イスラエル 人類史上最もやっかいな問題

  • NHK出版
4.11
  • (32)
  • (48)
  • (15)
  • (0)
  • (2)
本棚登録 : 661
感想 : 54
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (385ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784140819333

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 原題:Can We Talk About Israel?: A Guide for the Curious, Confused, and Conflicted
    著者:Daniel Sokatch
    訳者:鬼澤 忍

    【目次】
    第1部 何が起こっているのか?
    1章 ユダヤ人とイスラエル/2章 シオニストの思想/3章 ちょっと待て、ここには人がいる/4章 イギリス人がやってくる/5章 イスラエルとナクバ/6章 追い出された人びと/7章 1950年代/8章 ビッグバン/9章 激動/10章 振り落とす/11章 イスラエルはラビンを待っている/12章 賢明な希望が潰えて/13章 ブルドーザーの最後の不意打ち/14章 民主主義の後退

    第2部 イスラエルについて話すのがこれほど難しいのはなぜか?
    15章 地図は領土ではない/16章 イスラエルのアラブ系国民/17章 恋物語?/18章 入植地/19章 BDSについて語るときにわれわれが語ること/20章 Aで始まる例の単語/21章 Aで始まるもう一つの単語/22章 中心地の赤い雌牛/23章 希望を持つ理由

  • イスラエル(とパレスチナ)の歴史と問題を論じた本。

    著者はアメリカ出身のユダヤ人。自身がイスラエル側の言説を多く摂取してきた立場であると認めつつ、極力中立的に論じようとしている。

    本書は2部構成。第1部は旧約聖書の時代から現代までのイスラエルの歴史。第2部はイスラエルを巡るいくつかの論点を掘り下げる。言わば縦軸の後に横軸の話。とにかく複雑なので、この構成は初心者にも読みやすくてありがたい。

    歴史は旧約聖書の物語にまで遡る。紀元70年に国を追われて世界に散らばったユダヤ人は、19世紀後半のナショナリズムの高まりやホロコーストを経てパレスチナに移住し、1948年にイスラエルを建国した。ところがそこにはもともと住んでいた人がいて、両者にとってその地は「自分たちの国」だった。
    全体に学術的というより物語のような語り口でとっつきやすいが、辛い希望のない物語ではある。紛争があり、差別や圧迫があり、それに対する抵抗が繰り返される。

    1993年に、アメリカのクリントン大統領の仲介により、イスラエルのラビン首相、パレスチナ解放機構のアラファト議長の間でオスロ合意が締結された。著者自身リアルタイムに希望を抱き、それがラビン首相暗殺によって頓挫した過程にショックを受けた様子が伝わってくる。
    2009年ネタニヤフ首相就任。米トランプ大統領(2017年就任)のイスラエル寄りの姿勢もあって右傾化が進んできた。
    本書の原著は2021年刊行で、ネタニヤフ首相退陣を最新の状況としている。しかし元外交官の中川浩一氏による解説にあるとおり、2022年12月末にはネタニヤフが再当選してイスラエル史上最右翼といわれる政権を成立させ、2023年10月にイスラエルとハマスの戦争が始まった訳だ。

    「ベン=グリオンの三角形」とは、建国の父ベン=グリオンが指摘した問題。
    ユダヤ人が多数を占める国家であること。民主主義国家であること。1967年の戦争(六日戦争/第三次中東戦争)での占領地を保有すること。イスラエルはこのうちの2つを選べるが、3つを選ぶことはできない。
    このジレンマを頭に置いておくと、イスラエル問題のややこしさを理解する上でとても便利。
    ヨルダン川西岸をイスラエルだと認めるならその土地に住むアラブ系住民の権利に向き合う必要がある。追い出されたパレスチナ人の帰還を認めると、国内の人口バランスが変わり、ユダヤ人国家でいられなくなる。「国」内に多数いる人々に平等な権利を認めないなら、民主主義国家とは言えない。

    ユダヤ人の中でも分断がある。
    ヨーロッパ出身のアシュケナージ系ユダヤ人と、アラブ・イスラム圏出身のミズラヒ系ユダヤ人。後者はイスラエルの中でも差別を受けがち。
    また、アメリカのユダヤ人コミュニティと、実際のイスラエルにも温度差がある(第17章)。アメリカのユダヤ人はおおむねリベラルで、近年のイスラエルの保守化と過激化には抵抗を覚えている。本書の著者もこの立場。

  • イスラエルというか歴史を振り返るのに役立つ一冊…分かり易い解説だけど難しい…『現状はあまりにひどい』…

  • 【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
    https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/800162

  • 日経新聞202356掲載 評者:臼杵陽(日本女子大学文学部教授@wiki、中東地域研究)

  • 表面的でしか知らない問題に対してより深く知ることができた。けれどもとても難しい。わたしにとって文化や価値観、なにもかも違う部分を受け入れながら読み解くことは理解しがたい部分もある。そこで生活している人がいることに思いを馳せながら、どんな日常を送っているんだろうか?もっと知りたいと感じた。

  • 著者はユダヤ系アメリカ人。少しイスラエル寄りなところを感じさせつつも、かなりバランスよくイスラエル及びパレスチナ問題を解説している。恥ずかしながら本書を読んで、日々のイスラエルに関するニュースは基本的事項を押さえずに聞いていたことが分かった。これからは少し背景知識を持ってニュースを聞くことができそうだ。
    興味深かった点を羅列すると、
    イスラエルが占領するヨルダン川西岸は、米国を含め(トランプ政権は置いておく)国際社会からその支配は認められていない。
    米国のユダヤ人は基本的にリベラルであり、イスラエルの建国当初から支援してきたが、近年は右傾化するイスラエルと思想的に分離が見られる。米国で熱心にイスラエルに肩入れするのはキリスト教福音派。
    ベングリオンの三角形:建国の父が、ユダヤ人国家、民主主義、占領地の継続の3つが同時に成り立つことはないとの発言に由来。

  • ユダヤ系アメリカ人の著者ができるだけ公平な視点から書くイスラエルの問題。イスラエル、パレスチナの地についての歴史を描く第一部とイスラエルの問題を探る第二部に別れる構成で、著者のユダヤ人バックグラウンドはありながらもどちら側にも肩入れすることなくイスラエルの解決の見えない問題を教えてくれる。
    知れば知るほど解決などできない問題だと思えてくるがどうなるのだろう。ユダヤ人が迫害を受けた結果として元々パレスチナに住んでいた人々を迫害(と、同じようなこと)するというのは、客観的に見たどうしても愚かとしか思えない。判官贔屓的にパレスチナ国家樹立を支持したくなる部分もあるけど、ファタハとハマスの断絶のように単純な話ではないのだろう。歴史から学ぶことができるのはあくまでも自分の生活に関わらないことだけなのかもしれない。アメリカの福音派キリスト教の薄気味悪さがドナルド・トランプ再選の可能性も含めて怖い。

  • ユダヤ系アメリカ人が書いたアラブとイスラエルの関係史。
    複雑に絡みあった状況をその歴史、背景から理解できる良書。

    自身がアイデンティティに苦しんだリベラルらしく、現状のイスラエルにはかなり批判的。
    自由と民主主義を求めて父祖の地に移住(帰還)した民族が、先住者である他民族を差別し、ましてや人種隔離政策を推し進めようとしている。

    全世界のユダヤ人に門戸を開いたため、西欧、東欧・ロシア、中東、アフリカにルーツを持つ人々が住み、国内でも階層化が進んでいること(アラブ(イスラム)系イスラエル人は最下層)、長年密接な関係にあった米国のユダヤ人社会においてイスラエルに対する見方が近年大きく変わって来ていることなどは、あまり知られていないように思う。

    歴代保守系政権は1967年の戦争で占領したガザ地区、ヨルダン川西岸地区への入植を推し進める一方で、占領地に住むアラブ人は虐げられてきた。
    アラブ/パレスチナとの融和は何度か成立しそうになるが、都度、暗殺やテロによって頓挫する。

    四方を敵に囲まれ、建国以来数多くの戦争を経験した自国を守ろうとする決意や、旧約聖書まで遡る民族の自我への拘りが保守派が台頭する背景にはありそうだが、外からは打開策が全くないように見える。(アラブ側にも原因はある)

    イスラエル建国の父ベン・グリオンは「①イスラエルはユダヤ人が多数を占める国家である、②イスラエルは民主国家である、③イスラエルは新しい占領地をすべて保有する、のうち2つは選べるが、3つすべては選べない」と言った。今のイスラエルは①と③を選んでいるようにみえる。
    グリオンはこうも言っている。「確かに、神はわれわれにその地を約束してくれたが、彼ら(パレスチナ人)にしてみればそれが何だというのだろう。反ユダヤ主義、ナチス、ヒトラー、アウシュヴィッツなどが現れたが、それは彼らのせいだっただろうか。彼らが目にしているのはただ一つ。われわれがやって来て彼らの国を奪ったということだ」

    2021年に原書が出版された本書ではガザ地区についてはあまり触れられていないが、アラブを含む多民族との融和を願う著者は、今回のガザ紛争に何を思うのか。

全54件中 31 - 40件を表示

著者プロフィール

社会活動家。イスラエルの民主主義を名実共に達成させるためのNGO、「新イスラエル基金(New Israel Fund)」のCEO。同基金は、宗教、出身地、人種、性別、性的指向に関わらず、すべての国民の平等を確立すること、パレスチナ市民やその他の疎外された少数派の保護、およびあらゆる形態の差別と偏見をなくし、すべての個人と集団の市民権と人権を確立すること、イスラエル社会の本質的な多元性と多様性を認識し、それに対する寛容性を強化すること、マイノリティの利益とアイデンティティの表現および権利のための民主的な機会の保護、自国および近隣諸国と平和で公正な社会を構築し維持すること、などを目標に掲げて活動している。妻と二人の娘と共にアメリカ、サンフランシスコに在住。

「2023年 『イスラエル 人類史上最もやっかいな問題』 で使われていた紹介文から引用しています。」

ダニエル・ソカッチの作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×