Gene Mapper -full build- (ハヤカワ文庫JA)

著者 :
  • 早川書房
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本棚登録 : 826
感想 : 89
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  • Amazon.co.jp ・本 (360ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150311070

作品紹介・あらすじ

AmazonのKindleストアにて、「ベスト・オブ・2012」小説・文芸1位!話題の電子書籍、分量1.8倍以上の完全改稿版バーチャルリアリティ技術と遺伝子組換作物が浸透した近未来を描く、本格SFサスペンス。電子版の文体・構成を一新した完全改稿

感想・レビュー・書評

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  • 『オービタル・クラウド』がかなり面白かったので、藤井作品を追いかけようと思っていながら早2年。ヤバイヤバイ、年々体感時間が短くなっていくぞ。

    拡張現実が広く社会に浸透し、フルスクラッチで遺伝子設計された蒸留作物(Distilled Crop)が食卓の主役である近未来。遺伝子デザイナー(Gene Mapper)の林田は、L&B社のエージェント黒川から、自分が遺伝子設計をした稲が遺伝子崩壊(ジーン・コラプス)した可能性があるとの連絡を受け原因究明にあたる。ハッカーのキタムラの協力を得た林田は、黒川と共に稲の謎を追うためホーチミンを目指すが──

    という、あらすじ。
    SF作品に馴染みのない方にはなんのこっちゃの世界観かもしれない。私もSF世界が得意というわけではないのだけど、それでも藤井太洋さんの作品は大変好みなのだ。
    元システムエンジニアの藤井さんの作風は、IT技術なんかの専門用語的なものがバンバン出てくるイメージが強い。
    最初はそこで戸惑ってしまうのだけど、でもそれらの用語の意味も自然と分かってくるような筋立てになっていて、実はとっても読みやすいSF作品を書かれるのだ。気づいたときには、藤井さんの描く近未来に夢中になっている。

    藤井作品を読みやすく面白くしているもの、その一番大きな特徴は魅力的な登場人物たちだと私は思ってる。それぞれの人物が科学技術分野のプロフェッショナルで、自分たちのやるべきことに懸命に取り組むのだ。
    『オービタル・クラウド』もそうだったんだけど、人類の危機を前にして、出会うはずのなかった人たちが出会い、ひとつのチームとなって各々の持てるすべての技術を駆使して対処していく、ある意味、熱いお仕事小説としても読めるのだ。

    ここで、先に書いたあらすじに簡単な解説を加えながら、もう少しだけ分かりやすく書き直してみたいと思う。がんばるぞ。

    2037年。「インターネット(※)」がなくなって「トゥルーネット」と呼ばれるものが普及している世界では、「インターネット」という言葉だけでなく、「出張」や「名刺」などという言葉が忘れ去られ、コンタクトレンズに映像を投影する拡張現実での会議が日常の社会となっていた。
     (※)2014年、インターネット上で検索サービ
      スを提供していたコンピューター・プログ
      ラムが暴走して、ネットワークに繋がって
      いたすべてのコンピューターを乗っ取り、
      人類を追放(ロックアウト)してしまう。

    葉や花の色をデザインする遺伝子デザイナー・Gene Mapper(ジーン・マッパー)の林田は、〈L&B社〉のエージェント黒川から、自分が遺伝子設計をした稲「SR06」が遺伝子崩壊(ジーン・コラプス)した可能性があるとの連絡を受け、原因究明にあたる。

    〈L&B社〉の代名詞でもあるスーパーライス「SR06」は、カンボジアで運営される農場〈マザー・メコン〉において完全有機農業で育てられていた。
    林田はその蒸留作物(※)である「SR06」に色をつけ、水田に〈L&B社〉と〈マザー・メコン〉のコーポレート・ロゴと世界初の5冠プロジェクトの認証マークを描くジーン・マッピングを行っていたのだ。
     (※)蒸留作物は従来の遺伝子組み換え作物と
      は違い、目的とする植物のすべての遺伝子
      を調査し、必要なものだけを残して新たな
      機能を付け加えた、人工の植物のこと。
      稲の最新モデル「SR06」のDNAに自然植
      物の痕跡はほとんど残っていない。

    林田が手掛けたデザインは、遺伝子工学によって農場と作物が完全にコントロール下に置かれていることを知らせるイコンでもあったことから、そのロゴと認証マークが崩れる遺伝子崩壊が世界に発信されるということは、〈L&B社〉にとって致命的な問題となるのだ。

    蒸留作物が「化けた」、遺伝子崩壊の原因究明に必要な情報を「インターネット」に埋蔵されているデータからサルベージするため、ハッカーのキタムラの協力を得た林田は、黒川と共に稲の謎を追うためホーチミン(※)を目指すが ──
     (※)2014年に人類を「追放」したインター
      ネットが今も生きている街


    古くからあるものや自然なままのものと、新しい技術や人工的なもの。どちらがいいとか正しいとか、二つに一つで考えることができなくなった時代。科学技術の前では人の価値観なんてあっさり変わってしまうものなのかもしれない。でもそれだっていいことなのか、悪いことなのか、どちらかに決めつけることなんてできないのだろうな。

    藤井さんは、2012年に電子書籍によるセルフ・パブリッシング(※)で『Gene Mapper -core-』を発表。翌年の2013年、同作品を増補改稿した『Gene Mapper -full build-』で早川書房から単行本デビュー。
     (※)自己出版のことで、著者自らが制作から
       出版まで行う出版の方法。電子書籍に
       多い。
    この作品がデビュー作なのかと圧倒される。ここには藤井さんの作品の土台となるものが全て詰まっていて、やっぱり藤井さんの作風が好きだと改めて気づく。

    • 地球っこさん
      ハイジさん、こんにちは♪

      コメントありがとうございます!

      あ、あ、圧死ですかー!
      お褒めいただき嬉しいのですが、今、頭の中ではペランペラ...
      ハイジさん、こんにちは♪

      コメントありがとうございます!

      あ、あ、圧死ですかー!
      お褒めいただき嬉しいのですが、今、頭の中ではペランペランになったハイジさんのアイコンがフワフワと漂ってます( *´艸`)

      SFって、世界にカチッとうまく入り込めたら、ほんと面白いですよね。
      時には専門用語とか難しくて眠たくなるのもあるけれど……

      ハイジさんは科学系や物理系の本もたくさん読んでおられるので、これからもピタッとハマるSF作品がたくさん見つかりそうですね。

      藤井さんの作品は、そういう難しい用語とか、さら~と流しても、途中でそういうことかと分かるようになっていると思います。
      それ以上にプロフェッショナルな登場人物たちのおかげで最後まで面白く読めます。
      おすすめの作家さんです。

      とはいえ、私も「オービタル・クラウド」を読んでめちゃくちゃ感動したのに、今回がやっと2冊目。そして2年ぶりという……
      読みたい本が増える一方……
      SFチックに読書時間だけゆっくり進むように時空が歪んで欲しい~(あと睡眠時間と 笑)

      この本も面白かったですが、やっぱり一番のおすすめは「オービタル・クラウド」かなと思ってます(まだ2冊読了しただけですが……)。

      「オービタル・クラウド」は宇宙に関するストーリーなので、壮大でワクワクするし、お仕事小説としても熱くなれます。
      またお時間がありましたら、ぜひ♡

      もし、まだ余裕がありましたら「世界SF作家会議」も面白かったです。

      2020年から3回、フジテレビ系列関東ローカルの深夜番組として公開され、YouTubeにディレクターズカット的な長いものが配信されているのですが、それが本になったものなんです。

      今もまだYouTubeは観られると思うので、お暇なときにでも。
      SF作家さんたちのキャラが言動に表れていてかなり楽しむことができます。

      日本のSF作家さんや中国SF界から『三体』の劉 慈欣さんに、『紙の動物公園』のケン・リュウさん。韓国からは『わたしたちが光の速さで進めないなら』のキム・チョヨプさんが出演されてます。

      この本を読んだりYouTubeを観て、SFって面白いんだーと思えました♪
      2022/08/18
    • ハイジさん
      地球っこさん
      ありがとうございます!

      オービタル・クラウド
      宇宙モノなのですね
      楽しみです(^ ^)

      世界SF作家会議ならびにYouT...
      地球っこさん
      ありがとうございます!

      オービタル・クラウド
      宇宙モノなのですね
      楽しみです(^ ^)

      世界SF作家会議ならびにYouTubeのご紹介までありがとうございます

      SFって意外と奥深くて、だけど意外と身近何かを感じます

      楽しみばかりが増えて困っております(笑)


      2022/08/19
    • 地球っこさん
      ハイジさん

      ですよね~
      あり得ないわー
      いやいや、あり得るかも……
      という、ファンタジーとはまた違った面白さがSFにはありますよね(’-’...
      ハイジさん

      ですよね~
      あり得ないわー
      いやいや、あり得るかも……
      という、ファンタジーとはまた違った面白さがSFにはありますよね(’-’*)♪

      同じく楽しみばかりが増えておりま~す。
      2022/08/19
  • 2010年代に行われた“遺伝子組み換え作物”は既に時代遅れとなり、作物の性質や色・形までも完全に遺伝子設計された“蒸留作物”が食卓の主役となった近未来の世界。
    遺伝子デザイナーの林田は、自分が設計した稲が遺伝子崩壊した可能性を告げられ、原因究明のために発注元のエージェント・黒川と共にベトナムへ向かう。


    藤井太洋さん、初読。
    うわわわ、カッコいい!
    めちゃくちゃ面白かった!

    仮想現実やアバター同士のやり取りなどが日常としてありながら、ベトナムの蒸し暑さや甘すぎるコーヒー、データが直接送り込まれる感覚の気持ち悪さなどがリアルで、この世界にあっという間に没入して、酔える。

    黒川さんの本当の肉体が超絶美少女とか、しょうもないサービスもなく、どこまでもクールでストイック。
    何より、作中の人物がそれぞれに魅力的…人間的と言い換えても良いのか?拡張現実を通して、外見も感情表現も補正してアバター同士で接していても、気持ちのいい相手だと感じたり、お互いを信じ合える、その感性が瑞々しいことに驚く。

    いま、パソコン通信時代から、まだ崩壊していない〈インターネット〉で、一応顔を合わせてオンライン会議がやれる時代まできた。
    それでもまだ、文字を通して感じていた印象とリアルな人物とのギャップが酷かったり、対応スピードの要求に消耗したり、AIに書かせた文章はどうなんだとか、口コミが信用できるのかとか、そんなところにいるんだけれど…
    もう少し未来の、すぐそこには、こんな未来があるのかも。
    ラストで、革新的な技術を封じ込めてコントロールしようとせず、オープンにして未来を目指そうという林田の決断も、SFの魅せてくれる希望だろう。

    まだ未読の作品があるのが嬉しい。楽しみ!

  • 近未来を描いた物語。
    単語や背景の理解に最初時間がかかったものの、本当にありそうな話しで一気に読むことができた。
    よくある?遺伝子を組み替えるのではなく、遺伝子すべてを人工的に作りそれが生命として誕生する、なんてできるのか?と読み終わった後考えてしまいました。すごくおもしろかったです。

  • ソフトウェア×遺伝子工学の近未来を描いた作品。ミステリー仕立てで最後まで飽きずにハラハラ読めた。ツールのインターフェースや、コードの書き方でauthorの技術力がわかるなどエンジニアあるあるみたいなネタも散りばめられていた。メッセージとしては、テクノロジーの急速な発達に対する人々の見方の正しい姿を描いている。MR技術を身体改造によって受け入れられている社会の実現性に関しては疑問を抱いた。

  • 将来は、この本のように完全人工な動物や植物ができると思います。

    人間は一つの遺伝子が欠落、もしくは異常を持っているだけで、完治が難しい病を患ってしまう、か弱い生き物です。
    だからこそ、希望を持ち技術と向き合う必要があります。

    私の頭が悪いせいですが、設定に入り込むのに少し時間がかかってしまいました・・・

  • 個人的に大好きなジャンル。農学と生物学(遺伝子工学)と、プログラミングが合わさった話。
    ジーンマッパーとして、遺伝子をプログラミングすることを生業とするフリーランスの主人公と、遺伝子組み換えではなく、遺伝子からプログラミングされて作りだされた植物の話。
    何故か、緑の革命を思い出しました。多分作物の名前の所為です。

  • インターネット崩壊後の別のネットワーク時代の人工生物を題材にしたお話。たいへん面白く楽しめました。社会的インフラとして語られる拡張現実が興味深い。その技術で身体制御をやるというのが良いです。

  • お気に入りの本屋で購入。
    仮想現実を使ってるときの描写がカッコイイ。出てくる人物がカッコイイ。黒川さん可愛い。
    IT系もかじってると読みやすくて面白い。
    終わり方がスパッとしていて良かった。爽快な話。

  • 2013/7/7読了。
    セルフパブリッシング版よりも小説としての完成度が高くなっている。登場人物の姿を読者に伝える描写が豊かになり、セルフ版では急ぎ過ぎてやや稚拙な印象だったクライマックスが自然な場面になった。同じ本を二度買った、同じ話を二度読んだという後悔をまったくさせない改稿だ。

  • Gene Mapper
    知人に紹介してもらって、SF好きにはもってこいとのことで、Kindleで読んでみた。どうやらセルフパブリッシングで反響を呼んだ作品を書店が編集し直したもののようである。

    舞台は近未来。
    概要を引用しよう。
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    拡張現実が広く社会に浸透し、フルスクラッチで遺伝子設計された蒸留作物が食卓の主役である近未来。遺伝子デザイナーの林田は、L&B社のエージェント黒川から自分が遺伝子設計した稲が遺伝子崩壊した可能性があるとの連絡を受け原因究明にあたる。ハッカーのキタムラの協力を得た林田は、黒川と共に稲の謎を追うためホーチミンを目指すが‥
    --------------------------------------------------------------------------------------

    最近ではGoogle Glassも出て、拡張現実はまずますメガネ型のものであることが具現化されて来ているが、本書ではさらに網膜に近いコンタクト型のAR世界が描かれている。構想自体はすでにあるので、珍しくはないが、その描写に舌を巻いた。

    また、本書はバイオインフォマティクスの内容を多く取り入れていることも興味深い。あまり馴染みはないのかもしれないが、1サンプル200GBの遺伝子構造を持つという内容が出てくるのだが、これは非常に興味深いところである。
    マイクロアレイだと容量的にはどうなのだろう。バイト演算で試算してみようか。
    アバターに関する記述も興味深い。

    プログラムにおける浄化作用設計の組み込みという、あまり意識したことのない点も興味深い。基本、ゴーイングコンサーンな視点で設計される事も多いので、自立型のプログラムもといAIには必要な視点であるかもしれない。

    物語も総じてスリリングに進行するし、SF好きにはホントにもってこいな内容であると言える。
    こういう作品、もっとたくさん読みたい。
    ★5つ!ハヤカワさん、次もよろしくです。

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著者プロフィール

藤井大洋:1971年鹿児島県奄美大島生まれ。小説家、SF作家。国際基督教大学中退。第18代日本SF作家クラブ会長。同クラブの社団法人化を牽引、SF振興に役立つ事業の実現に燃える。処女作『Gene Mapper』をセルフパブリッシングし、注目を集める。その後、早川書房より代表作『Gene Mapper -full build-』『オービタル・クラウド』(日本SF大賞受賞)等を出版。

「2019年 『AIが書いた小説は面白い?』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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