火星の人類学者: 脳神経科医と7人の奇妙な患者

  • 早川書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (317ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784152080714

感想・レビュー・書評

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  • 脳神経学者であるオリヴァー・サックス博士による、奇妙な『病気』を抱えた患者たちとの物語。

    まず一人の医者がこれほどに綿密な記録を複数の患者に対して行っている、という点で敬服せざるをえません。
    そして個々の事例が伝わるのはその不思議さ、というよりも、「健常者」と「異常者」とは何なのか、ということ。
    自らをコンピュータに例えた自閉症を持つ動物学者のテンプル・グランディン氏や、驚異的な記録力を持つスティーブン少年、そしてトゥレット症候群という汚い言葉を吐く癖を持つ外科医ベネット博士など。
    患者として登場する彼らはみな魅力的に描かれ、かつ自分との類似点に眼を向けざるをませんでした。

    自分は本当に健常なのか?そして障害とは?どこかで引かれた線に疑問を持てる。良書だと思います。

  • 『妻を帽子とまちがえた男』に続くオリバー・サックス第二弾。

    ■「色覚異常の画家」
    ある画家が脳卒中による後遺症から色を感知する能力を失う。
    ……大脳皮質におけるマッピングは大きな可塑性をもっており、個々の部位の使用頻度によって皮質部分が肥大化したり、役割が変化したりする。

    ■「最後のヒッピー」
    グレイトフル・デッドを愛し、ハーレ・クリシュナを唱え、LSDにのめり込み、サマー・オブ・ラブを体現したひとりのヒッピーが、視力と記憶力と個性とを失う。サックス先生はある日、患者をグレイトフル・デッドのMSGライブに連れて行く。患者は熱狂、歓喜するが、次の日彼はすべてのことを忘れてしまっていた。
    ……オレンジほどの大きさの脳腫瘍による。
    ……性格が変わってしまったのは前頭葉の損傷により低次のレベルの抑制が解けたため。ノーベル医学賞の医師ウォルター・フリーマンによる凶行、アイスピックを使ってのロボトミー手術はこれを逆手に取ったもの。
    ……『妻を…』の「ただよう…」の患者はミサだけには集中できたが、同じく記憶が1分も持たないこの元ヒッピーの患者も曲の演奏は不自由なくできる。

    ■「『見えて』いても『見えない』」
    幼いころに視力をなくした50歳の男。眼球の手術によって見えるようになったはずだが、以前のように対象物を手に取って触らないと、彼にとっては「見えない」のだ。
    ……大人になって初めて声が出るようになったといっても、言葉を学んでいなければすぐに喋りだせるはずがない。同様に「見る」ことを学んでこなかった男にとって、光を感じるようになったからといって「見える」わけではないのだ。

    ■「夢の風景」
    写真のような記憶力を持つ男。ナチスによって蹂躙され荒廃してしまった生まれ故郷のかつての風景を思い出し、キャンバスの上に描き出す。
    ……側頭葉に起こる癲癇をともなう発作(ドストエフスキー症候群)か。
    ……思い出すということは創造的な再構築という面がある。一方で、経験の中で何度もなぞられてもなおそのままで存在する記憶もある。

    ■「神童たち」
    スティーブン・ウィルトシャーと行動を共にした時のエピソード。
    ……自閉症の画家。しかし音楽の才能も凄い。著者は彼の人間性に触れようとするがあえなく失敗する。
    ……ネットでこいつの画を見てみたが、これはもの凄い。しかしやはり、そこから作者の人間性といったものを感じ取れない。何か、美術の純粋な才能そのものがペンを持って動かしたかのような――非常に不自然な感じ。

    ■「火星の人類学者」
    動物学者にして、非虐待的な屠殺施設の設計者テンプル・グランディンとのエピソード。
    ……自閉症だが、彼女も人生の成功者である。
    ……自作の「わたしの締め上げ機」を使っている。
    ……家畜の屠殺に関して強い人道的な考えを持っている。
    ……「電気ショックを与える機械―一部の精神病院で使われているのと同じような―と豚を屠畜する機械の変数はほぼ同じなんです。1アンペア、300ボルトぐらいです」

  • 火星の人類学者―脳神経科医と7人の奇妙な患者

  • 著者含め、人間らしきものの気配が一欠片も登場しない驚くべき本。彼らの使えない肉体に閉じ込められた哀れなゾンビに私のゾンビが共鳴でもしているのだろうか。気分が悪くなる。

    さて、ゾンビは協力者にも厄介者にもなるということだが、ではそれらを使役するのがこの私であると言えるかというと、微妙である。

    例えば夢を見ている時、私とはこの私であり同時にこの私ではない。この私という意識がある一方で、行動の選択や感情はこの私のものではなくなっている。逆に覚醒時におけるこの私の行動の選択や感情は、夢の中ではこの私のものではなくなっている。

    ならば、この私の実体は何かというと、結局は各々のクオリア感覚に尽きる、としか言いようがない。行動の選択や感情のラベリングは全てこの私ではないゾンビが行っており、情報を眺める(情動認知する)ための機能、すなわちGUIがこの私だと。

    自身をも眺めることができる外界との窓口ゆえにGUIは複合体としての自己認識を欠き、悪くすればこの本の登場人物達のように他の機能から分断されたクオリアですらもないインターフェースとなり下がる、といったところだろう。

    一瞬の中にしか永遠が見つからないように、部品としての己に目覚めていることが、私という生命体の全容を解させ、私との連携を可能にさせる。

    人間の責任として、私が私ではない誰かであることを、この世界の全てが私であることを私は手放すわけにはいかないだろう

  • 「普通と違う」ということの持つ素晴らしさ、難しさ。

  • [びっくり芋] 脳神経外科医オリバー・サックスの書く本はどれもおもしろいですが、自閉症の動物学者のみる世界観は「へえ」とおどろきます。

    佐賀大学:秋だねえ

  • 内容(「MARC」データベースより)
    自らを「火星の人類学者」と呼ぶ自閉症の動物学者をはじめ、障害が特殊な才能を開花させた7人を世界的に著名な脳神経科医サックス博士が深い洞察で描く。一般人の病気観をくつがえす全米ベストセラーの医学エッセイ。

  • おもしろい。
    映画「レナードの朝」のモデルになった人。

  • An Anthropologist on Mars by Oliver Sacks:

  • 20/5/30

    宇宙は、われわれが想像するよりも奇妙などころか、想像もおよばないほど奇妙である。>j・b・s・ホールデーン

    その人物がどんな病気であるかと問うのではなく、その病気にはどんな人たちがかかっているかを問うがよい。>ウィリム・オスラー

    一般的な指針とか制約、助言というものはあります。だが、具体的なことは自分でみつけなければならないんですよ。

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