悪魔のような女 (ハヤカワ・ミステリ文庫 ホ 8-3)

  • 早川書房
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感想 : 6
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  • Amazon.co.jp ・本 (250ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150717032

感想・レビュー・書評

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  • 真っ先に考えるべき可能性を検討せず、ひたすらオカルト的妄想に突き進んでいく主人公の男に、どうなんだ、そうじゃないだろ、とツッコミたくなる
    ストレスMAXで理性的な判断力が失われていたのかな
    結末が先読みできるから、緻密な心理描写によるサスペンスも、読者の胸には迫ってこないんだよね

  • 1952年発表作。数度の映画化もあり、ボアロー/ナルスジャック合作の中で最も読まれている作品と言っていい。サスペンス小説の模範ともなる構成で、次第に追い詰められていく人間の心理描写は流石の筆致だ。登場人物を必要最低限まで絞り込み、緊張感が途切れることを防いでいる。フランスならではのノワール的な雰囲気も濃厚で、配役として欠かせない悪女、翻弄される脆弱な男、一切役に立たない第三者の不甲斐なさなど、基本をきっちりと押さえている。

    平凡なサラリーマン、ラヴィネルは愛人の医師リュシエーヌと共謀して保険金殺人を計画する。営業出張先の宿泊所へと妻ミレイユを誘い込んだ二人は、睡眠薬で眠らせたミレイユを風呂桶に沈めて殺害。その2日後、死体を運んで自宅前の洗濯場から川に落とす。翌日早朝に仕事から帰ったラヴィネルが、妻の遺体を発見するという段取りだった。男はアリバイ工作を為した上で予定通り帰宅する。だが、水路の途中で引っ掛かっていたはずのミレイユの死体は跡形もなく消えていた。やがて、見間違いようのない妻の筆跡でメッセージが届き始める。ミレイユの兄夫婦を訪ねたラヴィネルは、先刻まで妹が顔を見せていたと告げられた。やはり、妻は生きているのか。幾度も打ちのめされた男は、次第に現実と妄想との境目を行き来するようになる。

    物語は、勧善懲悪で終わらない痛烈なツイストを利かせたラスト一行で、「悪魔のような女」が誰なのかを指し示す。自壊していく殺人者の意識の流れを綴ることは相当の技倆がいるのだが、多少荒削りではありながらもリアリティを持たせたまま仕上げている。

  • フェルナン・ラヴィネルは愛人の医師リュシエーヌ・モガールと共に妻のミレイユを殺害した。二百万フランの保険金を得るため、契約から二年待ってからの反抗だった。偽の暴露話で出張先に誘い込み、睡眠薬で眠らせて浴槽に沈めて水死させた。反抗は主に医師であるリュシエーヌが主体となって行われ、フェルナンは最後の瞬間には怯えてしまっていた。

    二日後に再びあったフェルナンとリュシエーヌはミレイユの死体を引き上げテントにくるんで車に載せ、フェルナンの自宅の裏庭にある小川に落とした。

    翌日出張先から帰ってきたように偽装したフェルナンは見つかるはずの死体がなくなっていることに衝撃を受けた。そして死後に書かれたとしか思われないミレイユから手紙を受け取った。徐々に精神を蝕まれた彼はミレイユが幽霊となって自分に会いに来ると考えるようになる。

    フェルナンは自宅に戻り酒を飲んで眠ってしまった。物音に目が覚めると、ミレイユのものだとわかる物音が聞こえてきた。足跡が階段を登り寝室の前で止まった。ドアのノブが回った時、フェルナンはピストルを口にくわえ引き金を引いた。

    ミレイユは死んでいなかった。リュシエーヌと共謀してフェルナンを精神的に追いつめ、フェルナンに掛けられた二百万フランの保険金をだまし取る計画だった。水に濡れたままテントに巻かれていたため、ミレイユは体調を崩した。ミレイユはリュシエーヌに聞いた。「ねえ!私どうしたってあなたを信用しないわけには行かなかったわ・・・だって、最後まで、あなたは、私でもラヴィネルでも、どっちでも思うとおりに選べる立場にあったんですもの」リュシエーヌは答えた。「あなた、私が迷わずに選んだと思ってるの?」

  • 二人の作家がコンビを組んで書いた合作。
    作品が発表されたのは1952年。
    古典的サスペンスであります。
    成程やっぱりね~という結末なんだけど、
    冷酷非情と思われた人物の、
    人間味のある最後の台詞がググッと来ました。
    因みに私が購入したのは96年に出た版。
    全然記憶に残ってないんですが、その頃、
    シャロン・ストーン&イザベル・アジャーニなんていう
    豪華キャストで映画化されていた模様。
    リメイクですけどね。
    最初に映像化したのはアンリ・ジョルジュ・クルーゾー監督で、
    54年に『悪魔のような女たち』というタイトルで
    発表されてました。
    原作と映画では「騙される人物」が異なるようですが……
    映画観てないから何とも言えない(^_^;)。

  • <死者と生者の垣根のなさ>


     とても幻想的。冷たい濃霧が一帯にたちこめているような空気感が印象的です。それも、その濃い霧から、死者のつけていたオーデコロンがしっとりと匂ってくるようなイメージ……。エレガントな書きぶりが、逆に気味が悪い☆

     自分が殺した妻を探し回って、かえって意識を霧のなかに迷わせていく男の姿が、湿って冷たい空気のなか、順を追って描きだされています。

     もとから確固とした自分というものを持てない、ふらふら男のラヴィネルは、対称的にどこまでも理知的な女リュシエーヌと不倫の仲に。
     そこで、リュシエーヌと組んで、妻ミレイユを殺害したはずだったのです、が、その後、死んだはずのミレイユから連絡が来るなど、数々の怪奇現象(?)がーー

     おそらくラヴィネルは、自分でもそうと気づかずに、自身が状況を納得するためのロジックを組み立てたのじゃないでしょうか? この、気が狂いそうな事態を何とかのみこもうとした結果として……、こう思いこんでいきます。
     死者と生者でも会えるのだ、と★

     そして、ここが絶対おかしいんだけど、こんな事態になったにもかかわらず、ミレイユを変わらず愛しているらしいラヴィエルさんなのです。殺人犯はあなたなんですけどね……!?

    「アタマのゆるい人……?」と思ってしまいますが、彼の死者と生者とについての考察部分は、相当破綻した論理だとしても、存外印象深かったです。生前と死後の垣根を飛びこえてしまったラヴィエル論(?)、意外と読ませます★
     また、その表現からはボアローとナルスジャックの、文学的な才気が香ってくるのです☆ こういっては何だけれども、ミステリのレッテルを貼るのがもったいないような気がします。

     濃霧のなかではとらえきれなかった、事件の全体像がようやくつかめるのは、ラストの台詞一つになってから。そのひとことに集約しきった著者たちの巧みさ! 見事というほかありません。

  • あまりドキドキしなかった。

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