菊亭八百善の人びと (下) (中公文庫 み 18-17)

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  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (476ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784122041769

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    江戸時代の古き良き料亭も時代の流れについてゆくことは出来ず、いよいよ経営は立ち行かなくなる。
    そんな中、汀子は日々生き抜いていくのだが、胸に秘めた小鈴への想いと、店の経営の不甲斐なさから、どうしてもやりきれない想いを抱いていた。
    しかし、幾多の困難を乗り越えるに際して強くなる汀子は、ある重大な想いをもとに家族を、大切な人を、そして老舗料亭の看板を未来へ導こうとする。

    実際にある八百善を舞台にしており、実際の舞台があるからこその当時のリアリティが伝わってくる。江戸の伝統的な料理を文章で楽しむこともできる。

  • 八百善のご当主が9代目に替わってしばらく経ったところから始まる下巻です。

    新しいご当主夫妻の八百善を取り巻く環境は、戦前とは違って厳しいものになります。古くからお店をごひいきにしてくれた粋人のようなお客さんは激減、お茶を挽く日も続きます。古くからの従業員さんは扱いが難しく、はてはお店を去ってしまいます。このあたりのことを含めた、「八百善」の人たちの触れていいのかどうなのか、という微妙な関係が次第に汀子さんの目にはっきりと見えてきます…真相がはっきりと描かれないことも多いのですが、なんか薄いようで濃いようですごい(苦笑)。お互い支えあっているのか、ドライに割り切っているのか、庶民の私には理解不能(笑)。「お金が入り用になったので売ってほしい」と汀子さんに仲居さんが託した「名筆」の掛け軸は…ふざけんな、と言いたくなります。酔狂じゃすまないよ、先代!

    この薄いようで濃いような八百善の人間関係のきわめつけが、板長さんのご結婚の話。お嫁さんとなった女性にはある理由もあって、ある決断をしてしまうのですが、それがとっても痛々しくて…彼女は自分の存在(立場とはいえない)のむなしさを感じておられたんだなぁと感じました。

    もう一つ、細やかに描かれているのが板長さんと汀子さんの関係。とはいってもヘンな関係ではなく、上橋菜穂子さんの「守り人」シリーズのバルサとタンダの関係と近いようで、素敵につややかに描かれています。福二郎さん、影薄し(笑)。汀子さんが女将さんとして強くなっていくのは、この理解があるからなんだな…と思いました。時代の流れを感じさせるラストがドラマよりしんみりしていて余韻が残ります。

    他の宮尾作品と違って、強い情念を描いているわけではなく、「木場育ち」という女将さんのキャラクターを受けて、ボリュームの割にはさっぱりとした作風に仕上がっています。柔らかい筆致ですが読みごたえのある本でした。

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著者プロフィール

1926年高知県生まれ。『櫂』で太宰治賞、『寒椿』で女流文学賞、『一絃の琴』で直木賞、『序の舞』で吉川英治文学賞受賞。おもな著作に『陽暉楼』『錦』など。2014年没。

「2016年 『まるまる、フルーツ おいしい文藝』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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