ハイーライズ (ハヤカワ文庫 SF 377)

  • 早川書房
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感想 : 13
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  • Amazon.co.jp ・本 (242ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150103774

感想・レビュー・書評

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  • 都市の郊外に屹立する40階建ての高層マンション。近代的で利便性の高い生活の象徴のようなそのマンションでは、高所得者層が住む高層階と低所得者層が住む低層階との間で、些細な確執が日増しに強まってきていた。ある日、最上階に住む宝石商の転落死をきっかけに、階層ごとの「階級闘争」が一気に表面化する。マンション中に充満する暴力と欲望渦巻く中、住人たちは次第に人としての理性を失ってゆき・・・

    怖いよー(T_T)怖いよー(T_T)。
    鴨がこれまで読んだ本の中で、最もグロテスクな作品と言っても過言ではあるまい。ホントに怖いですよー。何が怖いって、登場人物であるマンションの住人たちが、一般的にはセレブと言っても差し支えないぐらいの社会的ステイタスにある人たち(低層階は低所得者といっても相対的な話で、社会的には十分立派な立場にある人たちばかり)であるにも関わらず、獣性を剥き出しにして闘争と破壊の喜びに目覚めていく、このプロセスがもぅ怖いのなんの。
    物語は、最上階のペントハウスに住むこのマンションの設計者・ロイヤル、25階に住む医師のラング、2階に住むTVプロデューサーのワイルダーの3人を中心に進んでいきます。彼ら3人は、それぞれ高層階・中層階・低層階を象徴するキャラクター。治安の悪化を肌で感じつつも何故かマンションを去る決心がつかないロイヤル、争いに巻き込まれないようひっそりと暮らしつつもいつしか闘争の渦中に飲み込まれるラング、闘争をきっかけに高層階への敵意を爆発させ、屋上への登攀を開始するワイルダー・・・彼らの背後に霧のように立ち現れる女たちもキャラ立ってます。もはや殺人さえ日常と化してしまったマンションの中で、最後まで生き残るのは誰か?乞うご期待!

    ・・・という作品ではないんですねぇ、これはヽ( ´ー`)ノハラハラドキドキのサスペンスは、この作品にはありません。描かれているのは、高層マンションという近代的な閉鎖空間において人間精神が環境の影響を受けて変容する、そのあり様です。バラードの筆致は徹底して冷徹にして静謐。たいへんな暴力行為が描かれているのに、そこから受けるイメージは奇妙に美しく淡々として、そして静かです。
    SFという文学ジャンルは様々な定義付けがなされていますが、鴨は、SFとは「変容を描く」文学だと思っています。変容の対象が外的要因であり、且つその規模が宇宙的なものであれば壮大なハードSFとなるでしょうし、内的要因を対象とした個々人の魂に切り込む変容であれば、ニューウェーブSFと呼ばれるようになるのではないかと。そういう意味で、鴨はSFの「S=サイエンス」なファクターは、決して物語の中心にならなくても良いと感じています。
    この「ハイーライズ」をはじめとするバラードの「テクノロジー三部作」は、いずれも「近代テクノロジーを触媒とする環境の中で人間精神がどう変容していくか」を描いた作品です。40階建ての高層マンションという舞台設定自体は若干古臭いものの(1975年の作品ですからねぇヽ( ´ー`)ノ)、その目指さんとするところは紛れもなくSFであろうと鴨は思いますし、この設定だからこそ今読んでも十分インパクトのある普遍性を勝ち取るに至った作品なんでしょうね。

  • 小学校もスーパーも入っている高層住宅(今でいうタワーマンション)で、上の階からワインの瓶が落ちてくるところからストーリーは始まるーー

    上層階・下層階のヒエラルキーに、タワー内の密閉空間で巻き起こる極限状態!!

    という設定はすごく面白いと思ったけど、皆一様に凶暴化したり退化していくのが「そうなるか?」と徐々について行けなくなった。

    もっと面白い展開に出来た惜しい作品。

  • 都市化したタワーマンション内で、下層階住民と高層階住民の反目が嵩じ、秩序が崩壊してゆく様を描くSF。バラードの作品にしては、難解さもなく、物語として楽しめる。
    グロテスクで胸の悪くなる場面もあるが、グイグイ引き込む極彩色のパワー侮り難し。人間、一皮むけば現れる暴力性と残酷性は、空想と片付けるには済まないリアリティーがここにある。
    命の危険が伴う無法地帯化したマンションから、容易に出て行けなくなる心理も、生々しく描かれており、興味深い。

  • バラード「ハイーライズ」読んだ http://www.tsogen.co.jp/np/isbn/9784488629151 … (読んだのはハヤカワの版だけどリンクがない)んー。もっと好きな作品あるな。蔑視と妬みの幼稚な対立が徐々に暴力へエスカレートして、社会から隔絶した空間で法律もモラルも無関係に3大欲求を満たす(つづく


    この後に描く管理暴力ではなく、サル山の争い、バナナの皮の投げ合い、お前の母ちゃんデベソ的な。ただこの住人心理を、まだアメリカでもそんなに高層集合住宅がない70年代に書いたところがバラードだと思う訳だよ。時代を感じる部分がどうしてもあるこの本を、映画はよく料理したなあ(おわり

  • ❖着想は凡庸なものに思われたけれど、最後はよくここまで物語を膨らませられたものだと感動を覚えた。生活の大部を賄える巨大高層ビル、その共同体での住民どうしの軋轢(トラブル)の嵩じていくさまは易く想像されるものだが、そこからさらに亢進する状況の異様さに惹きこまれた。居住環境の荒廃する過程、その変質がもたらす住人の錯乱と順応ぶりは興味深く、モラルという薄い共通認識は剥がされ、感覚の鈍化とともに何か本質的な現代人の姿が赤裸々となっていく。従来の退化(後退)とはまた異なるヒトのあさましい姿(歪)をまのあたりにする。傑作。

  • B。トムヒドルストンとルークエヴァンスの映画ハイライズの予習で。
    トムヒとルークが思い浮かばれる。
    40年前ならともかく今ではさほど衝撃は感じない。

  • 高層マンションに住む人々が、階層間のもめ事から徐々に対立が悪化して異常な世界に取り込まれていく。
    かなり久々に再読。昔読んだときはこのカオスに吐きそうなくらい衝撃的だったが、いま読むと意外に小説としては統制がとれていて、高層階、中層階、低層階の住人たちの人間性がそれぞれ崩壊していく様子がしっかり描かれている。一歩外に出れば普通の世界が広がっているのに、マンションの中に自ら囚われて狂っていく人間たちが怖い。
    今となっては舞台設定が少々古く感じられるが、作品のエネルギーは失われていないと思う。とてつもなく不愉快で面白い本。

  • 現代の寓話、といった趣。
    こういうテーマは風化の洗礼をもろに受けるので、不利かもしれない。刊行当時は今読むのの数十倍、センセーションを感じられたのではないかと思われる。

    2011/9/27読了

  • 16 抗争が激化していく前半はなかなかいい。後半はもうひとつ。

  • 異常に面白かった。

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