- Amazon.co.jp ・本 (345ページ)
- / ISBN・EAN: 9784152084231
感想・レビュー・書評
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主人公の妻を「最高指導者」とする、「帝国」の成立と崩壊を描いた寓話的な小説。ソルジェニーツィンの「収容所群島」の、著者なりの再話。
主人公と妻の間の恋愛小説・家族小説として読むことも可能。そういった観点からは、最後の、主人公との間の子ではない子を連れてきた妻を主人公が受け入れる、主人公の妻への愛が切ない。
著者(佐藤哲也)による「下りの船(想像力の文学)」もお薦め。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
民衆細胞と個別分子のどっちなのかが気になってくる。なんかそればっかりだし。空気を読めれば民衆細胞になってなんかみんな雰囲気で全部分かるけど、空気が読めないと個別分子で排除される。これが理想、ってこれまんま村社会じゃねーか!村社会が嫌われるばっかりに、近未来ではみんな空気も読むもなく、他の人のこと全然分かんねー、ってなって、やっぱり空気読む社会の方が良いわーってなったんかもしれん。揺り戻しってやつか。
まぁそんな難しい話で延々語られるのはSFの常なんであって、しかしここで一言引用するならば、「なんという変態野郎であろうか。」ですよ。最後に出てくる針原のかなり常軌を逸しているっぷりは、変態仮面にライバルで登場しても良いんじゃないかってレベルで、そこに「なんということでしょう」的なビフォアアフターな言葉を被せると、なんだか文学的になってぐっと心に突き刺さる。 -
ブラックで不条理で、SFというカテゴリに入れていいんだろうかと思うような話だった。
主人公の妻不由子が手紙を送って、それを受け取った人が民衆意思を直感的に理解し、民衆細胞となる。やがて妻を指導者とした民衆国家が成立する。その成立と崩壊までが描かれている。妻が毎月3000人に手紙を送るため切手代だけで月24万もかかる。このため夫婦喧嘩が起きるなど、全体の話がシュールなのに、妙に細かいところがリアル。 -
とてつもない小説にぶち当たってしまった。どこがとてつもないのかを説明できない自分の貧困な脳ミソを恥じつつもあえて感想を伝えるとすれば、ふと見上げた空にそこそこの大きさを持った真っ黒な何かが浮かんでいるのに気がついてしまったということかな。
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妻は民衆国家の最高指導者であり、樹立のためにマンションで手紙を書き続けていた。そして、じわじわと国家が構築していく。民衆の共通認識をベースにした権力無き統一国家のディストピアを、不条理に綴った。じわじわと日常が非常識にシフトする残酷さを、男は冷静に狂いながら生き延びてゆく。平易な言葉で無常な不明瞭をじっくり描いた傑作SF。あえて鎖国な世界観が物語のポイントを絞っている。皮肉な冷笑らしき雰囲気が全編を覆った。
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現実世界においても、本人の意図しないところで世の中が動いていくことは実際にあるわけだが、この作品の主人公はまさにそのような立場に置かれる。ある日届いた自分の妻「最高指導者」からの手紙、民衆国家の建設、肥大化する組織、暴走する民衆そして没落と、政治劇である。「不条理な」世界ながらもどこかで、現実世界に繋がっている部分があるように思える。そのために、机上の空論的なSFではなくなっている。主人公と妻の関係、妻と組織の関係、主人公と組織の関係が交錯するこの小説を一度手にとって読んでもらいたい。
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あるときからじわじわ変わってきてて、これはなんか変な感じだなーとは思いつつも、とりあえずは直接自分に関係ないと放置しといたものが、あ、これはそろそろマズイと手をうとうとしたときにはもう事態は相当進行していて自分もすでに巻きこめれてしまっているというようなたぐいの怖さです。
(20070714)