捜索者 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

  • 早川書房
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感想 : 50
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  • Amazon.co.jp ・本 (688ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784151850011

作品紹介・あらすじ

アイルランドの村に移住してきた元警官は消えた青年を捜すが――緻密な描写で年間ベストミステリに多数入選した重厚なる犯罪小説

感想・レビュー・書評

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  • ミステリではありますが、大自然の中、ゆったりしたテンポで進む小説。
    そのリアルさで、胸に迫ります。

    シカゴで警官をしていたカルは次第に熱意を失い、離婚し、職を辞めて、父祖の地アイルランドに移住してきた。
    人里離れた廃屋をわざと選んで、補修しながらの暮らし。
    村人とも少しずつ交流が始まるが、まだ互いに手探りで、ペースが合わないでいた。

    ある日視線を感じ、男の子が覗いていたと知る。
    少し離れた所に住むトレイという子で、みすぼらしい格好が気になり始める。
    何気なく手作業を見せたり、教えたりするようになっていった。
    このトレイは、仲のいい兄が失踪したので探してほしいという望みを実は抱いていた。
    困惑しながらも、放ってはおけないカル。
    兄というのが、自分で勝手に出て行っただけとも考えられたが‥

    愛し合っていた妻にとうに見限られ、それでもいまだに以前の感情がよみがえったり。
    娘のことが気になって仕方がないが、もう子供ではないと突き放されたりしつつ。
    閉鎖的な村の住人との付き合いも、近づきかけては不穏な気配が立ち込める。

    必死で愚かな人の営み、精一杯でみみっちいすべてが、立ち向かいようのない自然の一部であるかのように。
    取り返しがつかないことも、絶望ではなく、大きな流れの中に。緩やかにおさまっていく‥

  • 曇り空の荒野、胸騒ぎがする表紙の書影に惹かれて手に取った。

    アイルランドの田舎町に1人で移り住んだ元シカゴ市警刑事のカル。仕事に疲れ、妻子と別れ、心と身体を癒す為にこの地に来た。廃屋を住みやすい環境にするべく日々修理に勤しむ。
    田舎の人々はアメリカから来た移住者に興味津々。隣人も商店の人もおせっかい焼きでカルにとても親切。
    しかし、少年トレイが失踪した兄を探して欲しい、とカルに頼んだ事から状況が一変する。

    刑事を辞めてのんびりするはずのカルが、持ち前の正義感で少年の兄を捜索するハメになっていく。どうせ家出、捜索しても無駄。立ち入ってはいけない。でも少年が気がかり。じっとしてられない…。
    葛藤が丁寧に描かれる。
    過酷な環境に育った少年トレイが一途でいじらしい。カルとトレイ。一歩ずつ近づき、少しずつほぐれていく様子が温かい。2人の信頼関係が次第に築かれていく。
    外から来た人間の一挙手一投足が、瞬く間に町中に知れ渡る恐ろしさと田舎の閉塞感。誰が味方で誰が敵かわからなくなる。この町全部が謎めいてくる。
    過酷な環境に抗う賢明な子どもとそれに応えようと真実を求める大人。応援したくなる。

    ミステリーではあるが、主人公カルと少年トレイの交流、成長が見もので、ヒューマン小説とも言えそう。アイルランドの自然描写も豊かで良かった。

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    Tana French
    https://tanafrench.com

    捜索者 | 種類,ハヤカワ・ミステリ文庫 | ハヤカワ・オンライン
    https://www.hayakawa-online.co.jp/shopdetail/000000015103/

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    「ジョン・フォードの詩情。」!?

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      【今週はこれを読め! ミステリー編】日常を断ち切った男と子どもの物語〜タナ・フレンチ『捜索者』 - 杉江松恋|WEB本の雑誌
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      【今週はこれを読め! ミステリー編】日常を断ち切った男と子どもの物語〜タナ・フレンチ『捜索者』 - 杉江松恋|WEB本の雑誌
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      https://www.webdoku.jp/newshz/zasshi/2022/07/16/163000.html
      2022/07/17
    • 猫丸(nyancomaru)さん
      刊行以来大反響! ミステリ小説『捜索者』(タナ・フレンチ)訳者あとがき公開|Hayakawa Books & Magazines(β)
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      刊行以来大反響! ミステリ小説『捜索者』(タナ・フレンチ)訳者あとがき公開|Hayakawa Books & Magazines(β)
      https://www.hayakawabooks.com/n/n6d2b0049966a
      2023/05/31
  • 元警察官の中年男性カルと兄の失踪に喪失感を抱く10代の子どもトレイとの交流と成長を満喫した。

    舞台はアイルランド西部の小さな村。自動車絡みの事件以外に大きな犯罪も起きたことがないような穏やかな村。シカゴ警察を退役したアメリカ人のカルが移住してきて田舎暮らしを送っていたところ、監視されているように感じて正体を突き止めようとする。正体は10代前半のトレイであり、なぜ覗いていたのか事情を知るようになる。

    田舎らしいのんびりと穏やかな生活と村ならではの閉鎖的な社会が描かれており、それ故に起きてしまった事件が明らかになる。スリリングな展開はないが、年齢を超えた信頼関係を味わうことができる物語だった。

  • シカゴ警察を退職したカルはアイルランド西部の村に移住し、廃屋を修繕しながら暮らしていた。
    ある日カルは、地元の子どもに失踪した兄を探して欲しいと言われるが……。
    アイルランドの大自然の美しさと不穏な空気感にのまれる物語。→

    登場人物がとてもリアルで、フィクションなのにまるで現実にある話かな、と思わせる文章。すごい。
    カルも、元警察官だけど全然警察官っぽくなくて、それがすごいリアル。ヒーローやないんよね。それがいい。
    アイルランドの風景描写も秀逸。行ったことないけど目の前に浮かんだ。

  •  タナ・フレンチを初読。アメリカ生まれのアイルランド在住の女流作家。ダブリン警察殺人課のシリーズ作品が主流なのだそうだが、未訳も多く、ぼくは読んでいない。本作は捜査小説というよりも、ヒューマンな色合いと、文明論、人生の深みといった本質部分を突いた完全独立作品である。

     シカゴ警察を退職し、家族と別れ、人生を取り戻すためにアイルランドの片田舎に独り移住したカル。古い建物を修復しつつ、生活を再建させようとしていた彼は、頭を剃り上げた子どもトレイと出会い、その行方不明となった兄の捜索を出来る範囲でとの条件で引き受ける。

     大都会シカゴから、大自然の真っただ中にある閑散とした小村への移住。広漠たる農地。泥炭地や森に囲まれた原野。ページを開くと、大河のようにゆったりとした時間が流れる。空気の静謐。哲学的孤独。そしてミヤマガラスたちの賑やかな営み等々が、読者の眼に飛び込んでくる。何という生活。

     シカゴからやってきた刑事がすべてを捨てて、やってきた土地。古びた農家や古い家具を修繕する日々。近隣の孤独な農夫との僅かなつきあい。夜の星。近づく冬。

     670ページの長大な作品である。行方不明の若者捜査は、公的なものではなく、警察の力は借りられない。村の者たちのつきあいもスタートしたばかりで心もとない。普通小説のような日々の狭間で作る真実探しの時間。家や家具の修繕。狩り、釣り、食事。

     村に下りてゆくと食料品店や酒場がある。食料品店の母娘らとのふれあい。酒場では、村の者たちが酔いつぶれている。女性がマイクをとって「クレイジー」を歌う。かつてリンダ・ロンシュタットが歌っていた同じオールディーズ・ナンバーだろうとはぼくが想像。場のカオスな雰囲気にフィットする曲である。

     主人公カルの車は、赤い三菱パジェロ。10年前までぼくが長年乗っていたマニュアル車と同じ奴であるかもしれない。パリ・ダカで篠塚が何度か優勝を決めていた時代の名車だが古い。今も残る幻のようなステアリングの手触り。

     カルの捜索のお礼としてトレイが家具の補修やペンキ塗りを手伝う。その中でのやりとりは、きっと誰にも思い出させる。ロバート・B・パーカーの『初秋』だ。もしかしたらこの作品で一番美しく、一番心ときめくシーンはこの部分かもしれない。無口な子どもが次第に心を開いてゆく素敵なシーン。ミステリー部分よりも、このシーンこそが本書を最も気高くしているものなのかもしれない。

     また主人公は、村と言う名の生き物の総体であるのかもしれない。村を構成する広大な農地、羊の放牧地。そして泥炭地を抱き込んだ未開の山脈。その中に呑み込まれた人々の生活とは、人生とは、季節とはなんであるのか? 消えた若者はどこに飲み込まれたのだろうか? 

     驚くほどの文学性と気品を示しつつ。タナ・フレンチのペンはぼくらの想像力を刺激してくる。終盤に至って思いがけぬ真実がいくつも、しかも徐々に明らかになってゆく。静かなる辺境であるからこそのドラマが見えてくる。そして人間たちの喜怒哀楽を飲み込む大自然という協奏曲が聴こえてくる。

     美しいミステリー作品。『ザリガニの鳴くところ』が胸に突き刺さった読者に是非お勧めしたいネイチャー派の傑作である。

  • いやー、びっくりした。
    30ページまでに『○丸』という単語が出てくる。
    睾○が!
    2回も!

    『人目を気にせず睾丸の位置を整えることができない気がするのだ。男が自宅のキッチンでできてしかるべきことを。』(14頁)
    といっても、やらしいことが理由ではない。
    上記のように、極めて男らしい――おっさんらしい理由だ。
    書いたのはどんなおっさんだろうと、巻末の著者近影を見てみたら・・・・・・
    女性だった。きれいな女性である。あらまあ。

    主人公カル(カルヴァン)・ジョン・フーパーは、もとシカゴ警察の刑事だ。
    退職して、一人アイルランドの田舎に移ってきた。
    ボロ家を修理しながら住んでいる。
    野菜気がまったくない食事をし、好きなカントリーを聞き、睾丸の位置を整え、隣人にからかわれ、クッキーをねだられ――
    絵に描いたような男の一人暮らしである。
    そこに地元の子どもがやってきた。
    やっかいな頼みごとと共に。

    ミステリーやサスペンスに重点をおいて読むのは大はずれである。
    なにせ長い! 700ページ近くある!
    話が動き出すまでも長い。

    主人公はアイルランドである。
    そう思って読むのが、きっと正解だ。
    『カルはこの地の雨が好きだ。攻撃性はいっさいなく、窓を通して届く一定のリズムとにおいがこの家のみすぼらしさをやわらげ、居心地のいい家庭という雰囲気をもたらしてくれるからだ。』(56頁)
    『芝地に寝転んで満天の星を見上げると、まるで空一面にたんぽぽ畑が広がっているようだった。』(326頁)
    折々描かれる風景の描写が素晴らしい。
    カルが惹かれ、魅せられたのも当然だ。
    そして現れる人もいちいち魅力的だ。
    『あの子なら、いつだったか店へ行ったときに助けてくれたよ。その食器洗剤じゃだめ、手はかさかさになるけどお皿はぴかぴかにならないわ、と言って、梯子を上がったらお勧めの食器洗剤を取ってくれたんだ。・・・・・・』(370頁)
    『外国で離婚やら同性愛者やらが多い理由の半分はスパイスだと、母はよく言ってた。スパイスが血液に入り込み、脳みそを腐らせるってな』(266頁)

    カルと同じに、我々も、アイルランドの田舎村に魅了されようではないか!

  • 捜索者

    職を捨て、妻子とも別れて、一人でアイルランドの片田舎にある廃墟同然の家に越してきた、元アmリカの警察官カル。
    廃墟同然の家をDIYで修繕しつつ、大自然の中で静かに暮らす第二の人生を模索実践していく中で、カルは見張られているような違和感に気づく。気配の正体はみすぼらしい格好をした13歳の子供トレイ。
    次第に距離めDIYを手伝うまでになったトレイは、ある日カルに「兄貴を探してほしい」と依頼する。

    幸せとは決して言えない境遇に育ったゆえに、少々ヒネてる子供に大工仕事や家事を通じて、人生を教えるパターンは大好きな小説「初秋」リスペクトである(あとがきにも書かれている)。

    もちろん…というか、この本の奥深さというか、単純にトレイの成長譚だけでは済まない物語で、そこにはカルの成長や人生の振り返りだけでなく、小さな村社会の良し悪し、人間関係の距離の取り方、荒涼でありつつ豊かな自然の描写、そしてもちろんミステリーとしての伏線回収など、それらの読みどころ全てが上手く調和してボリューム以上に雄大な小説となっている。

    最後のページを読み終えた時「読んでよかったな」とじわじわ浸れた。そりゃまぁ面白い小説はどれも読んでよかったなぁ…なのだが、なんというか余韻の深さ濃さがなんともいえない心地よさなのだ。書評家、読書家連中に高評価なのも納得の1冊。

  • 離婚し、長年勤めてきたシカゴ警察を退職したアメリカ人のカルは、アイルランド西部の小さな村に移住することに。廃屋の修繕をしながら静かに暮らしていたカルだったが、地元の子どもから、失踪した兄の行方を捜してほしいと頼まれる。誰もが失踪の理由に心当たりがないと話すなか、穏やかに見えた村の暗部がカルを脅かしていく――。

    読了までかなり時間がかかった。
    テンポが速く、登場人物が多い小説に慣れていると、この作品はまどろっこしく感じるかもしれない。むしろ濃密な自然描写やカルと周囲の人々とのやり取りを楽しむべきなのだろう。

  • 読み応えあり。丁寧な描写がじりじりと続くと読み進めるのに時間もかかるが、それが人物や情景に厚みとリアリティを持たせる。そしてアイルランドを描くのに、このペースはぴったりだ。田舎町の閉じた人間関係は、どの国も一緒だなーと今更ながら思う。

    ワンコがいい味を出していて、これも”ワンコ小説”と言えそう。

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