもの。花と造花。発情期もなく年中可能なのは造花だから。造花だからバラの木にバラ以外のどんな花も咲く。倒錯は造花。」
    へーーーーー。こんなふうに考える人もいるのね。アインシュタインとフロイトの書簡では子供の数が減る(本能の減少)は文化によるものとして、戦争も文化でなんとかなるといいなぁとしてたけど。ここでは性行為自体を造花と切り捨ててる。ほんまかいなと思ってるところに説明は続く。「だって男らしさとか女らしさとか社会身分でしょ?あれはガッチャンコするためのもの。プラトン饗宴や似た話が世界中であるのもこの文化の合理化。おやまぁ。
    女性器に対する男の性本能は崩壊していて、女性器に対する様々な表現は全部文化だと。
    色んな女を追いかけるのは本能ではなく幻想だと。
    男の性は不能からスタートすんだから女性の抵抗に内的な不能の危険を外在化してそれを克服(女性が段々抵抗を弱める)して内的不能を克服する。と。
    えーーそうかなと思ったけど確かに女性器だけではおそらく全ての男は興奮しない。丸出しでこられても同じだな。てことはやはり本能じゃなくて文化なのか。進化心理学ではどうなんかなとか思ってたら著者もそのまま書いてる。
    「はいどうぞ!頑張って!と言えば男はたちまち萎える」そうよね。その程度のとこが本能なわけないよね。うん、そう。
    で、名言。「恋愛は芸術に比せられよう。それ自体は値打ちのない材木などの素材。美や価値はその素材のそれではない。恋愛の素材は様々な私的幻想。幼児的願望。手前勝手な期待。」
    恋愛において共同幻想のレベルが同じであることが説かれる。んで、「富岡は金でお宮を買う。が貫一が知ってるお宮を買うことは出来ない。強欲な女が本質的特性と思ってはならない。他の男には無欲な女かも知れぬ。共同幻想の質とレベルが関係の質とレベルを決める。」
    だから相手の男(女)の悪口って自分自身の悪口なんだ。。。。

    「人間について」
    時間は悔恨に発し空間は屈辱に発する。
    は?となるとすぐに説明してくれる。
    だって全て思い通りだったら過去なんてどうでもいいだろ。欲望が発生した時点を過去とする。年から秒まで分割したのは過去の侵蝕、過去は過去であるとする強迫神経症的症状だ。と。反応現場に戻る犯人と同じ。未来は仮装された過去。修正されるであろう過去。死を恐れるのは過去修正チャンスが絶たれるから。
    浦島太郎で竜宮城は子宮、陸地と竜宮城を行き来する亀は太郎のペニ◯、玉手箱は乙姫の性器、開けてはならぬ玉手箱とは竜宮城にいないのに乙姫を欲すること、ジジィになるのは場違いさを感じながらも年老いていくだけの私達とな。
    幼少期に自身の排泄物を汚い臭いと感じたときから世界はどんどん狭まっていく。だから短距離で1/1000を競うのも、エベレストに登るのも、月に行くのも、空間の屈辱への復讐快感なんだよ。
    なんだよこれ。最高じゃん。

    「心理学について」
    ここ何?愚痴?笑 急になんかテイストが違うような。。この章丸ごと全く味がしない。

    「自己について」
    幻想我(ナルチシズム)と現実我(エゴイズム)。ボロ(現)は着てても心(幻)は錦。ナルから始まってエゴに行き着く。でも厳密には一生ナルのまま。手段選ばずナルの種に手を伸ばす(親戚に有名人とか実家が旧家とか)
    この本が書かれた頃の方がまだナルを発揮するにも条件があったのかも。今やSNSを舞台にどうにでも幻想は創れるし。でもそのうち戻るかな。
    で。「ナルにとってエゴは邪魔。自殺者の何割かはこれ。三島由紀夫とか。」わかるーーーー。
    部分的自殺としての美容整形もコレのような。
    こういうのを「虚栄」と嘲笑うのもいいんだけどOnOffじゃなくて程度問題ですよね。
    どちらもあまり良くは無さそうだけど、せめてエゴイストでいたいものよ。
    ナルとエゴの関係は自己嫌悪についての分析で「真の自分」(自己嫌悪する側の幻想の自分)と「現実の自分」にそのまま引き継がれる。自己嫌悪をする人は悪癖は直らないとも。(自己嫌悪は免罪符であり恥や罪は洗い流されるし、どうせ他人への嫌悪のように徹底的には行われない。)
    「自己嫌悪はしょせん、強盗殺人犯が強盗だけを自白するようなもの。」
    「自己嫌悪は内的葛藤であり内的緊張である。その解消のために容易に他人への嫌悪に転化する」
    「汲み取り屋が差別されるのは自己の排泄行為を非自己化する」
    というわけで自己嫌悪ほど卑劣なことはないと結論づける。

    本も300ページを超えて僕好みの文章オンパレード。
    「生きづらさ」とかのベストセラーに準えて「まさか本気で言ってませんよね?」と始まり、セルフイメージとは客観的性質ではなく他者からの期待評価もしくは要求評価であると言い切る。
    僕は常々「自分なりに一所懸命やった」だの、平均値のデータがないにもかかわらず「優しい」だの「一途」だのほざく奴が嫌いで、彼らの問題は甲子園の3回戦レベル練習しかしてないのにメジャーリーグ練習レベルで話すことだと思っていたが、筆者は「本人が我慢したレベル」とする。深く納得。
    めちゃくちゃケチな人間がかなり我慢して他人を奢った場合、自己評価はその我慢に比例するだろうね。ふむふむ。
    最後は生い立ちについて。 
    その前に自作の詩を挟んでいるのでゆっくり時間を遡ってそれからまた展開する方法。
    自身の神経症や強迫観念躁鬱が母の呪縛であったこと、敗戦写真へのアレルギー克服から当時の敗戦が無知無能ではなく神経症的なものであった可能性を感じるところまで。(冒頭に戻る)

  • ずいぶん前に買った本は大正解だった。最近当たりが続いている。中には難解なところもあったが、とても面白い。日本国民は精神分裂病的であり、その素質を作ったのがペリー来航である、との分析は優れていると思う。外的自己と内的自己との分裂が発生し自己同一性の不安定さを生み、それが今なお(この本の著述後40年以上経った現在でも)続いているのはよく分かる。
    理論体系がしっかりしているから理解のしかたが一般的なものと逆になっているところだらけだが「言われてみればその通り」と思うところが多い。先の「日本近代を精神分析する」に続き、「一人称の心理学」「セルフ・イメージの構造」は現在自分の周りにいる人によく当てはまる人がいるせいか、具体的なイメージをもって読むことができた。

  • 人生最高の5冊を選べと言われれば、いの一番に頭に浮かぶのが本書。初めて出会ったのは中学生の頃だったと思うが、読んでいくうちにスーッと心が軽くなっていったあの体験。世界には色々な考え方があって、それを知ることで少しずつ自由になれるんだ、読書って面白い!と私少年は感動した。今後も何度も何度も読み返していきたい。

  • 日本という国家を精神分析的に捉えた内容が面白かった。

  • 父の本棚にあったのを覚えていて、なんとなく手に取りました。正直言って2022年に何かの資料とかでもなくこの本を読んでも世の中が変わりすぎて意味ないのかなあとかんじました。出だしのつかみだけ立派で後半がぼやける感じの編集もあいまって、もやもやしたまま読書を終えました。私の読解力の問題かもしれません、、。
    でも、きっとこの本が出た頃の若者、特に男性はデートで自慢げにこの本の内容を女性にふいてたんだろーかと、、妄想し、胸糞悪いので感想を書いてみました。

  • 難しくて途中で読むのを断念してしまった
    幼児の性欲などは斬新な考え方だなと思った

  • 目からウロコ

  • 岸田流性的唯幻論はある意味ではポストモダンの走りかもしれない。初出の1970年代後半とは,高度経済成長が終わり,目標を見失いつつあったこの国で,「本能が壊れた」という表現がウケた時代だったのだろう。
    共同幻想論との同時代性も気になるが,文化史的考察の対象としてであって,現代に生かすテキストとしての価値はあまりないように思われる。
    伊丹十三の解説が指摘するように,「わたしの原点」として明らかにされるのは,著者が「患者」であるということで,これはある種の当事者研究でもあるかもしれない。

  • 読んだ後、ものの見方が根本から変わった。私のバイブル。

  • 人間に対して批判的すぎるのでは?と思うことも時折あったけれど、総じて目から鱗の岸田秀的精神分析論だった

    歴史について、性について、人間について、心理学について、自己についての5つに分かれている
    最初の「歴史について」が特に鋭い考察だなと思ったけれど、それ以降中弛みが続き、最後の「自己について」の自己嫌悪の効用、セルフイメージの構造、自我構造の危機で再び唸らされた
    (あとがきに本人がこの部分は読んでほしいという章が紹介されているからそこを参照するといいかもしれない)

    ものぐさと言っている割には、400頁を超える長さで、心理学をほとんど知らない私にとっては理解しにくい部分も多々あったが、読み応えがあり、何度も読み返したいと思える本

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著者プロフィール

精神分析者、エッセイスト。1933年生まれ。早稲田大学文学部心理学専修卒。和光大学名誉教授。『ものぐさ精神分析 正・続』のなかで、人間は本能の壊れた動物であり、「幻想」や「物語」に従って行動しているにすぎない、とする唯幻論を展開、注目を浴びる。著書に、『ものぐさ精神分析』(青土社)、「岸田秀コレクション」で全19冊(青土社)、『幻想の未来』(講談社学術文庫)、『二十世紀を精神分析する』(文藝春秋)など多数。

「2016年 『日本史を精神分析する』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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