利根川・隅田川 (中公文庫 や 1-5)

著者 :
  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784122068254

作品紹介・あらすじ

川は生きている――。上空から川上から川下まで眺め、水源へと向かい、流域の町々を歩き、歴史をさかのぼる。川の流れに魅せられた著者が踏査したユニークな利根川紀行。そのほか、太平洋戦争の末期に空襲前の東京の面影を唯一とどめていた隅田川について綴った好エッセイ二編を収める。

感想・レビュー・書評

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  • 『利根川』は、「第三の新人」の文士が著した紀行文…に見せかけた本格・治水・ルポルタージュ。
    ダムについて、堤防について、遊水地について、鉱毒について。時には古典籍を引き、小船に乗り、役人に話を聞きに行き、現地の百姓を訪ねる。綿密な取材に、村上春樹が絶賛してやまないらしい名文家(たしかに、文章に調べがあるのだ。格調高さととっつきやすさが両立しているのだ)の文章が乗っかるのだから、つまらなかったとなるわけがない。特に、地理に興味がある人なら尚更に。

    『隅田川』は、ルポ<エッセイ の趣き。味わい深し。

  • 安岡章太郎の「利根川・隅田川」に関するエッセイ。
    初出が昭和40年ということでかなりのギャップというか時代感を感じる。

    当時は工場排水による隅田川の「タール化」(ほんとにどろどろで船も通れない箇所もあったそう)が深刻で安岡の「失われた川」に対する怨念というか、恨み節がすごい。
    利根川水系の現在と過去をさぐるというのも特に変わった話が出てくるわけでもないし、安岡は地質学者ではなく、文学者なので
    その関心・視点が「個人」に偏っていて。

    なんか想像してたものと違ってたけど。
    まぁこういう本もあるということで。

  • 流れに魅せられた著者が踏査したユニークな利根川紀行と、空襲前の東京の面影をとどめていた隅田川の思い出を綴った好エッセイ。〈巻末エッセイ〉平野 謙

  • 昭和39年前後の利根川を水源から河口まで訪れる。ちょうど高度経済成長期、環境破壊と開発の凄まじいエネルギー。世相を捉えた貴重な記録。

    元ネタは週刊朝日に連載された紀行コラムだとか。
    群馬県から千葉県の銚子まで利根川を下る旅。当時の時代をそのままにシャッターで切り取ったかのような独特の世界。

    昭和39年の夏、東京オリンピック直前の水不足や隅田川の悪臭などがさりげなく記録されている。実現しなかった実現しなかった幻の沼田ダムにも触れている。本書より後の時代になるが上越新幹線と関越自動車道は幻のダム湖を避けて建設されたとの説を思い出した。

    筆者は終始、徳川幕府による利根川東遷に否定的である。利根川の下流は今の江戸川、さらに昔は隅田川だったことは良く知られているところだろう。

    川に堤防を築けば河床は次第に土砂が堆積し堆積し天井川となり氾濫する危険が増すため堤防を高くする。こうして水面は住民から遠い存在となっていく。

    近年、昭和30年代をノスタルジックに回想する風潮がある。だが決して明るいだけの時代だったわけではない。右肩上がりの時代その中の歴史の歪みを絶妙に記録したルポルタージュ。

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著者プロフィール

安岡章太郎

一九二〇(大正九)年、高知市生まれ。慶應義塾大学在学中に入営、結核を患う。五三年「陰気な愉しみ」「悪い仲間」で芥川賞受賞。吉行淳之介、遠藤周作らとともに「第三の新人」と目された。六〇年『海辺の光景』で芸術選奨文部大臣賞・野間文芸賞、八二年『流離譚』で日本文学大賞、九一年「伯父の墓地」で川端康成文学賞を受賞。二〇一三(平成二十五)年没。

「2020年 『利根川・隅田川』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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