護られなかった者たちへ

著者 :
  • NHK出版
4.12
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本棚登録 : 2908
感想 : 369
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  • Amazon.co.jp ・本 (384ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784140056943

作品紹介・あらすじ

仙台市の福祉保健事務所課長・三雲忠勝が、手足や口の自由を奪われた状態の餓死死体で発見された。三雲は公私ともに人格者として知られ怨恨が理由とは考えにくい。一方、物盗りによる犯行の可能性も低く、捜査は暗礁に乗り上げる。三雲の死体発見から遡ること数日、一人の模範囚が出所していた。男は過去に起きたある出来事の関係者を追っている。男の目的は何か?なぜ、三雲はこんな無残な殺され方をしたのか?罪と罰、正義が交錯した先に導き出されるのは、切なすぎる真実-。

感想・レビュー・書評

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  • 映像化する前から単行本として本棚に鎮座していた本書。映像化を経て、文庫化を経て、どんどん大々的にそしてコンパクトになっていくこの作品の知名度が上がれば上がるほど私の意欲は削がれていった。
    「百田尚樹現象」である。(注:過去レビュー参照)
    機は熟し、なんなら土に還る直前だったが、リアルに忙殺され読書欲が下降気味になった今、他に唆る作品も無く手に取った次第だ。

    ーーーーーーーー
    監禁され飢餓状態で死体となって発見された男、三雲忠勝。この男は周りが認める善人菩薩の人格者であった。人に恨まれる等考えられないその男が、餓死という悪逆無道な禍々しい手段で殺害されるという全く手掛かりが掴めない状況下、刑事である笘篠と相方の蓮田が奔走する。
    そしてこの残酷な殺人は続く。第二の犠牲者城之内武尊、監禁され飢餓状態で死亡。そして彼もまた人格者であった。
    彼らの共通点が過去に同じ福祉保険事務所の元職員であった事から捜査は進み、第三の被害者の予想と容疑者の浮上から物語は佳境へと入ってゆく。
    ーーーーーーーーー

    さて、数ある異名の中の一つ社会派ミステリ作家中山七里が今回手掛けるのは「社会福祉制度」、詳しく言えば「生活保護法」である。
    作品としての評価は☆3
    物語の進み方はAI管理レベルの正確さで、荒道はなく想像通りの展開が待ち受けている。今作に限ってはあからさまな伏線の張り方に雑さを感じた。落胆はないが、帝王仕込みのどんでん返しに調教されたマゾヒストとしてはゴール直前の地雷が仕込まれていないのは純粋に残念である。
    とはいえそれが満足度にブレーキをかけたかと言われるとそうではない。

    本書を開いてから閉じるまで頭の中はフル稼働だった。ミステリを読めば犯人推測の為それはそうだろう、と思われるかもしれないがそうではない。
    どうやら人は「知ってるのに目に入らない現実」を突き付けられた時、普段使用しない細胞を社畜の如くこき使い始めるようだ。
    私は賢く無いので相応な言葉は見つからないが、このフィクションに「ノン」を付けさせてはいけない、と感じた。
    言ってしまえば見えない未来を案ずるのはただの妄想であり、生産される思想は偽善でしか無いのかもしれない。
    だがこの感覚は大切にしたい。利根のような悲しい人間は確実にどこかに存在しており、そしてまた産まれるのだろう。

    時代が変わったのか、はたまた大人になって思考がやさぐれたからなのか定かではないが、確かに「人の温かさ」が薄れている様に感じることはある。
    まぁ、ギブアンドテイク なんて最もな言葉があるくらいだし、ギブのためにテイクしてる部分はあるし、善意は時に押し売りになる事もあるから、絶賛不確定要素増量中な理想ではあるんだけども....

    私はテイク民でいたいなぁ。

  • 社会的弱者、恨み、先入観、色々な角度から読むことのできる作品でした。
    事あるごとに思うのですが、福祉関係の人や教師や医者など、採用にあたって適性検査のようなものがあってほしいなぁ。色々ある職業の中で、相対する人の人生に大きく関わってくる仕事に就く人には適性検査があってもいいのではないかなぁ、と。それだけの覚悟を持ってお仕事してくれると一般市民としてはありがたいかなぁ、と。(世界中のお仕事をされている皆様、毎日お疲れ様です!明日も頑張りましょう!私も頑張ります!)
    被害者の人たちも職務を全うしていただけなのだろうけど、でもやっぱり犯人の気持ちは理解できますよね‥‥
    「赦したら自分が大切にしていたものを忘れてしまうことになりそうで辛い」
    これが恨みの本質、根っこかなぁと思います。赦せないのが辛い、でも赦すのも辛い。
    一気読みでした。面白かったです。

  • 本当に譲るべき人を譲らなければ、誰のための制度なのか。
    ミステリー要素というより、生活保護受給に関する問題提起の作品と感じました。
    震災後の混乱の中、予算、人員不足、様々な要素も重なり受給されない人たち。御上には逆らえないという考えの親世代の元育った自分には、抗ったところで成すすべもないという現実の重圧さが刺さりました。
    真面目に生きてきた人ほど、生活保護を受けるのをためらうことがあり、罪を犯したことを武勇伝のように語る囚人が同じ税金で養われているという不条理さ。
    国が定めた条件、我慢を美徳(?)とする国民性、家族に今の自分の姿を知られたくないとか、受給するには壁があるのだと知るきっかけにもなりました。
    被害者も職務を遂行したわけだし、被害者自身も制度の犠牲になったということなのかもと。
    けいさんの最後はやり切れず、子供と離れた場所で世帯を持つ現代の姿でもあるようで。とはいえ、置かれた立場、環境の中で人との触れ合いを求め、自分を全うしたけいさん、他所事ではないと身に沁みてしまいました。
    平等に権利が守られているようでも、世の中の不平等さをみたようで、改めて考えさせられました。読んでよかったです。

  • キツい。最後まで読むのが辛かったです。

    この話はどこまでがノンフィクションで、どこからがフィクションなのか。

    刑事物ってあまり惹かれず、今まで読んだことがありませんでした。全く未知過ぎて、きっと共感できないだろうなぁと思っていて。踊る大捜査線は好きでしたが。。

    生活保護、震災、貧困、犯罪
    日本が抱えている、少なからず私たちにも関係している現実が、誰にでも起こり得る事を突きつけられる内容でした。

    最後に進むに連れて、どんどん読むのが苦しくなって、泣きながら読みました。

    あぁ、久し振りに苦しくなる重厚感のある本でした。

    映画化されるそうで。利根さんが佐藤健さんで、苫篠さんが阿部寛さんなのかな。私はキャストに違和感が全然なくて、絶対苦しくて泣くだろうけど、観に行きたいです。

  • やっぱりな〜
    ほんと諦めなくて良かった
    中山七里さんを諦めなくて良かった

    なんか中山七里さん3冊くらい読んで
    いまいちピンと来ないんで自分とは縁のない作家さんなのかなぁと思ってたんですよ
    でもなんか予感めいたものはあったんです
    文体とか話の持って行き方とかそこまで嫌いな感じではなかったんで
    どんなに好きな作家さんでも自分にはそうでもなかったなって作品はあるので
    中山七里さんもたまたま最初からそんな作品が続いていたのでは?と思って
    ほとんど図書館にいないこの大人気作を見付けたとたんこれも縁だと思って急いで確保しました
    結果面白かったです
    この一作で好きな作家さんに仲間入りとまでは行きませんが
    良かった
    諦めないでよかった
    これはもうご褒美ですよ

    『諦めなかった者たち』へ

    さて『護られなかった者たちへ』です
    (かなり強引)

    この作品を読んで思ったのは
    今まで中山七里さんちょっと苦手かもと思ってた理由についてです

    ちょっと強引な感じがしてたんですね
    かなりの違和感や引っ掛かりを感じるところでもなんかねじ伏せにくる感じとでも言うんでしょうか
    例えて言うならコントロールがいまいちな剛速球投手、元阪神の井川とか(分かりづらい表現①)
    あるいはまわしを掴んだらとにかくぶん投げようとする力士、元横綱の朝青龍とか(分かりづらい表現②)
    それが今回のお話のように作者の主張、訴えたいものが特に強いような場合に強引さが力強い表現に感じ方が変わったのかもしれません
    さらにはその力強さの奥の方に全編通じて小さな違和感みたいなんがずうっとまとわりついてるみたいな細かさも感じられました
    小さな違和感をちゃんと解き明かせば結末がわかるみたいなね
    なんか書いてて自分でも何が言いたいかわかんなくなってきましたが

    あまりピンときてなかった文体や構成がテーマによっては違和感なく受け入れられるようになるということ…かな?(最初からそう書け朝青龍の例えいらん)

    本作の方は「だろうなぁ…」ってところにもう一捻りあって良かったのと
    中山七里さんの主張に対して自分は共感できました!ってとこ

    中山七里さん、また読むぞ!

  •  先日読んだ横山秀夫著「臨場」検視官の物語が役に立ち、早い段階で推定できました。鑑識が刑事への報告で、無い情報の解釈が間違っていることに気づいたからです。
    おそらく著者は、敢えて書かなかったのだと思います。

    主人公の刑事(笘篠)は、東日本大震災の被災者の一人で、妻と子を失っています。当時は警察署も津波の被害に遭い拠点を移転せざるを得なかった。同僚警察官も家族や家を失い心痛をひしひしと感じる記述がありました。これは警察だけではなくその他の役所も民間企業も同様です。

     物語は未曾有の震災から四年後、事件が起こりました。「連続餓死殺人事件」です。捜査が進展するにつれて、容疑者と見られる人物像が浮上し境遇に同情しているのを読んで若干の推理に迷いがありました。
    しかし、読者に同情するように思わせる文章は巧みです。 

     その点についてよく出来た作品だと思います。ただ、社会派ミステリー小説は、本質的な問題が一筋縄では解決しないので読後感がすっきりしないのです。

     この作品は悲惨な生活の実態を浮き彫りにしていますが、小説には書かれていない事実も多々あります。

     調べてみると、生活保護課で悪質なケースを取扱う場合に、職員が激務を強いられ心労で疲弊し病む者も少なからずいます。そんな中で建設的な試みを模索している自治体もあるようです。

     社会保障制度の改革が、さらに上手くいくように願うばかりです。
    ミステリーの内容はエンタメで、真実は深いです。

     読書は楽しい。勉強になりました。

  • 読み始めてすぐに感じた既視感ならぬ既読感(笑) しかしながらラストが思い出せないのでずっ〜と最後まで読んでしまった♪
    そうだったそうだった と思い出したのは最終頁でやっと、人の記憶ってこんなものなのですね笑
    生活保護に焦点を当ててのミステリー作品であるけど、犯人を追ううちに立ち位置が少しずつ変化して国や保護の許認可を与る事務所への義憤も覚えて来る捜査一課の担当者たち。
    舞台は仙台、大震災の被災と絡めながらの展開がテンポ良い。
    初読み気分で読めました。

  • 猟奇的殺人事件をはじまりに様々な人間関係。
    そして生活困窮者と役所の在り方について考えさせられた作品。
    最初は落ち度のない善良な人がなぜ?だったけど。
    調査が進むいつれ分かった様々な姿。
    どんどん犯人の方に感情移入していってしまったかな。
    心締め付けられるドキュメント。
    ラストの意外な展開は、さすがは中山さん作品らしい。

  • 日本に住むすべての人に読んでほしい本です。
    10月15日、仙台市で福祉保険事務所の課長が餓死死体として発見される。10月29日、宮城県議会議員の城之内が同じく餓死死体で発見される。彼らはそろって人格者とされており怨恨殺人とは思われないのだが…。
    捜査の過程で描かれる生活保護の実態。不正受給を防ぐためなのか申請から受給までの壁の高さ、貧困の臭い、生活保護から漏れ落ちて餓死するケース。
    クライマックスで利根がはく「苦しんでいるヤツと楽しんでいるヤツの差がひどすぎる」「貧乏ってのはありとあらゆる犯罪を生む」というセリフが重かったです。
    映画も原作の世界観をしっかり再現されていました。

    • yyさん
      あわわわわ さん

      こんにちは。

      本ではまだ読めていないのですが
      この前、映画(amazon prime)で観ました。
      あわわ...
      あわわわわ さん

      こんにちは。

      本ではまだ読めていないのですが
      この前、映画(amazon prime)で観ました。
      あわわわわ さんは両方ご覧になったのね。
      おっしゃるとおり、
      一人でも多くの人が観る機会があるといいなと思った映画でした。

      福祉の行政に携わる人たちも大変だと思いますが、
      貧困を少しでも減らすことで世の中は必ず良くなる
      そう思わせてくれる作品でした。
      2022/11/27
    • あわわわわさん
      yyさん

      こんばんは。コメントありがとうございます。
      これまでyyさんのご感想から本棚に追加させてもらうこともあったので、今回コメントいた...
      yyさん

      こんばんは。コメントありがとうございます。
      これまでyyさんのご感想から本棚に追加させてもらうこともあったので、今回コメントいただけて嬉しいです(⁠ ⁠ꈍ⁠ᴗ⁠ꈍ⁠)
      映画も良かったですよね!
      人々が助け合える成熟した社会になっていきますように。
      2022/11/28
  • そう、そうなのよね。と、これまで私も現場で経験してきた怒りや、やるせなさや、悲しみを感じながら読み進めました。本当に、こういうことは「ある」のだ。
    困ったら、役所に行けば、助けてくれるはず。だって、こんなにも困っているのだから。そのために役所の職員がいるのだから。と、私はもはや思えない。頭の回転が早くて知識がある人たち以外理解できないのではないだろうかというマニュアル通りの説明を繰り返され、「きちんと説明をした」「やるべき対応はやった」と普通に言われる。もう、国籍が違いますか?くらい話が出来ない様な経験を何度もしてきた私にとって、「困ったら役所へ」なんて、絶対に言えない。もちろん、役所の職員さん全員が全員そうではないのだけれど。人との相性はもちろんあるし、悲しいかな、人によって対応が天と地ほど違うのは、福祉の業界でも同じこと。だからこそ、私は不完全ながらも全力でいたい。
    護られなかった者たちへ。とても悲しく悔しい現実。
    最後はパタパタと終わった印象で、前半のボリュームからの尻すぼみ感が少し残念だったかな。

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著者プロフィール

1961年岐阜県生まれ。『さよならドビュッシー』で第8回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞し、2010年にデビュー。2011年刊行の『贖罪の奏鳴曲(ルビ:ソナタ)』が各誌紙で話題になる。本作は『贖罪の奏鳴曲(ソナタ)』『追憶の夜想曲(ノクターン)』『恩讐の鎮魂曲(レクイエム)』『悪徳の輪舞曲(ロンド)』から続く「御子柴弁護士」シリーズの第5作目。本シリーズは「悪魔の弁護人・御子柴礼司~贖罪の奏鳴曲~(ソナタ)」としてドラマ化。他著に『銀齢探偵社 静おばあちゃんと要介護探偵2』『能面検事の奮迅』『鑑定人 氏家京太郎』『人面島』『棘の家』『ヒポクラテスの悔恨』『嗤う淑女二人』『作家刑事毒島の嘲笑』『護られなかった者たちへ』など多数ある。


「2023年 『復讐の協奏曲』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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