- Amazon.co.jp ・本 (559ページ)
- / ISBN・EAN: 9784151300776
感想・レビュー・書評
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ノンシリーズ(メアリ・ウェストマコット編)。
想像力が豊かで内気なシーリアは、優しい母親・ミリアムや、周囲の人々に温かく見守られて不自由のない少女時代を過ごします。
やがて、美しく成長したシーリアは、穏やかで堅実なピーターと婚約していたのにも関わらず、突如現れたダーモットから猛アプローチを受けるうちに、彼に惹かれていき・・。
本書はメアリ・ウェストマコット名義で描かれたロマンス小説(ミステリでない方のクリスティー)シリーズの一つで、クリスティーの自伝的な内容といわれているようですね。
冒頭では、とある肖像画家が、今にも自殺してしまいそうな女性(シーリア)と知り合い、その彼女から聞いた半生を“知人の作家・メアリー”に物語にしてほしいと依頼する、というところから入っていて、そこからシーリアの長い物語が幕を開けるという構成です。
シーリアの子ども時代にかなりのページが割かれていて、そこがちょっと冗長に思われがちですが、ここで彼女のバックボーンがしっかりと描かれていることによって、その後の展開におけるシーリアの価値観への理解に繋がるのかな・・と思いました。
そして、問題の(?)ダーモットが登場してからはもう危惧した通りの展開というか、無駄だとわかっていても、シーリアの母・ミリアムと同じような気持ちで“ダーモットはやめておけ!”と思いながら読みました。
ダーモットの“やめておけポイント”は無数にあるのですが、個人的に最も“コイツはアカン!”と思ったドン引きポイントは以下の場面です。
↓↓
ダーモット「・・約束してくれたまえ、いつまでも美しいままでいるって」(←は・・?)
シーリア「でも、もしあたしが美しくなくなっても、愛してくださるでしょう?」(←頑張れ、シーリア!)
ダーモット「そうはいかないよ。同じというわけにはね・・以下略」(←おいおい!お前もオッサンになるだろうが!そこは棚上げかい!)
・・と、このような身勝手なダーモットと夢見がちなシーリアとの結婚生活は、お互いが未熟だったということもあると思いますが、最初から危なっかしくて見てられない感じでした。
さらに、最高の理解者だった母・ミリアムの死で消沈していたところに、ダーモットから離婚を切り出されるというダブルパンチですっかり病んでしまったシーリアが痛々しくて、読んでてしんどかったです。
因みにこの辺りは、クリスティーの“失踪騒動”の原因となった事情とも重なりますよね。
そんな訳で、後半は結構しんどいシーリアの半生でしたが、クリスティーの巧みな人間描写で綴られているのもあって、なかなかの読み応えでございました。
あと、冒頭に登場した謎の肖像画家と、本文中に度々シーリアの妄想(?)に出てきた“切り株のような腕”という暗示が終盤で繋がってきたのもゾクっとさせられましたね。
ミステリとはまた違った味わいの、メアリ・ウェストマコット名義で描かれたロマンス小説(?)シリーズは、この作品の他に五作(全六作品)あるとのことなので、また追々読んでいきたいと思っております~。 -
これは私の人生。
母の死と夫の裏切りに心を閉ざすシーリアは、失踪事件を起こした著者の姿だと言われる。穏やかな婚約者を捨てて選んだダーモット。すれ違うシーリアとダーモット、産まれた娘はダーモットの性質を引き継いだ。孤独なシーリアが語る腕のない男の意味とは。
ぎくりとする場面も多く、読むのしんどいこともあった。内気、自意識、夢想、色々なところに自分と重なるところを見つけた。シーリアの不安を我が事のように感じた。
痛快な祖母グラニー。よき理解者の母ミリアム。自分ではなくダーモットの性質を受け継いだからこそ助けになる娘ジュディー。四世代に渡る女性の生き方を描いた作品とも読める。
シーリアが指摘された小説家としての視点は、クリスティーも同じことを言われたのだろうか。これがまったくのノンフィクションでない以上、どれだけこの作品に真実の姿を探しても、クリスティーの肖像はまだわからないままだ。 -
主人公シーリアの幼い時から結婚、離婚に至る経緯が書いてある。シーリアが自殺しそうな所に遭遇した若い肖像画家メアリーがその時シーリアから聞いたシーリアの話を活字にまとめた、という体裁をとっている。おだやかな性格の婚約者を振り、積極的で現実的なダーモットと結婚。夢見がちなシーリアと現実的なダーモット、読み終わるとそのずれが痛々しくこちらの心に沈着する。
離婚に至る夫婦とそうでない夫婦、どこでどう作用するのか、ひとつのケースを見せつけられる。前作「愛の旋律」の5人にもそれぞれクリスティの片鱗を見出したが、あちらは男女の大きなうねりが大河の流れのようにフィクションとして迫ってくる。が、こちらはクリスティの伝えられる事跡と同じなので、一人の女の心の無残な軌跡が露わになる。
この本で見る限り、ダーモットは自分本位な感じだが、その夫の性格を受け継いだ娘ともなかなか相容れない描写も見逃せない。クリスティの娘もそうだったのか。
シーリアの老母は最後まで父に愛された、とシーリアは思っていたが、若くして死んだ父も母に万全では無かった時期がある、と晩年の母に匂わせた描写がある
1934発表
2004.1.15発表 -
バルザックをもっと読んでいればよかった――
そんな歯ぎしりが聞こえてくる、
メアリ・ウェストマコットの私小説。
作者そっくりの主人公シーリアは独身時代、
母親からバルザックの写実小説を読むように
薦められる。
それは、結婚生活にあらかじめ幻滅しておくように
という親心だったが、夢見がちなシーリアは
気が進まなかった。
もし母の言に耳を傾けていたら――
情熱だけで結婚するべきではないと
悟っていたかもしれない。
後悔先に立たずのシーリア。
彼女は、これまた作者の最初の夫としか思えない
青年ダーモットと結婚するが、
心が離れてしまっていた。
要するに二谷友里恵の『愛される理由』と『盾』を
合本にしたような小説で、
ここではヒロミ・ゴーの薄っぺらさが糾弾されると共に
ユリエ・ニタニの業の深さもにじみ出てしまう。
この人は(あ、シーリアの方ね)
何人もの男性から求婚されたことを
当然のように思っているし、
そもそも自分が婚約者を捨ててダーモットに走ったのに
ダーモットが同じこと(浮気相手に乗り換え)をすると
自分だけが悲劇のヒロインであるかのような顔をする。
それにしても主人公が家族に注ぐ視線は興味深い。
祖母はまっすぐな郷愁の対象だが、
母に対しては反発と信頼の間で揺れ動く。
父は幼い頃亡くなったおぼろげな存在。
そして娘は――他人である。
母と娘の絆はもろく危うい。
これは『娘は娘』にも『春にして君を離れ』にも
共通する重要な問いかけであり、
作者にとってよほど切実な悩みだったのだろう。
メアリ・ウェストマコットは
アガサ・クリスティーという名義でも
小説を書いているけれども、
クリスティー名義の小説ではこの母と娘の葛藤が
主題になったことはほとんどない。
それだけに問題の深刻さが窺えるのである。
そういうわけで作者が心血を注いだことは
間違いないだろうけれど、力を入れすぎたのか、
構成がどうにもこうにも……。
どうして、枠物語が必要だったのか?
シーリアの打ち明け話を片手の画家が聴く意味は?
第一部と第三部は削るべきだった。
第二部も、子供時代の章はどうも浮いていて、
主題と噛み合っていないように見える。
「あのアガサ・クリスティーの」子供時代だから
需要はあるんだろうけど……。
第六章「パリ」あたりからエンジンがかかってくる。
また、シーリアが小説を書く挿話は進展せず、
そのまま捨て置かれている。
どうもいびつな造りの小説だ。
残念だけど、こう言うしかないだろう。
アガサ・クリスティーは超一流の作家だったが、
メアリ・ウェストマコットはそうではない。
クリスティーはプロだが、
ウェストマコットはアマチュアだ。
アガサは自分とは違うタイプの人間を
生き生きと造形し、動かすことができる。
脇役への配慮も怠らない。
(『五匹の子豚』を見よ!)
メアリは自分にしか興味がない。
自分が救われればそれでいい。
『未完の肖像』はシーリア一人が
まかりとおる小説である。
そして、それでいいのだ。
第二部の最後で、シーリアは身を投げる。
完成度を高めるなら、物語はここで終るべきだった。
しかし主人公を再生させた作者の気持ちも、
なんだか分る気がする。
あの失踪事件からまだ八年しかたっていないのだ。
ここを読むと、あの失踪を売名行為だなんて
言うことはできなくなる。
私は本書を読んでウェストマコットを軽蔑した。
そしてその分だけ、より一層好きになった。
私もウェストマコットと同じくらい愚かだからだ。
旧版は中村妙子さんの訳者あとがき。
「私がはじめてウェストマコットを読んだのは」構文。
『春にして君を離れ』のジョーンは
「まさにクリスティー好みの被害者」だったので
いつ変死体になるのか興味津々で読んでいたという。
シーリアは『ホロー荘の殺人』のガーダや
『もの言えぬ証人』のミセス・タニオスに重なる、
というけれど、シーリアはもうちょっと
「私はもてるのよ」オーラを出していると思う。
新版は池上冬樹さんの解説。
「私がはじめてクリスティーを読んだのは」構文。
池上さんは情熱の人だ。おべっかを使わない。
だから、ハードボイルド派から見るとクリスティーは
「人物のエモーションが直に伝わってこない憾み」
があったというのも嘘ではないだろう。
ただ、場所をわきまえてほしいとは思う。
ミステリよりも普通小説の方が
ヒロインの感情が伝わってくるというのは本気かな。
池上さんは『杉の棺』や『鏡は横にひび割れて』を
読んでいるんだろうか。
これは選書を間違えたんではないだろうか。
池上さんの専門であるハードボイルド/ノワールの
文脈で評価できるエモーショナルな傑作があるのに!
そう、たった一作だけ。
その名は――『終りなき夜に生まれつく』
旧版の勝ちです。 -
メアリ・ウェストマコット名義で発表されたロマンス小説第2弾。
アガサ・クリスティ自身とも重なると思われる恋愛と破局の物語。
個人的には前作の「愛の旋律」のような起伏の激しいストーリーの方が好みなので、ほぼ1人語りの筆致で進められるある意味平凡ともいえる展開は少し疲れた。
ただ、恋愛中だったり結婚している方には共感して読める部分もあるのかも… -
クリスティーのウェストマコット名義の愛の小説第2弾。
ということで、今回、謎解きはなしです。
前回の「愛の旋律」は、派手派手な展開でしたが、今回は、主人公が地味な性格なので、展開もちょっと地味な感じです。もうちょっと、派手な展開の方が、わたし的には好みです。
でも、これも主人公の子ども時代から丁寧に書いています。なんで、こういう人に育ったのかが、よくわかる感じ。
母親がなくなって、夫に裏切られて、精神をだんだん病んでいくという展開は、まさに、クリスティーの半生そのものですな。
まあ、クリスティーがこの小説の主人公ほど弱かったとは思えないけれど。でも、人にはいろいろな面があって、そのうちの1つをクローズアップしてみていく感じ。
そのクローズアップの仕方というのは、とても巧いです。だから、シーリアにも共感できる部分はあるし、ダーモットにも共感できる部分がある。
語り手の画家は、その両方を理解できる読者的な位置にいて、これも、なかなか巧みだなぁと感じました。
グラニーが、衰えていくところとか、こわいぐらいにリアルです。そういう細かいリアルさと、ロマンチックな飛躍が、クリスティーの小説、ミステリーなしでも読める魅力です。
というか、もともと、ミステリーをそんなに読めないわたしでも、楽しめるところです。 -
アガサ・クリスティーのウェストマコット名義の小説。
主人公の子ども時代からの日々が細やかに描かれていて
ドラマ「ダウントンアビー」の世界観がありましたが
娘との確執など、現代の私たちに共通する
切なさや、やるせなさを感じました。 -
未完の肖像。ミステリーではなく、ロマンス小説。解説や他の人の感想を見ていると、作者のクリスティと重ねてみることができるとのこと。私はなんとなくそのような見方がしなくて(できなくて)、当時の女性と半生記として。社交とか女性の結婚相手の選び方とか結構よくある話なんだろうなぁ、と。
あやごぜさんもミステリー以外のクリスティー読まれたのですね!私も完全読破するには読まなくてはいけないけど、どうにも気が乗ら...
あやごぜさんもミステリー以外のクリスティー読まれたのですね!私も完全読破するには読まなくてはいけないけど、どうにも気が乗らなくて‥というところにこのレビュー。とっても楽しくて「読めるかも」という気にさせてもらいました!ありがとうございます♪
特に「ダーモットのやめておけポイント」がもうツボです(≧∀≦)またあやごぜさんのダメんずセンサーが敏感に反応したのでしょうか?これはぜひ読んで確かめてみますね!
私の拙いレビューを楽しく読んで頂いたとのことで、とっても嬉しいです!
こちらこそ、...
私の拙いレビューを楽しく読んで頂いたとのことで、とっても嬉しいです!
こちらこそ、ありがとうございます(*´▽`*)
そうなんです~。またしてもダメんずセンサーが反応してしまいました。
個人的には、こちらの作品名を
『未完の肖像』→『ダーモットは、やめておけ』に変更したい程ですww
(『なぜ、エヴァンズに頼まなかったのか?』的なニュアンスでw)
とはいえ、ダーモットが登場するまでが結構長いのですけどね(;'∀')
111108さんにも、是非“やめておけポイント”をチェックしていただきたいです~。