愚行の世界史(下) - トロイアからベトナムまで (中公文庫 タ 7-2)

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  • Amazon.co.jp ・本 (411ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784122052468

作品紹介・あらすじ

歴史家タックマンが本書で詳述するのは、トロイアの木馬の故事、プロテスタントの分離を招いたルネサンス期教皇たちの堕落、アメリカという植民地を失ったイギリス議会の思い上がり、そして最後に連続五人の大統領の任期を通じて延々と続いたベトナム戦争をとりあげる。

感想・レビュー・書評

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  • なぜ国は間違いを認められないのか。
    失政によって職を追われることはあっても生命が奪われるわけではない民主政であってすら、国家が誤謬を認めることは容易ではない。
    国の間違いはあまりにも簡単に人の命を奪うが、その直視に耐えられる人間がいないせいか。
    ベトナム戦争のように、現代の民主制国家において自国民の命が消費されている状況ですら、その撤回は困難だった。

    この戦争の開戦前から、政策立案者は危険や障害、否定的な成り行きに気づいていないときはなかった。
    秘密情報部は有能であったし、学識ある観察報告は着実に戦場から首都へ送られ、特別調査団が何度も派遣され、独自のルポルタージュも欠けていなかった。
    統治者はそれらを知らなかったわけではないのに、ただただ政治的な慣性の法則に従い、証拠から結論を下すことを拒み、信じたい事のみを信じ、大穴に賭けて当然のように失敗する。

    本書で語られる『愚行』は下巻のベトナム戦争に加え、上巻のカトリックの没落と大英帝国から見たアメリカ独立戦争の3篇であり、網羅的な研究とは言い難い。
    しかし、本書で語られた愚行の本質は、2022年現在においても国を問わず発生している。

    『反対の証拠を無視するのは、愚行の特徴となる自己欺瞞のもとである。現実を隠すことで、必要な努力の度合いを過小評価するからだ』
    『ひとたび政策が決定され、実施されると、あとに続くすべての行為はそれを正当化する努力と化すのである。』
    『武力は、合理的に計算された根拠にもとづき、「戦争を終らせる利点のほうが継続する利点より大き」くなるところまで、敵の意志と能力を変えるために用いられる。』

    人類は歴史から学ぶことが出来ないのか。
    それとも歴史から学んだ結果、未だ人類は滅亡していないのか。
    愚行と歴史。地球上から消えるのはどちらが先だろうか。

  • ベトナム戦争について。

  • 英国の無作為というか積極的錯誤による米国独立、ベトナムで仏国の失敗の後を継いだ解放者のはずが気がついたら侵略者の位置に立ち、論理的にも倫理的にも許されない戦争に突っ込んでいった米国歴代大統領とその輝かしいスタッフ達。
    リアリズム現実主義の敗北の歴史と言ってもいい。冷酷な国際政治とか敵以上の戦力が無くては生きていけないという幻想を持った現実主義者のほうが、その論理の妄想に捕らわれて国を深みに沈めていく。

  • 上巻に続いてアメリカ独立の際のイギリスの愚行が紹介されたのち、アメリカのベトナム戦争における愚行が論じられています。

    イギリスの愚行については、政権担当者の無能、自己満足、相手に対する無知、威厳と名誉への執着が原因となったと断じられています。特に「アメリカの主権の確立から先のことを考えず、武力による軍事的勝利のみが最善と思いこんだのがイギリスの失敗。武力は常にもっともたやすい解決方法に見えてしまう」というのは、現代の戦争や紛争解決のために欧米が取りがちな手段と非常に似通っていると感じました。

    最後に紹介されているのはベトナム戦争。こちらも、根底には相手の状況への無知があったと思われます。
    フランスと現地の有権者、それぞれから搾取されることからの自由を望んだベトナムの大衆感情に反し、アメリカは共産主義者からの自由、および西欧の民主主義的自由がベストであると思い込み、自分たちの価値観を押し付けます。それにより現地で反発を生み、惨めな敗北へと突き進んでいったことが時系列で丁寧に述べられています。

    時代が流れても、アメリカはイラクやアフガンでほぼ同じようにふるまっている感があります。どんな場面でも「自分たちは解放者であり、現地の人々に歓迎される」と思い込んでいる点では、鈍感なのか純粋なのか単なるバカなのか、いかんとも判断しがたい部分ではあります。

    上下巻で触れられている様々な愚行に共通する要素はいくつかありますが、著者が挙げているもののうちの一つに「理性の無力化」があります。人間の弱さや自身の能力への過信に加え、合理的な予測をする知性の働きが抑えられることにより、適切な選択ができなくなるというのはどんな時代でも、どんな場所でも起こりうることです。自国に限らず過去の教訓を生かせるかどうかは現代に生きる人間次第。こうした本を良いテキストとして、少しでも愚かな過ちをしないように努めていきたいものです。

  • ベトナム戦争によって、アメリカのエリートが傲岸な思い上がりを認識させられたことについて。アジアの四流国だと認識していた相手を思い通りにできなかったことで、いかに自分達が不遜だったか知ったはずなのだが、経験が引き継がれているとは思えない。他山の石とすべきと自戒。

  • ベトナム戦争を戦った指導者達への怒りがひしひしと伝わる筆致。イラク戦争を戦った指導者、彼を支持した同盟者を、我々はどう総括するのか。

  • 上巻に同じ。

  • 原書のタイトルは"March of Folly"。同業の会社につとめるやたらアクの強いおじさんがすすめてくれたので図書館で借りて読む。
    下巻では主にベトナム戦争での米国がいかに間違いを犯したかなどがテーマとなる。
    歴史家であるタックマンはそもそもベトナムはフランスの実質的な植民地であったのであり、なぜそのベトナムの独立のためにアメリカが立ち上がらなければならなかったかという流れをこと細かに説明している。
    少なくともベトナム戦争に関して言えば「(ロシア中国などのコミュニズムに対する)恐怖心」が過剰な対策、防衛手段をとる大きな要因となった。自信をなくした人は他人を恐れ、自らを鼓舞し、攻撃的になる。今後自身を無くした国家日本が、恐怖心に負け、愚行にはしらないことを祈りたい。

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