紛争屋の外交論 ニッポンの出口戦略 (NHK出版新書)

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  • NHK出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (248ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784140883440

作品紹介・あらすじ

日米安保体制と憲法九条という矛盾に守られ、「平和」を享受してきたニッポンは、思考停止のツケが込み、外交オンチに成り果てた-。出口に見える光芒は、軋轢を絆に変える、新しい平和構築のパラダイムだ。世界の紛争現場で政治家や軍閥と渡り合った交渉人が、普天間、拉致問題、領土問題等、膠着した外交課題の打開策を壮大に論じる。宮台真司氏との特別対談も収載。

感想・レビュー・書評

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  • この手の時事問題は1、2年もしたら十分に古くなってしまうものだが、
    いまだに争点はそれほど変わっていないと思えるのは
    国内の論議の熟成というのが遅いのか、
    もしくは争点が埋没させられているのか。

    いずれにせよ、相変わらず国連で活動していた
    実感に基づいており非常に読ませてくれます。

  • 紛争屋の外交論 伊勢崎賢治 NHK

    なぜ戰爭はなくならないのか
    貧困と援助は同じ仕掛け人によるマッチポンプ
    正義が守られれば戰爭がなくなるか
    戦争犯罪人を許せるか
    戰爭で平和をつくれるか

    拉致問題と北朝鮮
    制裁外交で信頼や落とし心をつくれるか
    正攻法に人情をまぶせ

    沖縄独立論
    真向から戦わずに差別を逆手に取って日米の両方を動かせ
    WINWINの道を切り開け

    日米同盟と憲法9条と自衛隊
    お互いの陰に隠れて皆保守になった
    米と言っても政府と軍と民間と・・考えは様々である
    間違いだらけの自衛隊派遣
    国民と相手と相手の国民が見えていないニホン政府
    9条の空洞化と軍法の提案

    宮台真司との対談
    ソフトボーダー
    平和が儲かる出口戦略
    平和国家のニホンを宣伝 憲法の各国翻訳版を提示
    近隣国家との互恵的関係をつくる
    サードポジションの重要性
    実績を積む

    どの時点に焦点を合わせた平和を求めているかが問題
    アメリカづんが仕掛けている紛争まで遡って
    それを原因として介入するか
    それはさて置きその後の内政状態を治めることのみにするか
    この捉え方の違いによって真逆の手段を選ぶ事に成り兼ねない
    どうやら伊勢崎さんは差し当たっての現象面の解決で
    済ませるべきだと思っているらしい

    同じ政治力を発揮するならば元の木阿弥にならないように
    出来る限り根本から全体を見渡して解決に向かわなければ
    大きな平和や更なる調和へと進めことが大事だろう

  • 伊勢崎賢治さんの新しい本、『本当の戦争の話をしよう』を読むまえの、旧著によるウォーミングアップ。『国際貢献のウソ』に続き、もう一冊読んでみる。

    ご自身の経験をふまえて戦争と平和を語り、拉致問題、領土問題、沖縄の基地問題、日米同盟といったテーマで、これらの外交問題の打開策を論じている。

    前後して、映画「ミルカ」を見て、『インド独立史』をはじめインドとパキスタンの分離独立についての本を読んで、それらの本に掲載されていたインド亜大陸の地図もよくよく見たので、伊勢崎さんが"紛争屋"として入った初めての現場「民族間対立に端を発した暴動の絶えないインドのスラム」(p.8)での住民運動オルグの話は、そういうのの根っこに分離独立があり、イギリス帝国の長いあいだの支配があるんやなーと思った。

    ▼1947年。ガンディーの夢は、「一つのインド」としてのイギリスからの独立でした。
     その夢もはかなく、イスラム教徒はパキスタンとして、「ヒンドゥー」インドから分離独立。以来、カシミール領土問題に象徴されるように武力対立が続き、ついに両国は、暴力装置の極致である核兵器の保有国となりました。敵国インドの脅威は、パキスタンを極度の軍政化と、イスラム原理主義に向かわせます。
     冷戦時代、ソ連のアフガニスタン侵攻に対して、アラブ諸国とアメリカ・西側諸国は、隣国パキスタンをベースに、一致団結してアフガン聖戦の戦士たちを支援しました。ソ連撤退後、パキスタン軍部は、アフガニスタンにインドの手が伸びるのを恐れ、急進的イスラム原理主義を標榜するタリバン政権の樹立に暗躍します。そのタリバンは、国際テロ組織アルカイダと結びつき、国際社会から孤立。アルカイダは、運命の9・11同時多発テロを引き起こし、アメリカの報復攻撃が始まりました。
     アメリカはパキスタンを脅迫します。このままテロリストを支援するのか、と。パキスタンの軍事政権はコロッと態度を変え、アメリカ軍への協力を表明。これに起こったのが、タリバンを支援してきたパキスタン国内の原理主義勢力です。更なる過激化に火がつき、アフガン問題を通してアメリカを、カシミール問題を通してインドを敵と見なす彼らは、パキスタンを国際テロリストの温床にしてしまいました。インド最大の人口を擁するムンバイでも、既に大勢の市民がテロの犠牲となっています。犠牲者が出るたびインド国民は、「パキスタン憎し」で熱狂し、「非暴力」の故郷インドを、排他的なナショナリズムに駆り立てます。(pp.11-12)

    第一章の「紛争屋が見た「戦争と平和」」では、"貧困と援助のマッチポンプ"という小見出しでは、こんなことが書いてある。貧困対策は、ほんとうにその貧困をうむ仕組みを何とかするものなのか。

    ▼紛争の原因が貧困だというのは正しいかもしれません。しかし、だからといって貧困対策をすれば紛争が起こらなくなる、というのはちょっと無理があります。今、人類が持つ貧困対策には、社会変革のニーズが内戦という形で臨界点に達するような状況に対処する能力は到底ありません。機能するとしたら、臨界点に達するずっとずっと前の平常時でしょうが、マッチポンプの構造がある限り、その実効性を議論するどころか、われわれ国際社会の介入は、貧困を生む悪政を逆に助長しているといわざるを得ないでしょう。(p.33)

    「正義」というやっかいな問題と戦争のこと。正義の聖戦はあるのか?

    ▼正義同士のぶつかり合いが、戦争です。…(略)…「ある国が圧政によって民衆を苦しめているから、その国の政権を(多少の民間人の犠牲が出ても)やっつけなければならない」という正義は、戦争開始の大義名分となるのです。また、宗教国家から見れば、神が正義かもしれませんが、人は神を守るためにも平気で人を殺します。(p..39)

    巻末には宮台真司との特別対談「ソフトボーダー」が収められている。ここで伊勢崎さんは、パラダイムシフトをしようと、その構想を語っている。

    ▼「ソフトボーダー」というのは、直訳すれば「やわらかな国境」。概念的にいえば、「主権意識の緩和」。つまり、領土の「占有」から「管理」へのパラダイムシフトです。互いに実益をとり、それを分かち合うということです。…(略)…現代においてもっとも合理的な紛争予防は、無駄な敵を創出しないということです。
     …(略)…これからは、実益の見える「予防外交」、つまり、今までは「戦争は儲かる」だったけど、これからは、「平和のほうが得」ということを、観念論でなく実益論として展開したい。(pp.179-180)

    尖閣も竹島も北方領土も、双方の国で管理していくという共同統治の方向を打ち出し、天然資源も共同で開発し、管理していけばよいと。ココはウチの場所や、いやこっちの領土や…というモメごとを起こすより、よほどクレバーで妥当な紛争予防論だと思うし、"国益"にもかなうと思うが、日本の政権はこういった考え方を理解していないのだろう。

    この4年前の本で語りあっている2人は、いまはコミュニケーションの実績を積んでいく時期だというのだが、その後の状況はコミュニケーションの実績どころか、モメごとを挑発してんのちゃうんかと思えてしまう。

    この本を読んで、『国際貢献のウソ』をもう一度読みなおしてから、『本当の戦争の話をしよう』を買ってきて読んだ。

    (2/3了)

    ※脱字
    p.162 アフガニスンで自衛隊員として活動する以上
      →アフガニス【タ】ン

  • [壮絶舞台からの喝]シエラレオネ、アフガニスタン、東ティモールなど、数々の紛争の現場で平和構築に携わってきた著者が語る私的日本外交論。官僚やメディア、そして国民にも厳しい指摘を加えつつ、著者が模索する国境のソフトボーダー化に筆を進めた作品です。著者は、『国際貢献のウソ』、『武装解除−紛争屋が見た世界』などの著作でも知られる伊勢﨑賢治。


    「あなた達が外交について日本の中で話してること、日本の【外】から眺めると変だし、ときには通用しませんから」という意識が根底にある一冊だと思います。現場を飛び回った伊勢﨑氏だからこそ見えてくる内外の認識のギャップをズバッと指摘しており、読んでいて時に学び、時に驚かされもしました。日本の外交問題がだいたいどのようなものかについての知識は読む前に必要とするものの、考えを新たな側面から眺める上で大変参考になる作品かと。


    また、紛争という「即物的」な側面を有する現場を舞台にしていたからでしょうか、とにかく結果、それも実のある結果にこだわった指摘が目立っていました。その点では(いわゆる左右を問わず)イデオロギー的に乗れない読者の方がいるかもなとは思いましたが、ソフトボーダーの概念などは、今日の紛争解決の最前線にいる人々がどのような議論をしているかを知る上でも有意義だと思います。

    〜国内政争に絡めとられたような小さな「針穴」から国際情勢を見るのは、いい加減やめるべきなのではないでしょうか。〜

    略年表の記述からの説得力がすごかったです☆5つ

  • 3.11直前の3.10に発行されたせいかちょっとスルーされてる気がするんですが、これは今年のベストに入る名著でした。すっげえ。すっげえ。

    ポスト震災だろうと揺るがないものばかりです。個人的には、ホテルルワンダ(映画)を見て、ルワンダ内戦の、人間の、紛争の、この解決策の無さ!どうしたらいいんだろう!何ができるっていうの!という悶絶に近い衝撃を抱いていたのですが、あの映画を見ておくと、ここで語られることの片鱗が理解できるように思います。応答、というか、答えとは言わないけれど。直面している課題を感じることができるんじゃないかと。

    そして、日本の文化や政治に切り込むその鋭さ。まったく遠い話ではなく、日常生活に、自分の生き方に直結したお話ばかりです。何がダメか、どういう考え方がありうるか。閉じた日本はそのまま閉じた己の姿のよう。夢中になって読みました。

    それと、20代で世界に飛び出し、最前線の実務家として活動を始めた著者の来歴と実績に、ああ、私はそれをしなかったしできなかった、そして、時間は戻せないし人生は一回っきりなんだなあと痛感するなど。

  • 【出会い】
    本屋の平積みで @三省堂神保町

  • アフガンについてもスリランカについても言及されていて、勉強してきたことにもプラスになった。日本の外交についての話が多く、沖縄や9条について考える機会にもなる。自分がいかに無知か、無関心か、ということも感じられた。まずは自国のことを知らなきゃと思った。

  • 武装解除のプロとして現場で働いてきた筆者。戦争がなくならない理由の一つとして「戦争は儲かるから」をあげ、それを起点に平和構築について論じています。
    HIKESHIプロジェクトというもので筆者を知ったのがきっかけで今回よんでみた。戦争は儲かる、ではなく、平和の方が得、と社会を変えるというスタンスがラディカルだと感じました。
    特にこの本では日本の外交について項を割いていますが、如何に日本の国際援助のスタンスがまずいか、いままではよく知らなかったことが記載されており興味深いです。
    例えば、海上給油の停止の見返りに復興のためとして供与した資金は結局紛争を長引かせる結果になっているとの指摘は衝撃です。
    また、北朝鮮拉致問題は喫緊の課題にあるにもかかわらず、なんの進展も見られないことについて問題提起と解決策の構想も述べています。
    ビンラディン氏殺害後について、今後の筆者の発言も注目だと思います。

  • 筆者の体験が主張に説得力を持たせる。外交をリアルに考える上で知っておくべき内容。
    ソフトボーダー論に関しては、理想論すぎてただちに賛同できない。

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著者プロフィール

1957年生まれ。早稲田大学大学院理工学研究科修士課程修了。2000年3月より、国連東ティモール暫定行政機構上級民政官として、現地コバリマ県の知事を務める。2001年6月より、国連シエラレオネ派遺団の武装解除部長。2003年2月からは、日本政府特別顧問として、アフガニスタンでの武装解除を担当。東京外国語大学教授。プロのジャズトランペッターとしても活動中。著書に『武装解除 紛争屋が見た世界』、『本当の戦争の話をしよう』『主権なき平和国家 地位協定の国際比較からみる日本の姿』(共著)などがある。

「2019年 『リベラルと元レンジャーの真「護憲」論』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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