- Amazon.co.jp ・本 (357ページ)
- / ISBN・EAN: 9784150122898
作品紹介・あらすじ
生者は若返り、死者は墓から蘇る時間逆流現象"ホバート位相"が発生した世界で起こる奇妙で不条理な現実を描くディック幻の傑作
感想・レビュー・書評
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死者の生き返り。そして退化、成長を遡っていく。
何故こんなことが起こったのか?原因は明らかにされていない。この小説のメインファクターが大きく活かされているのはピーク教祖だけ。それ以外は逆回りをほとんど意識させない。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
時間が戻っていく世界、すなわち死者が墓から蘇り、どんどん若返っていき最後は子宮に戻っていく。空の皿に食べ物を吐き出し、食料が戻る。そんな時間軸の中でもストーリーとしては進んでいくのでこのちぐはぐ感は面白かった。ただストーリーがとある宗教の教祖が蘇る事を察知したそれぞれの勢力が奪い合うって話で設定が良かった分なんか勿体ない感じがしたかな。もっと広げてほしかったなぁと。巻末の解説を読んで作者の宗教観、哲学、各作品に対する主題、そんなのを踏まえて読んだ方が良さそうな感じだった…。僕の読み方が悪かったのかも。
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933-D
文庫 -
死者は墓から蘇り、生者は若返って子宮へ回帰する。そんな時間逆転現象が起こった「逆まわりの世界」が舞台。死者の再生と売却を請け負うセバスチャンは、ユーディ教の始祖ピークを掘り出したことをきっかけに、ピークをめぐる様々な派閥の抗争に巻き込まれ…
死者は蘇り、生者は子宮に帰る?なんというトンデモ設定。面白いのはこのトンデモ設定を実生活にまで落とし込んでいるところ。例えば、本来、生者は食物を食べて消化しますが、この世界では生者は食物を胃袋から皿に戻します。あるいは、子宮に帰る生者のためにあえてセックスをしたりと、なんだか因果関係がめちゃくちゃ。だけでなく、蘇った死者の売却権は発掘者に帰属したりと、この世界を前提にした社会構造も出来上がっているよう。ただ、ここまで実生活に落とし込まれると、読み進めるうちに、いろいろ矛盾を感じてしまって、破綻した設定に感じてしまうのですが、それはそれとして、強引に物語を展開する剛腕はディックならでは、といったところでしょうか。ディックだから許してしまえる気もします。 -
"時間"、"流れ"、固定観念と認識
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SFの巨匠、フィリップ・K・ディックにより1967年に発表された長編SF。時期で言えば、『パーマーエルドリッチの三つの聖痕』(1965年)と『アンドロイドは電気羊の夢を見るか』(1968年)、『ユービック』(1969年)の間。
<ホバート位相>と呼ばれる"時間逆流現象"が起こり出した世界。死者は生者となり、生者は子宮へ回帰する不可思議な現象。
主人公のセバスチャンは、"老生者(=再生した死者)"の保護と売却を生業としていた。ある日、セバスチャンは、生者となったユーディ教の始祖トマス・ピークを保護する。大きな影響力を持つ教祖を保護したことにより、セバスチャンは公安機関である<図書館>と<消去局>、ユーディ教、ローマ・シンジケートの駆け引きに巻き込まれていく―――。
墓から掘り出される"老成者"、逆転する挨拶、吸うと長くなるタバコ、元大人の子供暗殺者(...etc)。物語を構成するギミックは魅力的なのだが、それがシナリオ展開を面白くしているかと言われると微妙。正直、「"時間逆流現象"の設定がなくても良いんじゃね?」と思ってしまう内容。"幻の傑作"ということだが・・・まあ改訳版がなかなか出なかったのも理由があるのだなと。
巻末の解説では、ディック作品とエントロピー、(本作における)エントロピーの増大による混乱について解説されているので、(読後、「一体なにが描きたかったのか」と思われた方は特に、)是非、最後まで読み通してもらいたい。(この解説を読むと本作の深みが増す。) -
逆まわりが気持ち悪くて不安になる。時間について再考。
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死者が墓から蘇生し、徐々に若返って最後には赤子として子宮に還っていく。口から吐き戻された食べ物や、煙草の吸殻は元の形を取り戻し、マーケットへと戻っていく。書物に至っては図書館で消去されてしまうという、あらゆる物事が逆に進むようになってしまった世界観を持つ話。
書かれたのはアメリカでキング牧師やマルコムXらが活動していた頃だと推測するが、世界観のイメージに近いのは映画『テネット』だと思う。しかし『テネット』と違い、明らかに物体が映像を巻き戻すように動き、その中で若返ったり元の形を取り戻すのではなく、あくまでも人々は普通に日常を送っており、日常を送る中で起こす行動の順序が逆行しているのが特徴的だった。 -
時間逆流現象で人々が若返っていく世界。スーパーファミコンのEMITを思い出した。赤川次郎シナリオ原案のあのゲームをプレイしたときに「そもそも設定に無理があるなぁ」と感じた感覚が、本書を読んでそのままよみがえってきた。体は逆転していっても、ビデオテープを逆再生するような感じでもなく、生活のすべてが逆まわしになっているわけではない様子。この小説が面白くなってくるのは、世界に大きな影響力をもつ教祖が蘇り、彼をめぐって3つの勢力が、スパイ小説よろしく騙し合いのアクション映画的展開を繰り広げるあたりから。男と女の話になったり、神学的要素が見え隠れしたり。秩序とエントロピーについてのテーマ性については、物語の結末がすべてを語っているのかもしれない。