24人のビリー・ミリガン〔新版〕 下 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)
- 早川書房 (2015年5月8日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (435ページ)
- / ISBN・EAN: 9784150504311
作品紹介・あらすじ
ビリーの中には実に24もの人格が潜んでいた。性格、知能、年齢、国籍、性別さえ異なるこれらの人格はいかにして生まれたのか。「基本人格」のビリーは一貫した意識を保てない不安定な状態に苦しみ、何度も自殺を試みる。やがて治療により回復のきざしが見え始めるが、世間の好奇の目や反発にさらされ、劣悪な環境の施設に移される可能性が出てくる…。多重人格の世界を通して、人間の心とは何かを問いかける衝撃の実話。
感想・レビュー・書評
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多重人格者が出てくるドラマをずっと以前に見たことがあるし、そういうことが実際にあることは知っていても、読みながらやはりとても驚きました。
特に人格が入れ替わったり人格同士がやりとりしたりする場面の描写のリアルさがすごい。それをしっかりと認識して医師や「作家」など周囲に伝えられた本人(の中の複数の人格たち)の知力や表現力には目をみはるものがあります。
事件を起こし、あらゆる施設を転々とさせられる(もしくは閉じ込められる)、ビリーや、ビリーを支える人たちの姿を、読者はおそらく完全に彼らの側から捉えるでしょう。でも、多重人格そのものが知られていなくて、詐病だと誰もが思うような状況では、私もおそらく「あんな事件を起こした犯人を施設の外に出すな」と思ってしまうだろうな、と感じました。
理解されないことの辛さや悔しさは想像を絶するものがあったでしょう。
大事なエピソードを読み飛ばしていそうだし、時系列が曖昧になっていたりもしそうで、一度で理解するのは私には難しかったかもしれません。
またいつか読み返します。
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下巻に関しては、恐らく書きたい事例が多すぎ、かえって消化不良を起こしているように感じられる。ノンフィクションであるので、客観的な事実を列記するというよりは、内面の描写が多く途中から創作なのか良くわからなくなった。
問題は多重人格者をどう更生させるかももちろんながら、幼い頃の虐待・暴力がその人格形成の大きな影響をきたすことを社会がよく理解したうえで、コミュニケーションをとっていかないといけないのだろうと感じる。 -
24人もの人間をビリーとして人格を統合していくことの、なんと難しいことか。
イギリスアクセントの英語、ボストン訛り、オーストラリアの英語、セルボ・クロアチア語を読み、物理・科学・医学・電気・武器に詳しく、絵など‥多才の才能をもち合わせ、それがバラバラの人間の中では発揮できても、統合していくにつれて、その能力が薄められていく不思議さ。
自分の知らない自分を引き出す、俳優・女優のような職業もある様に、本当の自分を分かっていないのかも知れない。
行った事のない、住んだことのない地域の言語まで習得できてしまったその能力とは、心の傷とは裏腹に、その異常にまで発達したその能力に、現代だったら、また違った評価が出てきたのだろうと思う。 -
さて、読了。
上巻と違い★3なのは、前半若干冗長だったから。
ダニエル・キイスがこの本を執筆した動機は、ビリー・ミリガンが望んだからであり、おそらくは、キイス自身も世間に伝えるべきだ、と考えたから。
それを考えると、その冗長さは必要なものなのだろう。
私はと言えば、一読者として読むだけなので、このずれは致し方ないのだと思う。
問題の最中にいる生きている人間についての本のため、読み終わっても、”終わった”という安堵感はない。続編もあるので、気になる人は手に取れば良いと思う。
私はおそらく読まないが。
なぜなら、ある時代の(あるいは現在もそうなのかもしれないが)精神疾患への偏見や公然と行われる人権侵害は十分わかったし、ドキュメンタリーであるが故に、続きにすっきりするハッピーエンドが待っているとは思えないからだ。
同じもやもやが続き、もしかすると何か救いはあるのかもしれないが、それは情報として知ることができるレベルのもので、読み物としてのドラマティックな展開はおそらくない。
しかしながら人間というのはいつになったら大人になるのだろう。
罪を犯した人間は迫害しても良いのか。
レイプ犯は正義の名のもとに殺すことは正当化されるのか。
精神疾患を持った人間は人間扱いされなくても当然なのか。
罪悪感を全く感じずに、寧ろ自分は正しいことをしているのだと信じて、他人を迫害することができる人間がいることに驚く。
ビリーは罪を犯したが、罪を償なわなければならないことは人間扱いされない理由にはならない。
そういう意味では、世界が抱える様々な問題の一端を示す意味で、本書は有益だと思う。 -
主人公はレイプ犯として逮捕されるが、自分は多重人格だという訴えは無罪になるための演技ではなく、彼も壮絶な過去を大変な思いで乗りこえてきた人だった。当事者と家族、彼を信じる治療者と疑う治療者、社会の人々の気持ちの揺れが、痛いほど伝わってくる本。
個人的には、本に一瞬出てくる作業療法士が、彼個人としっかり向き合い寄り添う援助者として描かれてるのが、嬉しかった。 -
大学生のときになぜかハマった