春の戴冠 1 (中公文庫 つ 3-20)

著者 :
  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (492ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784122050167

感想・レビュー・書評

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  • 15世紀フィレンツェの社会状況を、ボッティチェリの親友で古典学者が70代になってから、昔を振り返る形で描いた歴史小説。
    全4巻の長編で、心情や社会状況が克明に描かれている。15世紀半ば~後半の全盛期のフィレンツェを振り返りながら、全盛期と言われる時代に、凋落の兆しがあったことを丁寧に記述していく。
    現代は経済社会の変化が激しく速いのかと思っていたが、当時もさほど変わらないなと思いながら、読んでいる。

  • フィレンツェという都市と歴史を描くに、作家の想像力を以てする力業。
    時代を総体として描くためには、この方法しかないと思わせる、辻邦夫の大傑作。
    これだけの長編を悠々とものする作家はもう現れないのか。
    最初は友人から単行本を借りて読んだ。
    その後、中公文庫4巻本として発刊され、再読した。
    この<栄光のフィレンツェ絵巻>が文庫化されたことを寿ぐ。

    <フィレンツの春>を一人称の回想形式の語りで、現出させる試み。
    人物が、思想が、芸術が、建築が、そして抗争の時代の人々の情念までもが、生き生きと細部に亘って蘇ってくる。
    ロレンツォ•デ•イル•マニィフィコが、その弟ジュリアーノ•デ•メディチが、ジローラモ•サヴォナローラが、そして、サンドロ•ボッティチェルリが、すぐそこで息をしているのを感じる。
    町の騒めき、風の音、鞣革の匂いまで再現してみせる。(ボッティチェルリは鞣革職人の倅だ)

    フィオレンツェの最盛期と言われるロレンツォ豪華
    王時代は、意外にも薄氷の綱渡りのような時期であった。
    フィオレンツェの安定期は、その興隆期であった、ロレンツォの父親コジモの時代だった。
    ロレンツォの時代、フィオレンツェの市民はメディチの春に忍び寄る没落の予兆を感じていたのだ。
    変貌を遂げる時代にあって、変わらざるもの、神的
    なるものを求めるプラトン•アカデミアの思想はサンドロ•ボッティチェルリをルネサンスの代表に押し上げる。

    フィレンツェには二度行っているが、この本を読んでいる間中滞在するというのが、あるべき姿だ。
    フィレンツェは、今もロレンツォ、ボッティチェルリの往時のまま存在しているからだ。
    誰もが目指すドゥオーモ(サンタ•マリア•デル•フィオーレ大聖堂)では、メディチ家ロレンツォ、ジュリアーノ兄弟がパッツイ家に襲撃され、ロレンツォは辛うじて逃げ延びるが、ジュリアーノは殺されてしまう。
    ドゥォーモの内陣に入ると、ついロレンツォの逃亡経路、ジュリアーノの殺害現場を探してしまう、ことになる。

    映画「ハンニバル」では、ウフィツィ美術館のキュレーターに扮したハンニバル•レクターが、自分を追うフィレンツェの刑事を殺害し、その死体をウフィツィ美術館の窓から首吊り状態で観光客に晒すシーンがある。
    これは、弟ジュリアーノを殺されたロレンツォが、首謀者一族のパッツィ家を女子供含めて100名を縛り首にして、ウフィツィ(オフィス。フィレンツェ都市国家政府の官庁事務所)の窓から吊るして晒しものにしたという史実を踏まえている。
    ハンニバルに殺される刑事の名前は、「パッツィ」刑事だ。
    フィレンツェのハンニバルは、ロレンツォの故事に習ってみせたのだ。

    問題は、ボッティチェルリだ。
    ロレンツォは、ボッティチェルリに、晒し首となったパッツィ家一族の姿を描けと命じる。
    その命に従ってボッティチェルリは、縛り首のパッツィ一族を巨大なフレスコ画として描く。
    その壁画は、フィレンツェからメディチ家が追放された際に破壊されてしまった。
    だから、それを目にすることは出来ない。
    残っていれば、ボッティチェルリの最高傑作のひとつだったろうと言われている。
    その面影は、同時期に、晒し首を目撃したレオナルド•ダ•ヴィンチのスケッチによって忍ぶしかない。

    春は必ず終わる。
    フィオレンツェの春の終焉は、キリスト教の支配によって齎される。
    ジローラモ•サヴォナローラの登場だ。
    フィレンツェのサン•マルコ修道院に行くと、まず、フラ•アンジェリコの「受胎告知」が目の前で迎えてくれて驚く。階段を上がると、さりげなく飾られているのだ。
    そこにはサヴォナローラの祈りの部屋、ロレンツォの部屋が残されている。
    往時フィレンツェの息吹を感ずるには十分だ。
    フィレンツェ訪問に、本書持参が必須の理由だ。

    本書を読みながら、若桑みどりの「フィレンツェ」を読んだが、無味乾燥に思われ、ガッカリした。
    そう思わせたのは、「春の戴冠」というあまりに生々しいフィレンツェを体験したからに他ならない。
    塩野七生は「わが友マキャヴェッリ」で、メディチの春が終焉した後のフィレンツェを描いている。
    しかし、フィレンツェ人マキャヴェッリよりも、作者の関心はチェザーレ•ボルジアにあることは明白だ。
    だから、フィレンツェの往時を味わうには、「春の戴冠」に及ぶものはない、と言える。
    フィレンツェの美術についてならば、高階秀爾の新書「フィレンツェ」が良い。
    フィレンツェ訪問の際は、高階秀爾「フィレンツェ」と辻邦生「春の戴冠」を持っていくのが、ベストだ。

     

  • 船橋村図書館

  • あの時代のフィレンツェに興味があったのでどんどん読み進められましたが、各人物のこともっと知ってたらもっと楽しいだろうなあー
    過去の時代の人物にリアリティを持たせる細かな描写が好きです。

  • ボッティチェルリとフィオレンツァの回想録

    街の栄枯盛衰、限りある生命と美、永遠の愛 がテーマ であると想像しながら読んでいる

    起承転結の ハッキリした物語だと思う。10章は 転 であり、目線が大きく変えられた

    著者が伝えたいのは フィオレンツァ、メディチ家の歴史の中で、ボッティチェルリが、永遠の命を吹き込んだ ヴィーナス画を どう描ききったか

    と言うことだと思う

    ボッティチェルリの画集と一緒に 読む方が わかりやすい

    塩野七生さんが描く人物より 内心や背景が詳しく記述されているので、長く感じるが、理解しやすい

  • 出口さんオススメの方。

  • 辻邦生という方の作品ははじめてだし、イタリアのことも、ボッティチェリのことも全く知らないので、読むのに苦労するだろうなと思いきや、読みだしてみるとはまってしまいました。

  • 画家ボッティチェリの生涯を親友で古典語教師のフェデリコ老人が回想する形で書かれた作品。
    フィレンツェ。
    描写が細かく美しく、情景が浮かんでくる。

    読むのに3ヶ月近くかかってしまった。

    2012/01/25読了

  • ボッティチェルリの回顧を友人が老境のみになって
    することによって、またフィレンツェを舞台とする
    ことにより永遠とは、存在とは、生きるということ、死とは
    何かを問いかけていると思われる小説。

    平明だけど教養と優しさと死と輪廻を感じる。。

    あと3巻長いけど気長によもうー。

  • サンドロ・ボッティチェリの生涯、当時の社会情勢などを、彼の友人のが回想する。

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著者プロフィール

作家。1925年、東京生まれ。57年から61年までフランスに留学。63年、『廻廊にて』で近代文学賞を受賞。こののち、『安土往還記』『天草の雅歌』『背教者ユリアヌス』など、歴史小説をつぎつぎと発表。95年には『西行花伝』により谷崎潤一郎賞を受賞。人物の心情を清明な文体で描く長編を数多く著す一方で、『ある生涯の七つの場所』『楽興の時十二章』『十二の肖像画による十二の物語』など連作短編も得意とした。1999年没。

「2014年 『DVD&BOOK 愛蔵版 花のレクイエム』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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