ジーン・シャープ『独裁体制から民主主義へ』 2023年1月 (NHKテキスト)

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  • NHK出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (116ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784142231478

作品紹介・あらすじ

世界中で読まれる「抵抗運動の教科書」

旧ソ連国家の独立運動、ミャンマーの民主化運動、そして「アラブの春」から香港雨傘運動まで――。巨大な権力と戦う人々の傍らには、常に一冊の本があった。「非暴力闘争」による権力打倒のために書かれた本書は、必ずしも道徳的にも宗教的にも優れていない、「普通の人々」が実践できる抵抗運動を指南する。戦略なき平和論から脱却し、民主主義や自由の真価を問い直すために必読の書!

感想・レビュー・書評

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  • 89年東西冷戦が終わっても、内戦、ジェノサイド、難民、格差差別、ポピュリスト政治家の台頭等々が広がっている。さらには湾岸、アフガン、イラク、ウクライナ戦争まで起きている。
    「このような状況を打開し、暴力によらず戦争や様々な抑圧・差別を解消していくにはどうしたらいいのか。この難問に長年向き合い、一つの道筋を具体的に示してくれたのが、今回ご紹介するジーン・シャープの非暴力論=戦略的非暴力闘争論です」(「はじめに」より)

    シャープは、非暴力を用いるのは、宗教的・道徳的に優れているからではなく「政治的に賢明な策」だからと述べています。

    過去『独裁体制から民主主義へ』を読んで大変感銘を受けた(2014.03.01)。その復習も兼ねて紐解いたのだが、当然(日本語版)刊行後10年間の世界情勢についても言及されている。2018年に亡くなっていることも初めて知った。4回ノーベル平和賞の候補になったらしい。
    ←受賞できなかったのは、注目されると困る人々が多かったからだろうか。

    肝はおそらくこうだ。
    「政治的な力の源はすべて、民衆側が政権を受け入れ、降伏し、従順することによっており、また社会の無数の人々や多機関の協力によって成り立っている。(略)反対に、民衆や機関が侵略者や独裁者に協力しなくなれば、どんな統治者であっても依存している力の源が枯れていき、時には絶たれる。そうした源を失うと、統治者の力は弱体化し、ついには消滅するのだ」独裁体制は見かけほど、強くない。
    ←それは現在ロシアのプーチンでも全く同じことである。さらに言えば、国会で圧倒的な議席を得ている自公政権でも全く同じ原理が働く。

    ではどうするのか?
    「戦略的非暴力闘争」という戦略がシャープのシャープたる所以である。
    ストライキやデモ、ひとつ2つじゃダメなんです(巻末にはシャープの提唱する198の戦い方が載っている)。戦略的に闘争を組まなくてはいけない。
    ←正に日本の闘争家たちの大きな弱点だと思う。反対に言えば、敵対集団は、このシャープ理論をよく学んでいると思う。彼等にはIQ高い人が多く、資金も組織もあるのだから、戦略的にかかってこられて、私たちが戦術的にしか対応しなかったら負け続けるのは至極当然と言えるだろう。

    しかし、彼等には決して克服できない「戦略的弱点」(上の肝の部分)があると、私は思う。だからこそ、歴史は彼等をなん度もなん度も打ち負かしてきた。

    ここでは、本書でも記述のあるセルビアの独裁的大統領・ミロシェヴィッチを追放した闘争について、かなりの尺をとって詳しく紹介している。さらにはバルト三国のリトアニア独立の経緯は、ソ連崩壊の進行と並行していただけに、もっとドラマチックである。どうして映画化されて日本公開にならないのか、不思議なくらいだ。3回目以降では、台湾の学生運動、香港の民主化運動、ウクライナ革命などにも言及しているけれども、中見さんはビックリするほどにその評価を避けている。いずれも予断を許さない段階にあるからだろう。

    最後に中見さんは日本についても一言言っている。「急速に軍事に傾斜する動き」に対して「それが長期的に見て賢明な策であるかどうかをよく考える必要があるでしょう」という学者らしいやんわりとした口調で。

  • 第120回:「非暴力抵抗」という武器(想田和弘) | マガジン9
    https://maga9.jp/230125-2/

    名著126 「独裁体制から民主主義へ」ジーン・シャープ - 100分de名著 - NHK
    https://www.nhk.jp/p/meicho/ts/XZGWLG117Y/blog/bl/pEwB9LAbAN/bp/ppeyN8xGQp/

    100分de名著 ジーン・シャープ 『独裁体制から民主主義へ』 2023年1月 | NHK出版
    https://www.nhk-book.co.jp/detail/000062231472022.html

  • 「ジーン・シャープ『独裁体制から民主主義へ』」中見真理著、NHK出版、2023.01.01
    109p ¥600 C9431 (2023.02.15読了)(2022.12.26購入)
    非暴力により独裁体制を終わらせ民主主義の体制に持ってゆくための方法を書いた本があり、実際にこの本に書いてあることを実践して成功した事例があるということを知りませんでした。
    最近では、独裁体制側もこの本を読んで、対策を講じているということなので、更に進化させないとうまくいかないとか。

    ●理論的体系化(15頁)
    シャープが目指したのは、それまで場当たり的に展開されてきた非暴力闘争に、軍事のような戦略に基づく計画性を持たせることでした。戦略的に非暴力闘争を理論的に体系化した彼は、「非暴力におけるクラウゼヴィッツ」「非暴力におけるマキアヴェッリ」とも呼ばれています。
    ●交渉は不可(24頁)
    シャープは、力関係に圧倒的な差がある中で、「交渉という方法が相互に満足できる解決策をもたらすことはない」と断じています。
    ●民衆の支えがなければ統治できない(27頁)
    支配者の政治的な力は被支配者との相互関係に規定されている。つまり、民衆を抑圧する支配者は「統治する民衆の支えを必要」とし、民衆の支えや協力がなければ「政治的な力の源を確保し維持することはできない」というわけです。
    ●非暴力闘争の「勝率」(97頁)
    1900年から2006年までの間に政府を打倒(もしくは抑圧者から領土を開放)した抵抗運動のうち、参加者が千人以上の事例323件を徹底的に調査しました。その結果、暴力的抵抗の勝率が26%ほどだったのに対し、非暴力で闘ったケースでは実にその二倍、約53%が成功を収めていることがわかったのです。

    【目次】
    【はじめに】非暴力に現状打破の希望を託す
    第1回 独裁体制は見かけほど強くない
    第2回 非暴力という「武器」
    第3回 非暴力ゆえの勝利
    第4回 新たな独裁者を生まないために
    非暴力行動198の方法

    ☆関連図書(既読)
    「ガンディー『獄中からの手紙』」中島岳志著、NHK出版、2017.02.01
    「獄中からの手紙」ガンディー著・森本達雄訳、岩波文庫、2010.07.16
    「マハトマ・ガンジー」蝋山芳郎著、岩波新書、1950.03.10
    「ガンディー主義」ナンブーディリパード著・大形孝平訳、岩波新書、1960.05.20
    「ガンジー」坂本徳松著、旺文社文庫、1965..
    「ガンディー 反近代の実験」長崎暢子著、岩波書店、1996.04.05
    「ガンジー自立の思想」M.K.ガンジー著・片山佳代子訳、地湧社、1999.06.10
    「現地発エジプト革命」川上泰徳著、岩波ブックレット、2011.05.10
    「中東民衆革命の真実-エジプト現地レポート-」田原牧著、集英社新書、2011.07.20
    「エジプト岐路に立つ大国」ターレク・オスマーン著・久保儀明訳、青土社、2011.12.20
    「エジプト革命-アラブ世界変動の行方-」長沢栄治著、平凡社新書、2012.01.13
    (アマゾンより)
    世界中で読まれる「抵抗運動の教科書」
    旧ソ連国家の独立運動、ミャンマーの民主化運動、そして「アラブの春」から香港雨傘運動まで――。巨大な権力と戦う人々の傍らには、常に一冊の本があった。「非暴力闘争」による権力打倒のために書かれた本書は、必ずしも道徳的にも宗教的にも優れていない、「普通の人々」が実践できる抵抗運動を指南する。戦略なき平和論から脱却し、民主主義や自由の真価を問い直すために必読の書!

    • 本とさん
      今日、読み終わりました。読むのは、簡単ですが、心から納得して、実行に移せるか、深く重い問に応えるには人生をかける覚悟が必要だと感じました。さ...
      今日、読み終わりました。読むのは、簡単ですが、心から納得して、実行に移せるか、深く重い問に応えるには人生をかける覚悟が必要だと感じました。さて、私は?
      2023/02/25
  • テレビの番組を見てこのテキストを購入。
    非暴力闘争の徹底した実践的な理論書、ジーン・シャープ著「独裁体制から民主主義へ」の紹介テキスト。というより、ジーン・シャープの活動全体の思想、ポリシーが簡潔にまとめられていること、さらにその限界や批判も行っていることにより、入門として最適。実際の「独裁〜」や関連著作を先に読んで、中毒になる前に(!)その限界や批判の部分も知ることができることは、重要なポイントだと思う。
    こんな本があるとは知らなかった。自分の中の数十年間のモヤモヤの多くが払拭されつつも、自分の中の新たな課題が生まれた。

  • Eテレでやってたのを見て

    1, 独裁体制は見かけほど強くない
    独裁体制から民主主義へ 
     非暴力で独裁体制打倒 非暴力という武器で非暴力という戦略を貫く
     支配者は被支配者により支えられている
    独裁体制に服従する7つの要因 習慣 制裁への恐れ 道徳的義務 自己利益 支配者との心理的一体感 無関心 不服従への自信の欠如 
    非暴力で闘争

    2, 非暴力という武器
    暴力なき戦争
     相手の土俵で戦わない 暴力は独裁の得意な分野 軍事戦争にしない 非暴力の原則を守り抜く
    198の行動
    政治的柔術 
    戦略的思考 周到な計画 体制打倒の後も考える
    目的をはっきりとさせる 自らを分析せよ
    セルビアの事例

    3,非暴力ゆえの勝利
    身近で具体的な小さな行動 
    オレンジ革命 雨傘運動 ひまわり学生運動 白紙デモ
    政治的麻痺状態 独裁者の力を削ぐ隠れた不服従静かな抵抗 
    非政府組織の基盤を作る 並行政府

    リトアニア サユディス民主化運動組織

    信じてやり切る 勝利を信じぬものに勝利なし
    独裁体制の崩壊はゴールではない
    民主主義体制を維持して公正なものにするためにさらなる取りが必要
    永久革命

    残念ながら4回見れず

  • 初めて聞く名著でした。非暴力による革命の重要性、そして難しさを知ることができました

  • シャープが日本国憲法をどう評価していたのかを知りたくなった。この憲法を血肉化することは、まさに「独裁体制」に抗することになりうることだと考えているからです。

  • 毎週欠かさず観ている100分de名著ですが、第1回を観てテキストを即購入しました。

    恥ずかしながら、このシャープの書籍を放送まで存じ上げておらず、非暴力で独裁政権を打倒する指南書が存在することに驚きました。

    内容も納得いくものでした。やはり暴力対暴力は何も生まないし、武器や戦争を行使しなくとも、この世界で生きていけることを改めて思い知りました。
    私の憧れ?(自然豊かで)の国コスタリカは、兵力すら持っていないことを恥ずかしながら初めて知り、やはり外交を上手く行っていけば、軍備力増強なんてしなくても良いのだと、知ってはいたものの、より身をもって痛感しました。

    また、非暴力の民主主義的抵抗手段の一つに、座り込みやハンストがありました。
    今日本国内でも入管のハンストや、沖縄の辺野古ゲート前シットインが行われており、これらを思い出しました。
    彼らの行動は間違っていないし、れっきとした民主的抵抗手段なのだと、彼らのやっていることは決して無駄ではないのだと、救われた気持ちになりました。(ちょうど数ヶ月前に辺野古に行ってきたので…)

    テキスト止まりではなく、しっかりと本著を読み、多くの人に読んでほしい本だと思いました。

  • 資料としても読み物としてもドキュメンタリーとしても、第1級。
    もちろん本元を読んだほうがいいが、まずはこの解説版から。ジーン・シャープの理論と、それに従って成功した民主化運動の例もたくさん挙げられているので、現実に照らしながら説得力がある。
    また、20世紀民主主義運動最高の知の巨人といわれ、4度もノーベル平和賞にノミネートされながら受賞しなかったのは、ジーン・シャープが盲目的なアメリカ的民主主義への賛美者だったせいではないかなあ、と思った。
    徹底的に冷静で公平、ロジカルでなければこんな理論は作れないのに、なぜそこだけ目が曇ってしまったのか、そういう残念な点も含めておもしろい。
    身近なモラハラパワハラな人にも使えそうな本。
    示唆に富む文章だらけで、多くの人に読んでもらいたい。

  • シャープの著書を噛み砕き、例を引いて説明するとともに、現状、また問題点についてもいくらか洗い出してくれている良いガイドブックかなと。「私たち」が目指したい民主主義についてもう少し基本的なことを学ぼうと思う。

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著者プロフィール

清泉女子大学名誉教授。1949年、東京都生まれ。専門は国際関係思想史。一橋大学大学院法学研究科博士課程単位取得退学。主な著書に『柳宗悦――時代と思想』(東京大学出版会)、『柳宗悦――「複合の美」の思想』(岩波新書)など。

「2022年 『ジーン・シャープ『独裁体制から民主主義へ』 2023年1月』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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