哀れなるものたち (ハヤカワepi文庫 ク 7-1 epi111)
- 早川書房 (2023年9月26日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (560ページ)
- / ISBN・EAN: 9784151201110
作品紹介・あらすじ
19世紀後半、天才医師と、奇怪な手術で蘇生された女がいた。そう記された古書に魅せられた作家はある行動に出る。映画化原作
感想・レビュー・書評
-
詳細をみるコメント0件をすべて表示
-
著者、アラスター・グレイが偶然手に入れた医学博士、ヴィクトリア・マッキャンドルスによる一連の書類をグレイが編集し直したもの、という体で綴られるメタフィクション。
ヴィクトリアの夫、アーチボールド・マッキャンドルスが発行した書籍がベースになっている。
この書籍は完全にアーチボールドの視点で描かれており、件のヴィクトリアは、自殺したうら若き美しい女性ブレシントン夫人の肉体に、彼女が身ごもっていた胎児の脳を移植したいわゆるフランケンシュタイン的に生み出された女性であり、いかにアーチボールドが彼女に惹かれそして人生を共にしたかについて綴られている。
内容は胎児の脳を移植されたヴィクトリアが逃げ出して世界を駆け巡る中で圧倒的な成長を果たしていくという様を、あたかも「アルジャーノンに花束を」のパロディのような感じで綴っているものであり、確かに面白いものではあるが、SFとしては「ふーんなるほど」という感じ。
この小説が面白いのは、ただ単にそれで終わらず、このアーチボールドの書籍に対し、当事者であるヴィクトリアの手記が添えられていること。
この手記はヴィクトリアの視点で綴られており、これを読む中で、どちらの主張が正しいのかがさっぱりわからなくなる。
その答えがどうなるのかは実際に読んでもらって体験して欲しいが、これはなかなか見事に考えさせられる構成となっている。
冗長かなーって思う部分も結構あったけど、500ページ強、ボリュームを感じさせず楽しませてもらった。
いいSFだったと思う。 -
映画を公開日に見て、非常に面白いと感じたので、原作を手に取ってみました。
映画でも扱われたシーンは頭の中で想像しやすくより楽しく読めました。
ヴィクトリアの手紙によって、映画で扱われた大部分を否定しているためどっちが真実なのかは分かりませんが、それもまた物語の深みも増して良いと思いました。
個人的には映画よりも、原作の方が哀れなるものたちというタイトルがとてもしっくり来ました。
訳者さんが、哀れなという訳を多様して下さっているので、心に引っかかる部分は多いと思います。
ぜひ、映画と原作合わせて見てほしいです。多くの時間、この作品に触れられて幸せです。 -
まず気づくのが、本はベラを「観察対象」として描いていたこと。つまり、ベラは最初から最後まで客体だった。
無論映画でも「私は..」というナレーションが入るわけではないので、ベラが主体とは言い切れない。言っても、三人称体だったということになる。
しかし、小説は完全にベラの周りの創造主である男たちの一人称であるところに矜持があるらしい。フランケンシュタインというタイトルの小説が、怪物でなく実は博士のことを指し、創造主たる博士の主観体であったのと似ている。
この小説の体裁からは、女が社会的に1人の人間になる過程を描く作品に仕上がる気配はない。
映画版が2020年代の今日に作られ、またそれに相応しいストーリーの転換を行なっていたことを突きつけられて感服した。 -
先に映画観て大正解だった、エマ・ストーンさんが演じたベラを思い出しながら読むともう楽しすぎて楽しすぎて。
長いと思った533ページ、読み終えるのが惜しいと思うほど。面白かった……。
アラスターグレイさん自ら描いた挿絵もあったり、註釈、写真、などもあり、なかなか凝ってる本になってると思いました。3枚目のカバーの絵もアラスターグレイさんが描いたものらしい。
2枚目のあらすじの通り、ある医者が自殺した妊婦(ベラ)に、そのお腹の中にいた赤ちゃんの脳を移植し、蘇生させた。
その女性は体が大人なのに脳が赤ちゃんという状態で第2の人生が始まり…とてもはやいスピードで成長していくベラ。
本当に楽しくて面白かった、それだけではなく、色々考えさせられたこともあり、自分も成長を止めることなく色々吸収したいと思いました。
この本も映画も面白かったのでオススメです。
こんなに楽しい!と思う読書は久しぶりかも。 -
映画が面白かったので原作小説を読みました。電子で買うか迷ったけど構成が凝ってるという評判を見たので紙の本にしました。
フォントや註釈、2段組になったり横書きになったり手書きになったりなど、原作でもさぞかし凝っている作品なのだろうと思える工夫が面白い。聖書の引用の箇所では聖書みたいに2段組になったので笑ってしまった。ダンカン・ウェダーバーン!wそして手書きの荒々しいタッチの迫力もすごい。ギリギリ読めるような文字で書かれていて、読んで意味が分かっててゾワッとした。
ベラが自分の自由意志を強く主張して生きていく様子は活力に溢れており、とても可愛らしくて素敵。男性が女性を支配するのが当たり前のことであった社会において(そして現代でもそう変わらない感覚の人も多くいる)、ベラにフラットな物の見方を教え、知識を授けたゴッドは偉大だ。そして自分は女性を所有できると信じて疑わない、そうすることが当たり前だと思っている男性たちの姿が、ベラの前では滑稽に見える。
同じ時間軸の出来事について、ダンカン、マッキャンドルス、ベラの3人の視点から語られているのも面白い。特に最後のベラの手記が入ることによって印象が変わった。とはいえ、やっぱり本作で語られる大半の内容が、著者もたくさんの註釈を書いて説明してくれている「真実」なんじゃないだろうか。
-
映画を見たので読んでみました。ベラの手紙があるので印象がだいぶ変わりました。
-
カテゴリが正しいか不明、映画を見た後に読了。
文章や、文字の大きさ、もちろん文脈等、赤子が数年で成人女性となる経過を書ききっていて、思わず感嘆した。
不思議な小説、いや小説とも言えないかも。でも癖になります。翻訳がうまいせいか、とても読みやすいです。
翻訳じゃなく原語で読めたらなぁ・・・と痛感した本でした。 -
この話を私がどう捉えるか、ということからもう既に自分自身で決める自由があることを体験できる。
-
映画が衝撃的な面白さだったから原作を読んでみた。
ストーリーは概ね映画と変わりないけれど、"実在の人物が昔自費出版した本とその妻のメモを作者がまとめた"という体裁を取っているのが独特。映画には無かった最後の仕掛けによって、原作でも脳がクラクラする経験ができる。
序文や注釈によってフィクションをあたかも実際に起きた事のように思わせる作りなのに、最後にそれがひっくり返される。今までの作者の努力とは真逆の仕掛けのように思えるのだけど、「どっちが真実?」と混乱しているうちに、「どちらかが真実のはず」という思考になっていて、まんまと作者の術中にハマっていることに気付く。
ただ、映画を先に観てしまっていると完全にフィクションとして読んでしまうのがちょっと勿体なかったかな。