- Amazon.co.jp ・本 (384ページ)
- / ISBN・EAN: 9784150315559
作品紹介・あらすじ
月と火星開発が進みながらWindows2021が発売されたばかりの夏紀の宇宙。そして登志夫の2021年では光量子コンピュータが異常を示す。
感想・レビュー・書評
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グラーフ・ツェッペリンは20世紀初めに実在した飛行船。テーマは並行世界と呼ばれる別々の世界。映画マトリクスや、TENETを好きな人にはフィットするかも。時間が絡んだかなりのSF。
高校生・夏紀の宇宙は月と火星開発が進みながらも、インターネットが実用化されたばかりで、ワープロ専用機が残る2021年。登志夫は、宇宙開発は発展途上だが量子コンピュータの開発・運用が実現している2021年を過ごしている。並行世界と呼ばれる概念で、物理学でも議論されていて、時間が過去から未来へ流れてゆく性質のものではない可能性もあるとか。
二人とも、幼い頃に飛行船「グラーフ・ツェッペリン号」を一緒に眺めたことがある、と覚えている。それぞれの世界で、少しずつ異変が生じていて、終盤では二人があるところを介して接触する。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
高野史緒の作品は初めて読んだ。他の本として「混ぜるな危険」は所有しているもののまだ読んでいない。これまでもいくつかの作品が上位にランクインしていたが、この度ベストSF2023国内篇でめでたく第1位を受賞された。おめでとうございます。その様な評判もあり早速購入して読んだ。
裏表紙のあらすじやSFが読みたい2024年度版の書評を頭に入れて読み進めた。すぐにでも今流行りのSFアニメ映画になりそうな予感がする。話の設定・構成も申し分ない。本の表紙を見るといい感じの青春SFで、特定の地域が脚光を浴びる等、話題性も十分に獲得できるだろう。もしかしたら私の知らない所で既にその様な話が進んでいて、数年後には新海誠監督で公開され、日本アカデミー賞を受賞するかもしれない。
半分くらい読んだところで、ふと考える。話がなかなか広がって行かない。文調の変化が乏しく、初期設定とあまり変わらないやや単調な展開が続く。この雰囲気は全体の3/4まで続く。そして急な展開が訪れ、いきなりハードSFモードに突入する。結末は、ありがちなパラレルワールドの融合。しかも、女子の方の世界が吸収されるだなんて、男性の作家がこの様な結末を選んだら、もう世間から叩かれまくるだろう。結果的には全体の構成が少々バランスに欠けており、映像や演出サイドでかなり作り込まないとアニメ化の際にはなかなかしんどいと思われる。
大森望・日下三蔵・藤井大洋・林譲治の後押しが大きいということは今後も素晴らしい作品が出てきて高評価を得る可能性は高い。多分今回の作品が1位に選ばれたのはその様な要素があるからなのだろう。私は1位でない作品の方を評価している。これは私の個人的な見解であり、いつの日か蔵書の「混ぜるな危険」も読む日がきっと来ると思うが、それまでにはかなり長い年月が必要だ。 -
高野史緒「グラーフ・ツェッペリン あの夏の飛行船」読了。土浦が舞台の青春SF。3年ほど土浦の近隣で暮らした事があったので、当時の情景が思い出され懐かしかった。多元宇宙をモチーフにしたSFならではのストーリー展開が素晴らしかった。さらに随所の伏線が最後見事に回収されとても切なく感動した。
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青春小説でSF。「SFが読みたい! 2024年度版」ベストSF2023国内編第1位の作品。
以前から読みたいと思っていたのだが、なぜか踏ん切り(?)がつかずズルズルと積読状態だった。パラレルワールド物で、しかもガールミーツボーイ物だ。夏紀と登志夫、やはりラストは切ない。
そのうちアニメになりそうな気がする。 -
まさかの、茨城県土浦SF。
のっけから、知った地名がバンバン出て来てビビったが、著者がここの出身らしい。
表紙の感じから、「君の名は」かよと思ってしまったが、まあ、そんな感じかもしれない。
今、日本のSFってこんな感じなの?
科学の最先端ワンアイデアと、設定がそのまま構成になって作品になるみたいな。
ちょっと甘酸っぱい青春の、なんつか、高校文学部的な。
あとは作者の文章家としての技能と、編集者の腕?
結果として思ったより悪くないと思ったのも事実だが、最悪なのが、おそらく、作品のキモになる幻想的な展開と、量子論の裸の説明。
ここがもっと上手く処理出来ていれば、もっと素直に楽しめたような気がする。
一番気になったのは、「竜ヶ崎」だなあ。
地名としては正確には「龍ケ崎」なので、土浦市民からしてもそんなものかとちょっとショック。 -
さらっと読める青春SF……なんだけど、エンタメではない。エンタメの皮被った私小説、純文学寄りだ。後書きまで読むと、より尚更。
二つ別々の世界を生きる女の子と男の子。グラーフ・ツェッペリン号を中心に、茨城は土浦を舞台に繰り広げられるひと夏。ハードSFでも、単なる青春SFともエンタメとも違う、この独特な詠み終えた後の気持ちを、ぼくは大切にしたい。