昭和16年夏の敗戦-新版 (中公文庫 (い108-6))

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  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (296ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784122068926

作品紹介・あらすじ

日米開戦前夜、四年後の敗戦は正確に予言されていた! 平均年齢33歳、「総力戦研究所」の若手エリート集団が出した結論は「日本必敗」。それでもなお開戦へと突き進んだのはなぜか。客観的な分析を無視して〈無謀な戦争〉に突入したプロセスを描き、現代にも残る日本的意志決定の病根を暴く。

小泉純一郎氏・堀江貴文氏ら推薦の名著が新装版にて登場。石破茂氏との対談、新版あとがきを収録。

感想・レビュー・書評

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  • 猪瀬直樹の都知事でのイメージが悪く、なかなか読むにいたらなかった。それは気にせず読むことにした。
    「総力戦研究所」こんな機関があったのか。

  • 真珠湾攻撃により太平洋戦争に突入する8か月前に、官僚・民間ビジネスマンから幅広く選ばれた若手エリートたちで構成された「総力戦研究所」。研究テーマはただ一つ、「日本はアメリカに参戦すべきか?」という問いであった。

    彼らは”シャドー・キャビネット”の如く模擬内閣を組成し、自らの知性と徹底的なデータを元に分析を行う。その結論は「日本は必ずアメリカに負ける」というものであったが、いかにして彼らがその結論を出すに至り、そしてその結論が不幸なことに実際に内閣に無視されたか。猪瀬直樹の徹底した歴史文書の分析や当時の研究所メンバーらへのインタビューによって解き明かす。

    当時の分析対象として最も重要であった石油資源に関するデータだけを取っても少し分析を行えば、アメリカとの戦争によって島国である日本は海洋封鎖の憂き目に合い、軍艦や戦闘機を動かし続けるだけの石油を維持できないのは自明のことであった。本書はそうした自明が”空気”の元でなし崩しにさせられ、むしろデータの恣意的な操作・ごまかしによって戦争は遂行できるという真逆の結論に利用されていく様子が克明に描かれる。

    なぜ我々は戦争に突入しなければならなかったのか。その大きな要因の一つとして、データよりも空気が重んじられた点は無視できない。そして、この点が現在に至る日本社会で未だに残る風土であるという点にも。

  • 最後の猪瀬直樹と石破茂の対談が心に響いた

  • 総力戦研究所の存在を知らなかったので、国力を含めた対米戦を研究していたことに安堵した。ただ、日本の命運がかかった研究に手を付けたのが開戦のわずか数ヶ月前だったこと、国の総力を上げて然るべき研究を官民から選りすぐられたエリートとはいえ実務10年前後の若者たちに行わせていたことには驚かされた。そして残念なのは、研究成果が反映されなかったこと・・・。結果論になるけれど、首脳陣の誰かがこの研究成果を吸い上げていたら多くの命が救われただろうと思うと胸が痛む。未来は見えないものだけど読める未来もあっただろうに・・・。

  •  第二次世界大戦および太平洋戦争は、日本の歴史上大きな転換期であった。この戦争の敗北で、これまでの価値観を根本的に覆す羽目になったのだ。その敗因として、日本はアメリカに関する情報や国内の補給線を十分に維持できなかったなど多々あげられる。そもそも、アメリカに宣戦布告をした時点で敗北が決定したのであろうか。そのようなことをあれこれ思い巡らす。このように、日本はこの戦争を依然として検討する余地があるのだが、実は、戦争直前の時点で日本が負けるとわかった組織が存在した。それが本書で取り上げる「総力戦研究所」である。この組織こそまさに、太平洋戦争で起こった出来事を見事に的中させたのだ。自分が観測したかぎりでは、教科書はおろか一般的な書籍にすら、その組織の存在を書いていなかったため、この本を読んで初めて知った。
     「総力戦研究所」とは、陸海軍とは独立して、さまざまな官僚たちが集結した一大組織である。この組織は、数値データを駆使してある結論に至った。それが、物量的に見て、アメリカに勝てないということだ。この時代において、第二次世界戦は既に開始されており、ドイツ、イタリアを中心とした枢軸国が欧州を蹂躙した。そんななか、総力戦研究所は、あれこれと必死こいて先ほどのようにデータを提示してアメリカとの戦争を回避しようと努めた。それにもかかわらず、軍部、特に陸軍の上層部は耳を傾けなかったのである。本書以外にも、陸軍の組織の実態、たとえば『失敗の本質』や『組織の不条理』(いずれも中公文庫出版)が明らかであるが、本書においても組織の硬直化、根拠なき自信や非科学的な根性論を唱えるなど、組織の腐敗した側面が露呈している。
     本書は主に組織間の派閥などを中心に目を向けられるが、なかでも太平洋戦争で宣戦布告を決定した時の首相東条英機の心情を事細かに当てたところも、この戦争の過程を知るうえで重要である。東条英機と聞くと、漠然とこの戦争を決断した張本人であるとか、独裁者というイメージなど、どちらかいうと印象の悪い人物だと捉えられる。たしかに、東条は、首相のみならず、陸軍大臣、軍需大臣、また参謀総長を兼任した事実がある。しかし、権力を集中させた背景を知ると意外な事実を思われるかもしれない。東条英機は首相となる直前に近衛内閣で陸相を担当していた。そのとき、陸軍の代表として、日本は戦争をするべきという発言が残っている。しかし、数々の証言を確かめると、実は昭和天皇に忠誠を誓って、そのような言動をしたことがわかる。ところが、一方で、昭和天皇の証言を確かめると、天皇本人は最初から戦争に反対の立場であったことが判明した。以上から、東条英機の行動は裏目となって、結果的に、A級戦犯として裁かれてしまい死刑という、色々と報われない結果となってしまった。このような事情を知ると、いかに国の舵取りが困難をきわめて、個人の力では抗えないほど、日本の組織の力が絶大であったのか理解できる。たとえ優秀な人物であったとしても、限度があることがこの本からうかがえる。
     先ほどの話に戻るが、日本が資源の乏しさゆえに、戦争を持続するにしても、せいぜい短期決戦が限度であることが、数値から見て明確であった。本書でも言及されるは、第二次世界大戦とは石油の確保が、戦争を決定づけたといっても過言ではない。それゆえに、組織にとっては、日本で貯蔵する石油の容量を確かめたかった。ところが、本書によると、石油の容量を把握する者は組織の中でもほんの一握りで、極秘情報であったのだ。
    しかし、聞く耳を持たなかった上層部にとって、ただの戯言と聞こえたのだろうか、「総力戦研究所」が邁進して、徒労になった。
     さて、これらの歴史的背景を振り返って、現代人は何を学ぶべきであろうか。そのヒントは、この本の巻末にある筆者の猪瀬直樹と政治家石破茂の対談からいろいろと学べるであろう。なかでも石破氏の「国を変えるのは、最後は世論ですからね。政治家は、フォロワーではなく、あくまでもリーダーとして、その世論に訴えかけていく必要がある」というのは政治の本質をする者ならではの発言だ。太平洋戦争では、多くの国民が戦争への参加に賛成した。その事実をふまえると、戦後以降に根付いた民主主義において、国民の一人一人が政治に関与する自覚を持たなくてならないと警告されているような気がした。
     それにしても、たとえ優秀な頭脳の持ち主を終結させたとしても、別の要因(今回でいうと軍部上層部の柔軟性の欠如)で阻まれてしまい、これは現代の組織間にも当てはまるだろう。ここから、個人で柔軟で寛容な気構えを抱くことがやはり重要ではないだろうか。
     今後も人間の組織間の本を読み続けていくつもりであるが、いずれにしても人間とは他者に翻弄されるほど、はかない存在なのかもしれない。組織間とは究極的に人間関係であるので、上手く対処するのは苦難なのであろう。

  • 総力戦研究所という機関が設置されていたことを初めて知った。重要な史実というだけでなく、現代にも通じる示唆が含まれているように感じた。

  • なかなか難解なドキュメンタリー。
    歴史に埋もれてる「総力戦研究所」を克明に記した面白い本。データ重視だと「日本必敗」だったのは明らかなのに、開戦したい軍部のシナリオどおりデータが捻じ曲げられていく様は今に通じるものがある。

  • 太平洋戦争開戦の数ヶ月前に集められた少壮のエリート達によって創られた「総力戦研究所」。彼らが集められるデータを全て検討して机上演習も遣り尽くして出した結論は、「日本必敗」。真珠湾攻撃と原爆投下を除いて時期や各国の動き等をピタリと当てたと言います。

    だが、彼等の提言は「日本は(勝算のもっと低い)日露戦争でも勝てたのだから、今回も勝てる」と握り潰されてしまった。

    今の日本社会でもこの悪弊は続いている、と言うのが本著の論旨でした。

    この本は比較的出版が古く名著とされているが、「経済学者たちの日米開戦」、「失敗の本質」の方が説得力と知的好奇心があったかな。

  • 昭和16年に実在した「総力戦研究所」という、若手精鋭で構成された「模擬内閣」が何を行っていたかを中心に太平洋戦争に向かう経緯と同研究所の構成員の行く末を追ったノンフィクションです。「総力戦研究所」という組織が有ったこと自体を初めて知り、実際にどのような貢献をしたのかを知ることができ僥倖でした。今迄、東條英機に対して抱いていた独裁的イメージが大分変りました。

  •  太平洋戦争直前に日本は模擬内閣をつくりシミュレーションしていた。

     日本版ベスト&ブライテスト。
     模擬の軍部ではなく内閣を中心とした官軍民の多くの役職を模擬で才能ある若者達に任せ開戦のシミュレーションをしていた。この事実がしっかりと後世の残ることには大きな意味があるはずだ。

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著者プロフィール

猪瀬直樹
一九四六年長野県生まれ。作家。八七年『ミカドの肖像』で大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。九六年『日本国の研究』で文藝春秋読者賞受賞。東京大学客員教授、東京工業大学特任教授を歴任。二〇〇二年、小泉首相より道路公団民営化委員に任命される。〇七年、東京都副知事に任命される。一二年、東京都知事に就任。一三年、辞任。一五年、大阪府・市特別顧問就任。主な著書に『天皇の影法師』『昭和16年夏の敗戦』『黒船の世紀』『ペルソナ 三島由紀夫伝』『ピカレスク 太宰治伝』のほか、『日本の近代 猪瀬直樹著作集』(全一二巻、電子版全一六巻)がある。近著に『日本国・不安の研究』『昭和23年冬の暗号』など。二〇二二年から参議院議員。

「2023年 『太陽の男 石原慎太郎伝』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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