路上のジャズ (中公文庫 な)

著者 :
  • 中央公論新社
3.14
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本棚登録 : 143
感想 : 15
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  • Amazon.co.jp ・本 (299ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784122062702

作品紹介・あらすじ

一九六〇年代、新宿、ジャズ喫茶。デビスに涙し、アイラーに共鳴し、コルトレーンに文学を見た中上健次。「破壊せよ、とアイラーは言った」ほかエッセイを中心に詩、短篇小説までを全一冊に収める、ジャズと青春の日々をめぐる作品集。巻末にジャズ評論家小野好恵によるロングインタビューを併録する。

感想・レビュー・書評

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  • 初中上健次。一冊にエッセイ、詩、小説と盛りだくさんの内容。
    ジャズが好きなので、とても面白く読めた。
    家にあるアルバートアイラーのCDを音全開にして浴びるように聴きたくなった。

  • 46で世を去った中上健次が生きていたら今年で70だ。いわゆる「団塊の世代」。大学生の頃、その暴力的かつ繊細な文体に魅せられて貪るように中上を読んだ。中でも本書所収の「灰色のコカコーラ」に代表されるヒリヒリするような、どこか青臭さの残る初期の作品群がたまらなく好きだった。だから70になった中上などあまり想像したくない。中上にとってジャズは純粋な音楽というより「生きざま」あるいは「思想」と言ったほうがいい。タイトルがカッコ良すぎる「破壊せよ、とアイラーは言った」を読めば分かるが、中上にとってジャズ=破壊なのだ。実際にアイラー(例えば代表作『 Spiritual Unity 』)を聴いてみると、中上が言うほど「破壊的」ではない。むしろ僕には「慟哭」に聴こえる。だがそんなことはどうでもいい。中上はアイラーに、コルトレーンに、そしてフリージャズに「破壊せよ」という声を聴きとった。

    今回「路上のジャズ」というエッセイを読んで改めてそのことを思った。その中で中上は自宅のステレオで聴くジャズに全く魅力を感じないと語っている。ジャズは「路上」で聴くべきものだという。「政治の季節」が終わりを告げた60年代後半、鬱屈した時代、新宿という都会の吹き溜り、薄暗いジャズ喫茶、世界に異和感だけを感じて震えていた若者達が集う場所、それが中上の言う「路上」である。中上自身の言に反して、コルトレーンが死に、アイラーがハドソン河に死体で浮かんだからジャズが終わったのではない。「路上」という空間の喪失とともにジャズは去勢され、中上はジャズに別れを告げた。

    「物語」の「破壊」は中上文学の最大のテーマと言っていいが、ジャズがそうであったように「破壊」そのものが「物語」に回収されてしまうことに自覚的であった中上は、「破壊」が「物語」と化す瞬間を捉えて「物語」もろとも「破壊」自体を「爆破」する。これは永続革命のようなものだ。中上が生きていたらおそらく本書が再編集されて文庫化されることはなかったと思う。本書は中上の青春とジャズへのレクイエムだ。決してノスタジーに浸るための本ではない。

  • 書店の希少本コーナーとやらでたまたま手に取りましたが、すごく好きな本だな、と。

    「ジャズと青春の日々をめぐる作品集」と紹介されている通り、ジャズ喫茶に毎日通った五年間の青春時代を語るエッセイが中心の一冊ですが、
    その時代をテーマにした小説「灰色のコカコーラ」や、高校時代に書いたという処女短編も収録されている。

    20年ぐらい前に、この「灰色のコカコーラ」が読みたくて、収録されている『鳩どもの家』が絶版になっていて探したのが懐かしい。まあ、そんなに苦労せずに入手したけど。

    ずいぶん久しぶりに読んだこともあるし、主人公と同じような年齢(二十歳ぐらい)で読むのと、その倍近く生きてから読むのとでは全く感じ方が違って、
    当時は興奮したように記憶しているけど、今回は静かな感傷的な気持ちになりました。
    でも、やっぱり良い小説ですね。
    僕はやっぱりその二十歳ぐらいの時に読んだ「岬」があまりに衝撃的だったので真っ先に挙がるのですけど、
    あまり中上健次すごく好きという友人も少ないですけど、そのうちの二人が真っ先に「灰色のコカコーラ」挙げてたなぁなんてことも思い出しました。

    感傷的になるというのも、三十代になった中上が自身の青春を振り返るようなエッセイの中に、この短編小説が一緒に収録されてるからということもあると思います。

    二十歳ぐらいで読むなら、作家論的に読まないほうがベターだと思うので、小説だけで読んだほうがいいと思うのですけど、
    もう30過ぎてなら、むしろこの文庫本の中で読むと、すごくいいのでおすすめしたいですね。

  • 新宿、ジャズ、薬などの題材を通じ60年代後半の空気感がビンビン伝わってくる文章。併録された対談で渡辺貞夫はBGMと断じているのも、さもありなんと思う。
    氏の著作は好き嫌い、評価が分かれるように思う。他の人の感想も聞いてみたい。

  • 人はどこかでガス抜きが必要だ。 "きれいごと"の布に覆われた醜い社会で、今、僕たちは生きている。 ひょっとしたらもっと醜くかったであろうあの時代が、実はへどや膿を吐き出せるまっとうな社会だったのではないのだろうか。 この本を読むと、そんな気にさせられる。

  • 桃山学院大学附属図書館蔵書検索OPACへ↓
    https://indus.andrew.ac.jp/opac/volume/1165752

  • 予想と違ったし、どうも共感する部分もないし中断しました。

  • 2020/5/5購入
    2022/12/23読了

  • 芥川賞作家による若き日のJAZZ浸りの日々を通じての破壊的な感性で綴る作品集。黒人差別等暗黒時代に生まれ発展し、やがて収束した表現手段、JAZZ。ただ、その世代が分からない自分にとってはその熱い感性の爆発をJAZZに感じる根本的な根拠が語られておらず共感出来ない。コルトレーンにせよ、デビスにせよ時代背景の中にあって、あるいは病的なJAZZ喫茶で大音量で聴く環境なくしては中上氏のようには感じ得ないのではないか、と思う。デビスの「リラクシン」など聴いてもカフェでのBGMになりうるオシャレ音楽と感じてしまう。
    とはいえ、JAZZ奏者には不審な死が相当あるとのこと、単に作者の妄想ではないのも確かではある。
    特に「灰色のコカコーラ」の闇は何か惹きつけられるものがあります。

  • 中上健次の遺した作品から、ジャズがらみのものを集めて一冊に編んだ文庫オリジナル。
    よく知られた「破壊せよ、とアイラーは言った」などのジャズ・エッセイを中心に、ジャズを題材にした小説や詩、ジャズ評論家・小野好恵による中上へのロングインタビューまでを収めている。

    初期の小説(「灰色のコカコーラ」など)や詩は青臭くて鼻白んでしまったが、ジャズ・エッセイは素晴らしい。

    それらのエッセイはみな、中上が18歳で上京してから、新宿のジャズ喫茶に入り浸ってフーテンをしていた約5年間の放蕩の日々が背景になっている。
    つまり、中上にとってジャズは自らの青春と分かち難く結びついた音楽なのであり、青春を語るようにジャズについて綴っているのだ。

    その中には、コルトレーンを論じた「コードとの闘い」に見られるように、ジャズ論として傾聴に値する卓見もある。
    が、全体としては評論色は希薄で、ジャズを詩的な言葉で表現した、他に類を見ない音楽エッセイになっている。たとえば――。

    《ジャズはモダンジャズ喫茶で聴くものである、と言えば、いいだろうか? 路上で聴くものだと言おうか? 町中のジャズ。ジャズは野生の物であって、自分の小市民的生活の背景音楽になど似合っていない、と私は、ステレオを買って初めて分かった。
     ジャズは、単に黒人だけのものではなく、飢えた者の音楽であると言おう。(中略)例えば、アルバート・アイラーを聴く。スウィングを無視したそのサックスの音のうねりから、貧しくて腹一杯飯を食うことも出来ずにいる少年が見えると言うと、うがちすぎだろうか?
    (中略)
     路上のジャズ、野生のジャズを聴くには、町が要るし、その飢えた心が要る。語るにしてもそうである(「路上のジャズ」)》

    興味深いのは、中上の小説作品はジャズからの強い影響を受けている、と自己分析している点。

    《私の初期の長い文章や、メタファの多用、「岬」の頃の短い文章、読点の位置、それに、「枯木灘」のフレーズの反復は、ジャズならごく自然のことなのである。今、現在、私が言っている敵としての物語、物語の定型の破壊も、これがジャズの上でならジョン・コルトレーンやアルバート・アイラーのやったフリージャズの運動の延長上として、人は実に素直に理解できると思うのである。ジャズは私の小説や文学論の解析の大きな鍵だ(「新鮮な抒情」)》

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著者プロフィール

(なかがみ・けんじ)1946~1992年。小説家。『岬』で芥川賞。『枯木灘』(毎日出版文化賞)、『鳳仙花』、『千年の愉楽』、『地の果て 至上の時』、『日輪の翼』、『奇蹟』、『讃歌』、『異族』など。全集十五巻、発言集成六巻、全発言二巻、エッセイ撰集二巻がある。

「2022年 『現代小説の方法 増補改訂版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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