- Amazon.co.jp ・本 (432ページ)
- / ISBN・EAN: 9784150311971
作品紹介・あらすじ
ライダーレースの衝撃の顛末を描く表題作他、問題作「獣舎のスキャット」など全8篇。華麗なる狂気の世界に浸る奇想犯罪短篇集!
感想・レビュー・書評
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個人的にかなりレベルの高い短編集。
ジュブナイルの悪意・犯罪にフォーカスした不条理系短編集だが、舞台装置やオチまでのトリックが鮮やかで非常に楽しめる。
『アルカディアの夏』と『獣舎のスキャット』は特に印象深く、作者の初期の良い所がギュッと詰まり、いいとこ取りな1冊では。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
す、すごい。去年は皆川さんにハマって色々読んだけれど、こんなに毒のある作品も書けるんだ…。皆川さんらしい華麗で耽美な世界観なんだけど、底知れない闇が広がっている。
表題作のトマトゲームは、ラストにむけて物語が急降下していく様にゾッとした。
登場人物たちがみんな狂っている。少年少女の若さゆえの狂気、過去の傷が膿み広がって産まれた狂気、さまざまな狂気がある。しかし獣舎のスキャットと蜜の犬はやばすぎでは…
かなりグロテスクでショッキングな話もあるので、楽しく読める本ではない。だが、ここまでの狂気を読める本も中々ないのではないだろうか。 -
面白かったです。
いつもより毒が濃かった気がします。
「蜜の犬」「アイデースの館」が好きです。
老若男女、闇に呑み込まれていく…いつから狂っているのか。
皆川さんの幻は甘美なものも感じることも多かったのですが、この作品集ではゾッとするものもありました。
「遠い炎」と「花冠と氷の剣」のラスト一行、冷水を浴びせられた感じがしました。怖い。
でもやっぱり皆川さんの世界は辞められません…虜です。 -
皆川さんの、1973~76年ごろの作品を収めた短篇集。
読みたくて読みたくて買って、でも、すぐに読むわけじゃなくて、積読というのとも違って、「私の準備が整うまで、待っていて欲しい。その背表紙を毎日眺めて、どっぷり浸かれるようになる日を待っていて欲しい」本の、待機場所というのがある。
そこで半年眠っていてもらった、「トマト・ゲーム」である。
半年間、何度も手に取り、表紙をうっとりと眺め、ブックカバーをかけようとして、「でも、まだだ…」と感じ、本棚に戻した。
やっと、皆川さんの世界にずぶりと沈みきる準備ができました。
『いつか華麗な狂気の世界を、文字の上にもあらわしたいと、一枚、二枚、と書きつづけています。』(p.431、受賞コメントより。皆川さんの言葉。)
不安と恐怖は、狂気と仲良しだ。
いつの時代も、きっとそれらは仲良しなんだろう。
全然違う時代の、全く知らない少年少女の、恐怖や不安や焦燥や憎悪を、しかし私は知っていると思った。
登場人物たちを、身近に感じてしまう。
その身近さに同族嫌悪を感じる、孤独さも。
心配ばかりが降り積もる、不安と恐怖とそれから憎悪に絡め取られたら、輪郭の曖昧な狂気の世界の靄が足元からたちこめる。
皆川さんがその怖ろしさを、『華麗に』描いてくれるから、孤独にならずにすむことができるのだと、感じた。
何の音楽もかけず、皆川さんの本とこんな時間を過ごせる。
今日は素敵な一日だった。
また「待機場所」に皆川さんの本を新しく追加しないといけない。 -
つい、小説を書くときに、きれいなものばかりを描写してしまうのだが、皆川博子に出会ってからは、嫌なものも小説として表現してもいいのだと気付いた。
本書は入手困難だった初期作品の短編集で、犯罪短編集と銘されている。
人間の欲、無邪気な破壊行動、罪悪感、その他諸々が一緒になって煮詰まったものがここにある。
特に最後の話は、受験戦争に追い詰められた青年たちの椅子取りゲームで、親近感が湧くとともに、すこし過去を思い出して胃が痛んだりもした。
最近ではもっぱらヨーロッパの時代小説がメインになっているが、こういう現代ものでもこの人は精巧な筆致で嫌になるほどの現実感を読者にもたらしてくれる。皆川博子の脳内には登場人物の数だけの人生の記憶がすべて記録されているのではないかとひそかに疑っている。 -
装丁の中川多理の、頬寄せ合う人形の画だけでもうやばみがすごい。
既読の短編もちらほら。
「トマト・ゲーム」
皆川博子初期作品といえば、バイクに狂う若人。
しかしこんなに陰湿なゲイが居座っているとは…。
どうしたって嫌なヤツってのはいるんだなあ…。
でもオチの後味の悪さは既に皆川博子だったな…。
「アルカディアの夏」
アルカディアとは、ギリシア語の”楽園”。
……こんなにも楽園に縁遠いテンションもないやろ…(暗鬱)
と思いますが、それも含めていつもの皆川博子の描く少女の闇!!!!!!!!!!!って感じだったな…。
「アイデースの館」
アイデースってハデスのことなんか…。
デスマスク、そんなに関係ない気が…???と思ったけど、その辺がハデスなのかも分からん。
ちょっと赤江瀑みてえなテンションだったな。
「花冠と氷の剣」
皆川博子作品とフェンシングの親和性の高さよ。
しかし、奇形を抱える男って性癖もご健在でなんか安心感すらあるな…。
その男に振り向かれない女、ってのも…。 -
未熟であやうい少年少女のヒリツキ感や性の揺らぎが生々しい。「トマト・ゲーム」では、ゲームに挑む少年たちの目線ではなく、そのまわりにいるフラフラした大人たちの目線で描かれていて、その大人たちも未熟さや不完全さを宿しているのが印象的。
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70年代の短編集。『悦楽園』で既読の「蜜の犬」がやっぱり優れてる。純粋な好奇心が狂気となる。ゾワゾワっとくる。
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桜の花弁を「小指の爪のような」と表現するのが強烈。忘れられない。
ふとパンドラを思い出した。