隷王戦記3 エルジャムカの神判 (ハヤカワ文庫JA JAモ 7-3)

著者 :
  • 早川書房
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本棚登録 : 67
感想 : 5
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  • Amazon.co.jp ・本 (480ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150315214

作品紹介・あらすじ

隷王カイエン率いる戰の民は、覇者エルジャムカが統べる牙の民との最終決戦へ。神々に見いだされた英雄たちの物語、ついに完結!

感想・レビュー・書評

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  • とっても面白かった。
    ただ、コンパクトにまとまっているため、この世界の壮大さのわりにあっさり感がある。全5巻、全7巻とかでこの世界を描いてくれればたくさん出てくる登場人物への深堀エピソードができて、物語にもっと厚みが出たんじゃないかなあと思う(エルジャムカやカイクバードのここに至るまでの過去エピソードもみたいし、作中時間でのいろんなキャラクターの絡みもみたかった!)。1巻から裏表紙のあらすじに「全3巻」と書かれていたので初めからきまっていたのだろうなぁ…残念。語るべきことを書いていないかというとそういうわけではなく、この物語に必要なことをわき道にそれず突っ走って行ったという感じなので、一読の価値はある。
    作者の森山光太郎さんがnoteでその後の世界の動きを年表形式で紹介してくれている。この年表に書かれていることで外伝も書けそう。3巻を読み終わった人はぜひこちらも。

    〈ここから微ネタバレ注意〉
    物語の結末は個人的には多少ご都合主義となっても大団円ハッピーエンドが好きなのだけど、2巻当たりから読んでいて薄々感じていたけれど、この物語の結末はまぁこうなっていくしかないよなぁ。心の中にちょっと悲しみが残るけど、この世界の人たちは希望を抱いて物語を紡いでいってほしい。

  •  非常に楽しく読んだし、手に汗握ったり、思わず瞠目するようなシーンも少なくなかった。結末もまた、大局を見ればハッピーエンドであると言えるだろう。大団円とは言い難いものの、そういう方向性になるだろうことは、当初から示唆されていた訳で。
     ただ、作品の出来不出来でなく、個人的な好みとして、ことの趨勢よりそこで生じる感情を重視する人間としては、運命を人の手に取り戻す犠牲になるのではなく、一人の人間として幸せになって欲しかったな、と思ってしまう(※)。多くの盟友を失って、戦いのよすがたるフランまで自分の手で殺して、果たしてカイエンが安穏と暮らしていけるのか、というと心理的な問題が山程出てくる気もするけれど、マイが側にいれば、なんとかなるんじゃないか、なって欲しかったなあ、とも。

     一方で、同じ理由でカイエンがフランを手にかけるところは、凄く良かった。相手の意思に反して、向けられる思いを踏みにじってでも、その相手を助けるために最善手だと信じる手段を取ろうとする、という構図・感情がそもそも好きで、今回は正しくそれに当てはまるように思う。それゆえに、これは一際心に残ったシーンだった。時折フランの様子が挟まれるごとに、彼女の意図が掴めないでいたが、この結末を踏まえて読み直すと、随分印象が変わってくるだろうな、という意味でも好きなシーン。
     また、それとは少し違った意味合いで、序盤は序盤で、大きな戦いに向けた束の間の休息・準備期間という趣があり、ややリラックスしたやりとりが多かったので、楽しく読めた。カイエンの料理に関するエピソードなんかは、彼らにもきちんと日常があるのだと言うことが感じられて良かった。その辺りは、まだ希望がちらついていて、それだけに不安を感じつつ読んだ。
     てっきり、本来であれば背教者をとりまとめなければ勝てない守護者の王に対し、仲間とともに立ち向かい、運命を打ち砕く、というような筋書きを想像していただけに、カイクバートの子どもたちに起きた出来事には、衝撃を受けた。これまで、本来対決を宿命づけられているはずのキャラクターと友誼を結んできたカイエンだから、きっと最小限の犠牲でエルジャムカを打倒することもできるはずだ、と思っていたけれど、結局そこまでは大きな力に逆らいえなかった、ということなんだろうか。ただ、この犠牲があるから、フランの最期もある訳で、好きな部分も悲しい部分もある筋立てだったし、そう思えるくらい、キャラクターに魅力を感じていた、ということだと言えるかも知れない。

     最期に、大まかな感想としては、直接的には関わってこなくても、史実を踏まえたような描写にニヤッとしたことは数知れないし、迷いながらも戦いに身を投じるアルディエルや、隷王の名を受けるシーン、その名に恥じぬよう振る舞うシーンなど、胸の熱くなった箇所も沢山あった。大団円であるかどうか、ということ自体は作品の良し悪しとは分けて考えているけれど、この物語に関してはそれを期待してしまっていたので、少し残念なところはあるかも知れない。それでも久々に毎巻発売を楽しみにする、という体験ができた作品だったし、面白かった。出会えたのは、風間雷太先生の表紙のお陰です、ありがとう。


    ※感想を書くに当たって、エルジャムカとカイエンの最後を読み返してみたけれど、感情に焦点を当てたとすればなおさら、結構ちゃんとハッピーエンドのような気もして来た。人々を救いたいというカイエンの思いも、神から人の運命を解き放ちたいというエルジャムカの思いも叶えられる手段だということは分かっていたけれど、改めて、カイエンと永遠に一緒にいたい、というフランの願いも叶っていることを考慮すると、ある意味ちゃんと結ばれたとも取ることができる訳で...難しい。

    また、著者が公開しているnoteは、読むと読まないとで大きく感じ方が変わってくるかも知れない。
    https://note.com/kotaromoriyama/n/n56f624c99d50

  • 20221002

  • 図書館で。
    三部作の最終巻。個人的にはホント、表紙の見返しのところに登場人物一覧が欲しかった。横文字名前、覚えるの難しい…

    色々要素がてんこもりなので、正直に言えばもう少し巻数が欲しい気もする。けれども政治や戦闘シーンが増えると中だるみもするのでこの巻数でまとめてくれたから読み切れた感もあるような。個人的には壊す力と守る力の辺りは別にいらなかったんじゃないかな~と思ったり。能力者多いけどそれほど能力を生かしきれずに戦闘が終わった感もあるので。

    なんだかずっと貧乏くじ引いていたフランの守役が可哀想だったな~と同情してしまいました。

  • 森山光太郎初読。全3巻完結。ある世界で、東方世界(オリエント)・世界の中央(セントロ)・西方世界(オクシデント)でそれぞれ複数の国があるが、あるとき東の覇者(ハーン)で牙の民を統べるエルジャムカが東を統一し、余勢をかって、中央に攻め込まんとする。滅ぼされた草原の民の生き残り、アルディエル・オルグゥ、カイエン・フルースィーヤ、フラン・シャールはそれぞれの思いを秘めて、生き抜いていく。主人公はカイエン。エルジャムカとの戦いに敗れたのち、絶望のまま軍人奴隷として売られ、そこからマイ・バアルベクという娘と出会うことにより、希望を取り戻していく。そしてマイと共に世界を糾合し、エルジャムカに対抗しようとする。ベタなファンタジーで、ご都合主義の展開といえばそうなのだが、どうなっていくのか楽しみで、どんどん読み進めていくことになる。

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著者プロフィール

1991年熊本県生まれ。立命館大学法学部卒業。2018年『火神子』で史上最年少にて第10回朝日時代小説大賞を受賞。2019年同作でデビュー。壮大な物語を紡ぐ新鋭。ほかの作品に『漆黒の狼と白亜の姫騎士 英雄讃歌1』『卑弥呼とよばれた少女』『隷王戦記1: フルースィーヤの血盟』。

「2021年 『王都の死神と光を秘めた少女 イスカンダル王国物語2』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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