昭和16年夏の敗戦 (中公文庫)

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  • 中央公論新社
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  • / ISBN・EAN: 9784122053304

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  • 978-4-12-205330-4 283p 2012・10・5 11刷

  • 日本が無謀な戦争に突入した要因として、ABCD包囲網、旧憲法の制度的欠陥と統帥部の横暴などはよく指摘されるところ。
    これらに加え、本書では、「空気」による意思決定が指摘されている。「開戦やむなし」という空気が醸成され、つじつま合わせのための数字が恣意的につくられ、日米開戦という意思決定に至る過程は、あまりの杜撰さに暗澹たる気分になる。著者も指摘するとおり、神は細部に宿るのであって、具体的な事実の積み重ねのたいせつさを思い知らされる。
    また、東條英機に関する挿話が印象的。一般によくいわれる「独裁者」としてではなく、天皇陛下への忠誠心と統帥部との板挟みに苦しむ官僚型の人間の姿が描かれている。彼の所業は必ずしも正当化されるべきものではないが、彼のおかれた状況には同情を禁じえない。
    左翼・右翼のいずれにも寄らず、緻密な取材に基づく具体的な事実が淡々と、それでいて生々しく記述されている点が素晴らしい。

  • 戦争の始まりについて、よく理解できた。
    いろんな方面から戦争に突入せざるおえなかったと思う。
    ただ、やっても負ける。それを分かってても、やるしかない当時の主導者の決断は凄いね。
    結果的に神風が吹かなかった…。

    アメリカの圧力(石油輸出禁止)
    軍部の暴走
    それを止めれない、組織構造

  • 読んでおく価値あり。

  • Fri, 05 Nov 2010

    83年にでたものが十数年ぶりの文庫化.
    時を経て,当時何とか生きておられた歴史の証言がよみがえる.

    さて,開戦前から日本の敗北は運命づけられていたというのは,ある程度有名な話だが,ここでは,総力戦研究所という集団にフォーカスがあてられる.
    僕自身ぜんぜん知らなかった名前だった.

    開戦直前ではあるが昭和16年に各省庁や軍,有力企業から
    優秀な30代の「とうのたった」若者達が研究生としてあつめられた.
    日本の若い知能を結集して,来るべき「総力戦」に備えるためだ.
    近代の戦争は過去の戦争と形をかえ国家が相手を完全服従まで
    もっていく「総力戦」へと形をかえてきていた.
    特に二次大戦では,資源としての石油の必需性がまし,開戦もそして戦況も
    この資源によって特徴付けられていた.

    彼らは「模擬内閣」を樹立し,戦況を刻々とシミュレーションしていた.
    そして16年にすでに出ていた答えは,
    奇襲作戦の成功, 海上での敗北, シーレーンを維持できず,本土空襲を受け敗戦
    という流れであった.
    各省庁から得られる,経済的,資源,兵站,国民の雇用情勢,など
    様々なデータからうらづけられて,出した結論だった.

    もちろん,ここからの提言が聞き入れられることにはならなかったのだが・・・.

    この歴史の証言を組み合わせながら,日本が「理屈では負ける戦争」に
    転がり込んでいった,プロセスを追っているノンフィクション.

    さて,本書を読んでいて,思ったポイント,新たに知ったポイントをいくつか.

    ・戦前の日本は戦後の日本とほとんど変わらない.

    下の意思決定システム.メンタリティ含め.
    日本の歴史教育って,戦前と戦後にギャップを置きすぎですよね.
    戦前というとすぐに「軍政」的状況をイメージするけど,それは明治維新から
    のちの時間を考えると,その一部でしかない.

    ・東條英機は非常に人間的で真面目.最終的には開戦に反対していた.

    ちょっと,驚いた.もう少し,知りたくなりました.

    ・日本型意思決定システム(合意重視)による悪循環の典型を見た.

    しかし,それと同型のものは,僕たちのすぐそばに今もあります.
    というか,殆どの日本の組織がそうだと思います.

    ・「統帥権」の問題が明確に

    「統帥権」の問題こそが明治憲法の大きな穴であり,日中戦争,二次大戦にころがりおちてしまった制度的不備の根幹であったことが,実感できた.
    もう一つ指摘するならば,そのような制度的不備を,憲法改正などでのりこえられず,敗戦という,ところまでいってしまった点だろう.
    一旦走り出したシステムの不備は,なかなか改正できない.それが既得権益を生み出している場合などなおさらだ. 現在の日本の政治システムも様々な欠陥が指摘されているが,憲法改正の気配は見えない.

    これは,実は「日本型意思決定システム」 と 「個人より集団の重視」ということと関係しているのではないか?とおもった.要は,既得権益をもっている人がいるなかで全会一致の改革なんて出来るわけがないんだ.論理的に.

    及び,組織自体には組織を変革する力はない.組織は自らをスタビライズ,固定化するダイナミクスの方が強い(ように思う). 個人が動けないと組織は変わらないように思うのだ.

    制度としては「改正」の仕組みはあっても,実際に作動するかどうかは,別問題だ.それが変えられないまま転がっていく,状況は現代の日本と恐ろしいほど重なった.そして,石油禁輸をかけてくるアメリカ. これも,皮肉なことに昨今の中国のレアアース禁輸と重なって見えた.

    自国による石油を求めて戦った二次大戦であったが,現在,状況は何か変わったのだろうか? アメリカによって中東からのシーレーンを確保して貰うことで成り立っている日本経済.それが止められるリスクを常に最小化するように,日米安保などでバランスを保ち続ける戦後. そう考えると 安倍さんが「戦後レジームからの脱却」なんて言ったことに,アメリカが過剰反応したこともうなずける

    もっとも,当の日本人の多くは「もはや戦後ではない」というフレーズと同じくらいにしか感じていなかったかもしれないが・・・. (ちなみに,安倍さんの「戦後レジームからの脱却」が具体的に何を意図し,何を意図しなかったのかは,今でも僕はよくわかっていない.

    さて,戦前から戦後,石油の時代が続いた. 二次大戦も,中東問題も,石油の奪い合いで国が動いた.化石資源はそして現在も尖閣問題を巻き起こしている.ロシアパイプライン問題. まだまだ,化石資源の奪い合いとしての国際情勢は続いている.

    ブレトンウッズ体制で金本位制が終わり,ニクソンショックで金本位制から実質「石油本位制」へと世界はシフトした.パックスアメリカーナは,石油経済とともにあった.

    いつの時代も,歴史を繰り返さないように,繰り返す歴史に逆らうために,歴史をまなぶことは大切ですね.

  • 戦争の知られざる裏側を描く。
    日本が歩んだ無謀な戦争のプロセスがここに。

    2014.12.30

  • 空気によって動き、歴史認識の欠如に無自覚で、都合の悪いことは最後には誰かに押し付けてなかったことにする。この国の昔からの「癖」を抉り出す好著。
    他の国はよく分かりませんが、まずは疑ってかかることが肝要って何だか哀しいな。
    それにしても何にもまして先ずは記録とはこの作家の今を本人自らが指摘しているようで、政治家としてはともかくジャーナリストとして作家として真価が今こそ問われてますな、このお方は。

  • みなとLib

  •  不毛な戦争へと至った流れを知りたくて手にした。この当時から石油が世界の産業、経済、に大きく影響を及ぼしそれが戦争への流れを作っていったことが分かった。この不毛な戦争へと突き進んでいった中に、陸軍なら陸軍内だけの海軍なら海軍だけの情報や決定権が読み取られた。総力戦研究所がさらに他機関とのつながりが強かったら、、、と思ってしまう。
     反省あっての戦後の筈が、やはり縦社会の弊害が今なお日本の社会システムの中で生きているように思えてならない。とても残念。
     読むのに長くかかってしまったが、それだけに内容は濃かった。
     

  • 日本が終戦を迎えたのは昭和20年。ではなぜタイトルは開戦の年である昭和16年の敗戦なのか。
    開戦の年の一年前。日本の中枢から30代の経験豊かで秀逸な聡明さと人格を兼ね備えたとびきり優秀な人材を集めた総力戦研究所が設立された。
    本研究所の主眼は人材育成ではあったものの、後半の主眼はエネルギー政策とそれに伴う日米開戦すればどうなるかのシミュレーションを行った。
    結果、日米戦わば必敗という結論だけでなく、いくつかの事象以外はほとんど現実と同じ結論が出た。

    その結果は高級官僚にも説明されたが、なぜ日本は戦争に突入してしまったのか。
    それを問いかける。

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著者プロフィール

猪瀬直樹
一九四六年長野県生まれ。作家。八七年『ミカドの肖像』で大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。九六年『日本国の研究』で文藝春秋読者賞受賞。東京大学客員教授、東京工業大学特任教授を歴任。二〇〇二年、小泉首相より道路公団民営化委員に任命される。〇七年、東京都副知事に任命される。一二年、東京都知事に就任。一三年、辞任。一五年、大阪府・市特別顧問就任。主な著書に『天皇の影法師』『昭和16年夏の敗戦』『黒船の世紀』『ペルソナ 三島由紀夫伝』『ピカレスク 太宰治伝』のほか、『日本の近代 猪瀬直樹著作集』(全一二巻、電子版全一六巻)がある。近著に『日本国・不安の研究』『昭和23年冬の暗号』など。二〇二二年から参議院議員。

「2023年 『太陽の男 石原慎太郎伝』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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