アガサ・クリスティー自伝 上 (ハヤカワ文庫 クリスティー文庫 97)

  • 早川書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (605ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784151300974

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  • アガサ・ミラー、明治23年生れ。
    芥川龍之介より一つ上、
    岡本かの子より一つ下。
    自伝の上巻は両親のなれそめから
    作家デビューまで。

    アガサの実家はトーキイにある
    アッシュフィールドという名の家ですが、
    もしかしたら父の祖父母がいた
    アメリカに住んでいたかもしれない、とのこと。
    もし彼女がアメリカ人だったらどんな
    作風になっていたのか、見当もつきません。

    アガサは時折アッシュフィールドを追憶する。
    あれは失われた安らぎの国……
    私は二度と戻れない……
    こうした苦い感傷には見覚えがある。
    そう、『ホロー荘の殺人』のミッジ。
    彼女にはこういう一面もあったんですね。

    アガサ・メアリー・クラリッサ・ミラーには
    周囲に同年代の子供がいなかった。
    学校生活をはじめて体験したのは十五歳!
    『五匹の子豚』のアンジェラと同じ年です。
    懐かしく思い出される子供時代に出てくるのは
    二人の祖母、「伯母ちゃん・おばあちゃん」と
    「Bおばあちゃん」であったり、
    別れた当初は悲しくて毎日手紙を書いた
    というばあやであったり、
    四歳のときの初恋の相手である
    ダートマス海軍兵学校の生徒だったりする。

    ところでクリスティーの小説では
    たいてい子供が重視されない。
    そもそも登場回数が少ない。
    『五匹の子豚』に至っては
    子供が軽視されているということを
    わざわざ強調しているくらいだもの。
    かわいらしい子供が出てくるのは
    『NかMか』『パディントン発4時50分』
    『書斎の死体』くらいかなあ。

    一方、大人が子供時代を回想する――
    こちらはよくあるパターン。
    それが主題にまでなっているのが
    『スリーピング・マーダー』ですが、
    『杉の棺』の赤い薔薇と白い薔薇も
    いい伏線になっていますし、
    『パディントン発4時50分』では
    なんとクラドック警部が母の死を思い出す。
    ミス・マープルやトミーとタペンスは
    ちょくちょく回想にふけっていますね。

    そんなアガサも六歳のとき、父の静養のためと、
    この理由がよく分らないのだが、
    経費を削減するためにフランスに長期滞在する。
    (なんでフランスに行くと安く暮せるんだ?)
    ここでフランス語を学ぶ。

    ヴェルヌもデュマもフランス語で読んだというアガサ。
    ポアロの母語をかなり理解できていた様子。
    もっともロバート・バーナードは
    「高校生上級程度のフランス語の洪水」と
    手厳しいけれども。

    また、嫌いな語学教師にいやな目つきを
    したところ、母にたしなめられた。
    しかし六、七歳の少女はこう反論した。
    「でもマミー、わたしがしたのは
    フランス語のしかめっつらじゃなくて、
    英語のしかめっつらだったのよ」
    なかなかこまっしゃくれていてよろしい。
    母は、しかめっつらは国際語である、と
    娘に教え諭したのだそうな。

    父は十一歳の時に他界する。
    その後フランスで声楽を学ぶ。
    グリーグが好きだというアガサは歌手を目指すが、
    人前で歌うのが苦手で、挫折する。

    女学校はよほど楽しかったらしく、
    後年、あのキュートな『鳩の中の猫』では
    すばらしい学校を創造しています。
    そうそう「ヒッポリュトスの帯」もそうだ。

    エジプトでは社交界デビューし、
    恋愛遊戯の技術を身につける……んだよね。
    あんまりそういうイメージがないんだけど、
    この時代はそれが普通だったらしい。

    独身時代の記述にはあざやかな場面が多い。
    その中から文学に関するものをピックアップ。
    家族みんなで朗読していたのは
    スコット、ディケンズ、サッカレー。
    モーリス・ヒューリット、メイ・シンクレアの
    名前は初めて聞くので、新鮮でした。
    愛読していたのはなんとD・H・ロレンス!
    クリスティーってセックスには超保守的だと
    思っていたのですが、う~ん、意外だ。

    第一次大戦では篤志看護婦として活躍。
    そこで中年の素人を小馬鹿にする。
    (自分も素人なのに!)
    しかし第二次大戦では、作者の分身タペンスが
    若い看護婦ばかり重用する風潮に腹を立てる。
    (『NかMか』)
    因果応報、という気がする。

    それは恋愛にも当てはまる。
    アガサは当初
    誠実なレジー・ルーシーと婚約していたが、
    突然現れた強引なアーチボルト・クリスティーに
    心を奪われ、結婚する。

    レジーは寛大でありすぎ、距離を置きすぎた。
    もっと嫉妬をしてくれれば
    こんなことにはならなかったかも、
    とアガサは言いたいようだけど、
    盗人猛々しいとはこのことだ。
    ここでの彼女はほとんど「けんかをやめて」。
    違うタイプの人を好きになってしまう
    ゆれる乙女心よくあるでしょう、ってね。

    小説を書くきっかけは姉のマッジでした。
    才気あふるるマッジは妹を挑発する。
    「あなたにはできっこない。賭けてもいいわ」
    この後、妹は『スタイルズ荘の怪事件』を書く。
    けれども三作目の『ゴルフ場殺人事件』までは
    小遣い稼ぎ程度にしか考えていなかった。

    旧版には解説なし。
    新版は森英俊さんの解説。
    そつのない解説ですが、これなら森さんの名著
    『世界ミステリ作家事典[本格派篇]』の
    クリスティーの項をそのまま
    写した方がよかったのでは。
    引き分けです。

  • 【選書者コメント】大作家の自伝
    [請求記号]9300:1760:上

  • アガサクリスティの経験、推測で生まれてくる登場人物たちの原点が、
    自伝の中にたくさんあることが分かった。

    物語の中の主人公、登場人物と、アガサクリスティの性格の似た点の背景が分かった。
    感情移入しすぎずに、たんたんと書かれた自伝は、資料としては貴重だ。
    アガサクリスティ解説を書く人には必須の材料だ。

    上を読み飛ばしながら進んだので、
    アガサクリスティの本を全部読み終えたら、
    もう一度、上から読みなおそうと思う。

  • いい家庭で育った大人しい少女が音楽を志すが、芸術家にまではなれず、全く違うタイプの男性と恋に落ち…
    おだやかに語られる人生。
    祖母がミス・マープルのモデルなのが楽しい。

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