- Amazon.co.jp ・本 (453ページ)
- / ISBN・EAN: 9784122051843
作品紹介・あらすじ
一六六五年、ロンドンが悪疫(ペスト)に襲われた。逃れえない死の恐怖に翻弄された人々は死臭たちこめる街で、神に祈りを捧げ、生きのびる術を模索した。事実の圧倒的な迫力に作者自身が引きこまれつつ書き上げた本篇の凄まじさは、読む者を慄然とせしめ、最後の淡々とした喜びの描写が深い感動を呼ぶ。極限状況下におかれた人間たちを描き、カミュの『ペスト』よりも現代的と評される傑作。
感想・レビュー・書評
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17世紀、350年前のペスト・パンデミックのドキュメンタリー風の小説。しかもあの『ロビンソン・クルーソーの冒険』を書いたディフォーという作家の作品ですよ。ディフォーが生まれたのがその頃、新親や親戚の話を聞いたり、調べたりして、書いたはそれから50年後(初版発行は18世紀初め)と。それにしても古い、なにしろペスト菌の発見も1894年まで待たなければならない(北里柴三郎さん!)時代、果たして現代に通じるものがあるのか?と思って読みましたが、、、。
時は1664年9月初め、場所はロンドン。ペストという悪疫はそれまでに時々発生しては恐れられていたのだが、オランダでまた流行りだしたという噂を耳にしたロンドン市民、H・Fさんが物語の語り手。そうこうしているうちにロンドンのある街に1~2の感染者が出てくる。そして翌年の1665年(日本では寛文5年)を大変な年にしたのでした。
田舎に逃げた人も多かったけれど、商売が心配でロンドンに残って、生き延びて長生きしたH・Fさんが、見聞きした真実の記録を残そうとしたわけは、当時の当局も秘密主義であったし、口から口のセンセーショナルなデマ的伝承はあったけど、印刷物もなかったからいつの間にか忘れれ去られていく、そのことを憂えてでした。
まあね、17世紀ですから、迷妄な盲信の行動、健康者も感染者も一緒に家屋ごと閉鎖してしまう施策だとか、大穴を掘ってたくさんの犠牲者の酸鼻な埋葬風景や、おどろおどろしいところがいっぱいあります。
でも、細菌もウイルスも科学的にわかっていないにもかかわらず、この現代になんと似ていることか。「死亡週報」なる感染死者数の発表に一喜一憂する人々、狂乱のような行動をする人がでる、社会的弱者の不利益というか一番被害を受ける、当局の施策の不備、経済を回さなくては困ること、などまったく、今を読み解いているようです。
ひとつ面白かったのは、3人組の庶民がだんだんひどくなる状況に怖じ気てロンドンから脱出するサバイバルのところ。周りの村だっておいそれと感染しているかもしれない市民を受け入れませんから、人里離れた森に野営するのがロビンソン・クルーソーの生活創意工夫を彷彿させて、筆運びの勢いありましたね。
カミュの『ペスト』とはまた違った感ずるところがあります。人間は繰り返してきたのだなあと。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
冒頭の一文のおかげでロンドンにペストが入ってきたのは1665年だったことを忘れることはないだろう。章立てがなく改行もほとんどないのは今でいえばツイッターで日々の出来事をアップしているTLをまとめて読んでいるような印象。コロナ禍だから同じ世界にいる感覚で読み続けられたこともあるだろう。原題に"Journal ..."とあるように、架空の人物を設定し通も内容は詳細なルポルタージュ。日に日に増加する死亡週報の数字が昨年から毎日報道で見る患者数のよう。原因などが解明されずワクチンもない中、日々恐怖に怯える人々がどのように行動するか、さまざまな姿が見てとれる。イカサマ香具師等、ロンドンから逃げ出す人々、死を前に我を失う人々。当時は街のロックダウンでなく家を閉鎖していた。その閉鎖された家を監視する監視人の仕事ぶり。死体運搬の様子。概ねロンドン当局の仕事には好意的。文章から宗教観、理性への敬意が感じられる。あちこちの感想を見ると現代の人々には訳が不評なようだけど、1973年の訳としては現代的でこなれていると思うし、ロンドンの地名の表記が今と違っていて初め戸惑ったことを除けば私には読み応えのある訳だった。
それにしてもロンドンはこの後大火に見舞われ、散々な年月だったのね。 -
デフォーがジャーナリストであると同時に作家なのがよくわかる作品だった。
これは体験してないと書けないでしょ…というほどのリアリティなのだけど、ここで描かれているペスト流行時、実際はデフォーはまだ5歳。
基本的には親族から聞いた話と資料の調査から書かれている。
しかし単に聞き書きを並べるのではなく、生き生きとした主人公を据え、その目で見ているという設定で、それが全く違和感がない。
フィクションとしても面白いのだ。
凄まじい力量だ…。
書かれていることは、今のコロナ禍と重なることも多く、ゾッとしたり考え込んだり。
今読んで良かった。 -
いやいやこれはなかなか凄かった。パンデミックの事態における人間や社会の様子が、17世紀と21世紀と大して変わらない事にまず驚かされます。
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思ってたよりずーっと読みやすかった!
実際に体験したわけではない(大流行時は5歳)のに、取材してさも体験したかのように描けるのはすごいな。
酒場・遊興所の閉鎖・往来禁止…今とまったく一緒。
ただ行政はしっかりしてたようで、それは感心というか、うらやましいというか。 -
17世紀にロンドンでペストが大流行したときの社会の顛末を小説化したもの。
2020年代前半のCOVID-19においても似たような現象を生じているので、人間社会の変わらなさ加減が良く理解できる。
構成としては、全編を通じてペストの流行における混乱をだらだら記述しているだけで、冗長な印象を受けた。結局、なんで収束したのかはよくわからなかった。カミュ著と対照してみると面白いのかもしれない。 -
”コロナ禍”で注目された本書。意外と読みづらいところが多く、思いのほか時間がかかってしまった。17世紀末のイギリスで実際にあったペストのパンデミックを描いたノンフィクション小説。著者は18世紀に活躍した「ロビンソン・クルーソー」で有名な小説家。本書で最も印象的なのはこの時代のヨーロッパでも”ロックダウンは無意味”と認識されていたこと。今から三百年前に無意味と断定された政策を現代でもやってしまったのは、まさに”歴史は繰り返す”という皮肉を感じた。
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2020I036 933.6/D
配架場所:C1 -
感染者地域からやってきた人への差別。
感染地域における隔離とロックダウン。
日々の死者数を数字で追う人。
感染地域を脱出する金持ち。
デマ。
科学的根拠のない療法で一儲けする人たち。
17世紀も21世紀も何も変わらないとは。