ドストエフスキー『カラマーゾフの兄弟』 2021年11月 (NHK100分de名著)

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  • NHK出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (135ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784142231331

作品紹介・あらすじ

「四つの層」と「第二の小説」が読み解きの鍵 【2019年12月のアンコール放送】

世界文学史上、最高傑作の一つといわれる本作は、ドストエフスキーが人生の集大成として執筆した大長編小説である。家族・宗教・恋愛・嫉妬・善悪・友情・殺人・破滅といった様々なテーマが盛り込まれ、壮大かつスリリングなドラマを展開する傑作を、執筆当時のロシア社会の光と影(農奴解放、投機と拝金主義、キリスト教異端派の存在、社会主義革命の萌芽)を手がかりにロシア文学研究の第一人者が解説。物語が四つの層によって構成されていること、また、この物語の先に「書かれるはず」だった「第二の小説」があることを想定すれば、ドストエフスキーの「意図」が見えてくると著者はいう。難解かつ長大な本作を読み通すためのカギが詰まった一冊。

感想・レビュー・書評

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  • ※今回は「カラマーゾフの兄弟」の世界観を理解する為の、自分の事前予習用ツールです。いつもの様な、読んで頂ける方に向けた構成ではないため、無視して頂いて全く問題ございません。

    【読もうと思った理由】
    以前にドストエフスキーの「罪と罰」を読んだ際にかなり理解力不足であった。今回、同じ轍は踏みたくなかった。なので、著者が生きた時代背景、思想や価値観など、できる限り知った上で、本編に臨もうと思ったのが理由。

    【執筆当時の時代背景】
    1861年のアレクサンドル2世による農奴解放後のロシアを舞台にしている。理由は、小説第4部で陪審制度(1864年から施行)に基づく裁判が描かれていることがその証。時代設定は、1866年。(理由は本書p21参照)

    【小説で設定した年代における社会情勢】
    農奴解放により約250年に及ぶロマノフ王朝の屋台骨に亀裂が入る。近代化に乗り遅れ、クリミア戦争(1853〜1856)に敗れたロシアにとって、ヨーロッパ的な近代国家の道を目指し、工業化を図るには、安価な労働力が必須。
    よって、少数派の貴族、多数派の農奴という、2極化構造の破綻。
    行き場を失った農奴たちが、都会の底辺にうずくまる「ルンペンプロレタリアート」と化す。彼らはもはやキリスト教の神に救いを求めても意味がないことを悟る。何よりも、欲望の実現をいとも容易なものとする金への執着とアナーキーな自由が支配していく。

    【拝金主義】
    農奴解放以後に書かれたドストエフスキー作品全てのテーマの中心が「金」である。『罪と罰』にしろ、『白痴』にしろ殆どの登場人物が、金を中心に、車座に配置された印象がある。
    『カラマーゾフの兄弟』も例外ではない。
    拝金主義は、登場人物たちの心理や行動を理解する上で欠かせない背景。
    父親のフョードル・カラマーゾフは自分の財産を息子たちにびた一文渡さないと息巻き、長男のドミートリーも婚約者に借りた3,000ルーブルを返すために身も心も引き裂かれた状態で金策に走る。父親と長男が奪い合うグルーシェニカは、初め蓄財に励むエゴイスティックな女性として登場。次男イワンも、料理人スメルジャコフも、ある意味で金の囚人。

    【小説の構成】
    序文とエピローグを含む全42編からなる。

    (目次)
    著者より
    第1部 第1編 ある家族の物語
        第2編 場違いな会合
        第3編 女好きな男ども
    第2部 第4編 錯乱
        第5編 プロとコントラ
        第6編 ロシアの修道僧
    第3部 第7部 アリョーシャ
        第8部 ミーチャ
        第9部 予審
        第10部 少年たち
        第11部 兄イワン
        第12部 誤審
    エピローグ

    【ポイント】
    1.「カラマーゾフの兄弟」の主人公は、アレクセイ・カラマーゾフであり、作者がこれから書き起こそうとしている小説は、このアレクセイの一代記であること。アレクセイ自身は、誰もが知る波瀾万丈な生涯を送った偉大な人物とは見なされていない。

    2.アレクセイ・カラマーゾフの一代記は「第一」と「第二」の二つからなっていて「第一の小説」とは、つまり現に読者が手にしている『カラマーゾフの兄弟』を意味しており、「13年前」に起こった事件を記録したこの「第一の小説」は、「わたしの主人公」アレクセイ・カラマーゾフからすると、たんに「青春の一コマ」にすぎないということ。

    3.「第一の小説」と「第二の小説」の関係性について言えるのは、それが「全体として本質的な統一を保ちながら」2つの小説に分化したという事実。つまり『カラマーゾフの兄弟』とそれに続く続編との間には、なんらかの深い共通性があり、作者自身それを本質的とみなしていること。

    ※『カラマーゾフの兄弟』には、「第二の小説」があるということを押さえておく。

    【主要キャラクター】
    ●父フョードル・パーヴロヴィチ・カラマーゾフ(55歳)
    カラマーゾフ家の当主。無一文から身を起こして地主となる。強欲にしてケチな道化者の好色漢。グルーシェニカにぞっこん。

    ●長男ドミートリー・フョードロヴィチ・カラマーゾフ(28歳)
    通称ミーチャ。物語上の主人公ともいえる人物。散財と放蕩の限りを尽くすが高貴な心の持ち主でもある。恋敵の父親を殺害?

    ●次男イワン・フョードロヴィチ・カラマーゾフ(24歳)
    大学で工学を学び、モスクワでは文芸評論家として活躍。無神論者。「大審問官」という物語詩を書く。密かにカテリーナに恋心を抱く。

    ●三男アレクセイ・フョードロヴィチ・カラマーゾフ(20歳)
    通称アリョーシャ。純情な青年。町の修道院で暮らし、ゾシマ長老を尊敬。物語が進むにつれてその存在感が大きくなる。

    ●パーヴェル・フョードロヴィチ・スメルジャコフ
    カラマーゾフ家の料理人。同家の使用人グリゴーリーとその妻マルファに養育された。
    実の父親はフョードルとの噂があるが不明。モスクワに料理修行に出た際に「去勢派」に入信?フョードルを殺害?

    ●アグラフェーナ・アレクサンドロヴナ
    もとは町の商人の囲われもので、したたかな心を持つ妖艶な美人。通称グルーシェニカ。カラマーゾフ家の父親と長男を天秤にかけているが、実際のところ昔の恋人が忘れられない。

    ●カテリーナ・イワノーヴナ
    ペテルブルグの女学校を出た才女。通称カーチャ。ドミートリーの婚約者だが後に行われる裁判で彼を裏切る。

    ●リザヴェータ・ホフラコーワ
    町の裕福な未亡人ホフラコーワ夫人の娘。通称リーザ(あるいはリーズ)。アレクセイに心を寄せる。

    ●ゾシマ長老(65歳)
    町の修道院の長老。ロシア正教会の「長老派」に属し、信者から篤い尊敬を集める。

    ●コーリャ・クラソートキン
    自称「社会主義者」の少年。物語の進行とともにアレクセイに強い信頼を寄せる。

    【ドストエフスキーが影響を受けた作品】
    ドストエフスキーはシラーの『群盗』に強い影響を受け、『カラマーゾフの兄弟』にそれが色濃く出ている。彼は10歳のとき、モスクワで『群盗』の舞台を見て強烈な印象を受け、その後再三にわたってこの舞台を見ている。

    【群盗の内容】
    舞台は18世紀中頃のドイツ。領主の老フォン・モール伯爵とその二人の息子カール・モールとフランツ・モールを中心とした物語。領地を離れていた放蕩息子のカールは、その放蕩ぶりに父からお叱りを受け、反省の手紙を父の老伯爵に送る。
    しかし密かに継承権を狙う弟のフランツはその手紙を握りつぶし、父を騙して偽の手紙をでっちあげカールに送り付ける。
    老伯爵は放蕩息子のカールを叱りながらも、その高潔で善なる性格をよく知っていた。なので一刻も早くカールと仲直りしたいというのが本心であった。しかしフランツによる偽の手紙によって、カールは父から断絶されたと思い込む。カールは絶望し、そのまま悪友に引きずられ盗賊団の首領へとなし崩し的になってしまう。
    カールと老伯爵をうまく引き離したフランツは自らの謀略を進めていく。
    もはや邪魔者以外の何者でもない父を殺すため、「兄カールはあなたのせいで絶望して死んだ」と伝える。カールを強く愛していた父に精神的なショックを与えて殺そうとする。
    そしてフランツは父を無人の塔に幽閉し、自らが跡継ぎとしてその権力を奪う。
    一方その頃カールは盗賊団の首領になっていたが、彼自身はあくまで義賊であった。悪をこらしめ、弱いものには手を出さず、むしろ彼らに手を差し伸べるほどであった。しかし仲間は札付きのごろつきで、カールのあずかり知らないところで多くの極悪非道な行いをしていた。そしてついに彼自身も手を汚さなければならない時がやって来てしまった。これが後にカールを苦しめる。
    そんなカールがついに自らの領地に帰り、弟フランツの陰謀を知り、自らが置かれた立場を知ることになる。そして彼は義憤に燃え、フランツと戦うことを決心する。

    【シラーとは?】
    [1759〜1805]
    ドイツの劇作家でゲーテと並ぶ国民的詩人。革命的情熱に満ちた処女戯曲『群盗』(1781)により、いわゆる「疾風怒濤」文学の旗手として出発。理想主義的な主人公への共感を荘重に歌いあげた戯曲『ドン・カルロス』で古典主義様式へと進む。後年ゲーテと友情によって結ばれ、相携えてドイツ古典主義を確立する。史劇に『ワレンシュタイン』『ヴィルヘルム・テル』などがある。

    【ロシア正教会】
    正教会(東方正教会)の中核をなす教会。十世紀末キエフ・ロシアがキリスト教を受け入れて以後、ビザンティンの東方正教会の管下にあったが、ビザンツ帝国(東ローマ帝国)の衰退・滅亡とともに15世紀には独立を果たし、総主教制も敷かれた。しかし17世紀以降、同教会は信仰の聖地であるよりも、祭祀主義,権威主義の場と化し、これに反対する信者たちは脱退して分離派・古儀式派を形成、より狂信的なセクトも生まれた。

    【異端派】
    16世紀半ば、モスクワ総主教のニコンがロシア正教会の典礼(儀礼)を東方正教会風に改めようとした(「十字は二本ではなく三本の指で切る」など)ことに反対し、独自の儀式を守ろうとして教会から破門された人々を《分離派(古儀式派)》という。また同じく正教会から分離した形で存在しながら(そのため〈分離派〉に含めることもある)、独自の信仰形態を作り上げたのが〈異端派〉。これには鞭身派・去勢派・逃亡派などがある。

    【去勢派】
    18世紀後半、鞭身派の性的堕落を批判して、鞭身派信徒が開いた異端派宗教セクト。創始者コンドラーチ・セリヴァーノフは、自らを、人類を肉欲から救い、魂を滅ぼす〈蛇〉を退治するためにこの世にやってきた〈神の子〉であると宣言した。〈蛇〉は男性の性的器官を象徴し、〈蛇退治〉は〈去勢〉を意味する。

  • 今年も残り1か月。。
    来年の読書目標の1つに「挫折した長編を読み切る」がある。

    大学生の頃、第1巻の冒頭から睡魔に襲われ、門前払いをくらった『カラマーゾフの兄弟』、次のお正月に読みたいと思っています。まずはこの、100分DE名著にて予習をば・・・
    この本では、19世紀の帝政ロシア、激動の時代とドストエフスキーの生涯をさらっと学習。
    人間の深層心理を徹底的に描き出した作品、マラソンに挑むつもりで読み切りたいと思う。

  • NHK

  • 以前から興味のあった本でしたが、このような内容だったのは驚きました。これを哲学書として読むのはかなり難易度が高いと思います。

  • 難解なカラマーゾフの兄弟を読み解くための一つの指針となる。

  • 2021.12.10 読了
    2021.12.11 朝活読書サロンで紹介する

  • ドストエフスキー翻訳の第一人者による『カラマーゾフの兄弟』解説。続編として書かれたであろう作品の予測も踏まえて、本作品の充実したガイドにもなる。

  • 自分が黙ることで、実現させる。黙過。
    その罪と罰。ロシア王政を倒すことも実はドストエフスキーは保守の立場ながら転覆を支持していたのではないだろうか。

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著者プロフィール

名古屋外国語大学 学長。ロシア文学・文化論。著書に『甦るフレーブニコフ』、『磔のロシア—スターリンと芸術家たち』(大佛次郎賞)、『ドストエフスキー 父殺しの文学』『熱狂とユーフォリア』『謎とき『悪霊』』『ショスタコーヴィチ 引き裂かれた栄光』ほか。翻訳では、ドストエフスキーの五大長編(『罪と罰』『白痴』『悪霊』『未成年』『カラマーゾフの兄弟』)ほか、プラトーノフ『土台穴』など。なお、2015年には自身初となる小説『新カラマーゾフの兄弟』を刊行した。

「2023年 『愛、もしくは別れの夜に』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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