タングステンおじさん: 化学と過ごした私の少年時代

  • 早川書房
3.85
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  • Amazon.co.jp ・本 (386ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784152085177

作品紹介・あらすじ

「タングステンこそ理想的な金属だ」と、その根拠を力説してくれたおじ、遍在する数の法則を語るおば、真摯に働く医師の両親、発狂してしまった兄。強烈な個性がぶつかりあう大家族にあって少年サックスが魅せられたのは、科学のなかでも、とりわけ不思議と驚異に満ちた化学の分野だった。手製の電池で点けた電球、自然を統べる秘密を元素の周期表に見いだしたときの興奮、原子が持つ複雑な構造ゆえの美しさなど、まさに目を見張るような毎日がそこには開けていた…だが、化学の魅力は、実験で見られる物質の激しい変化だけではない。キュリー夫妻ら、研究に生涯を捧げた人々の波瀾万丈のドラマもまた、彼にとってまばゆいばかりの光芒を放っていたのだ。敬慕の念とともに先人の業績を知るにつれ、世界の輝きはいっそう増してゆく。豊饒なる記憶を通じ、科学者としての原点と、「センス・オブ・ワンダー」の素晴らしさをあますところなく伝える珠玉のエッセイ。

感想・レビュー・書評

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  • 科学を唯一の楽しみに過ごした、オリヴァー・サックス自らの少年時代の様子を書いたもの。

    「子どもがどのように成長するか」ということは、周りの環境によるのだと改めて実感しました。オリバー少年自身、両親は医者、叔父・叔母には、自然科学・化学・教育に精通している者が多いという環境に育ち、「なぜ?」「どうして?」という問にきちんと答えてもらっています。しかも、化学に興味を持つと、自宅の1室を簡単な実験室にまでしてもらっています。

    「なぜ?」「どうして?」がわかってくると、それに興味を持つ。興味を持ったものを、自分でもやってみたくなる。やってみたらうまくいく。そうして自信につながっていく。

    果たして、今の子どもたちはオリヴァー少年のような体験をすることが可能でしょうか?

    この本には、化学の元素周期表やら、酸化・還元やら、放射性元素の崩壊やら、化学オンチの私には???ということも多々ありましたが、そのへんのことはすっと飛ばしても、なかなか面白かった。
    中学・高校時代、もっと化学・物理を勉強しておけばよかったと後悔しています。

  • ちょっと内気で引っ込み思案な理系少年が、家族や周囲の人々とのつながりの中で人格を形成していく課程が本人視線で率直に描かれており、似たような状況にある少年に読んでほしい一冊、化学、地学、物理に興味を持ち始めて進んでいくすがたは自分のことものころとも重なり懐かしい。子供の興味をまっすぐに伸ばしてやる親、家庭、周囲の環境などは正直羨ましい。

  • 子どものころ化学に興味があった人にはとてもお薦め。私も小学生のころには友人と乾電池を分解して二酸化マンガンを取り出してオキシドールをかけて出てきた泡に線香の火を近づけてみたり、理科室から水酸化ナトリウムの粒を盗み出して金属を溶かしたりして遊んだものだが、この筆者ののめり込み様は半端ない。そしてどういうことに疑問を感じ、違和感を覚え、エレガントさに満足するか、といった体験も実に共感できる。

    それにしても羨ましいのは彼が少年時代に育った環境で、家族親戚が寄ってたかって様々な材料や道具とともに示唆を与えてくれたり、自宅で実験して怪しいガスを発生させたり池にナトリウムを投げ込んで爆発させたりしても怒られず、歩いて行けるところに入場無料のロンドン自然史博物館(彼は足しげく通ってときには守衛の目を逃れて一晩中展示を眺めていた)。その中で彼は様々な刺激を受け、試し、考え、また試し、ヒントをもらい、ついには先人の発見をあたかも自分で発見したかのように追体験し、さらに次の謎に取り組み、化学史をたどっていく。このような体験は、(彼は最終的には化学者にならなかったけど)科学的なスキルを養うことになったはず。

    現代の都会生活では、気軽に自宅の周りで実験することはできないし(たき火すらできない)、学校では答え(先人の発見)を先に教えてしまうし(実験の実演だって答えを教えるのが早すぎる)、何でもネットで即座に調べられてしまうし、学問自体も高度になりすぎて実感が沸きにくかったり個人で実験できなかったりしてしまって、この本に書かれているような幸せを体験できなくなってしまっているのが不幸だなあ、と改めて感じた。本人がじっくり時間をかけてのめり込んで考えたり試したりすること、知識のある先輩が絶妙のタイミングでヒントを与えること。すごいITなんかよりも、その方がよっぽど贅沢なのだ。

  • 第一次世界大戦時の英国で育ったオリヴァーサックス。本著で自叙伝として語られる当時の雰囲気に想像を巡らせながら、彼の身の回りがいかに科学に溢れ、それを識別する専門家に恵まれていた事か、羨ましく思う。タイトルであるタングステンおじさんだけではない。両親、親戚が数多く、科学や学問の楽しみを教えてくれていた事が分かる。

    例えば、ダイヤモンドを唇に当てるとそこから体の熱が生まれてしまう。それはどんな金属よりも熱を通すからだと、つまんで氷に当てるとダイヤモンドが氷をバターのようにすぱっと切れるところを見せてくれた、とか。銅にスズを混ぜて青銅ブロンズを作った。また銅に亜鉛を混ぜて真鍮を作ったなど、
    普通の家庭では中々見られない光景が綴られる。

    昔、学研の科学という付録つきの定期購読教材があった。子供心に胸をときめかせ、もう一種類の学研の学習と共に楽しみにしていた記憶があり、オリヴァーサックスの家族の役割を担っていたのでは、と回想する。あれは、まさに文系、理系知識を満遍なく刺激する良い習慣だったと、学研のアーカイブサイトを見て改めて確認した。今はオンライン教材も多いが、やはり、手を使い、多面的に観察し、ページをめくる、切り、繋ぎ、組み立てるという事が重要だ。好きな動画だけ見ていては、発見が少ない。こうした過程で学問のバランスが磨かれるのだという気もした。

  • ふむ

  • タングステンおじさん―化学と過ごした私の少年時代

  • ★科学道100 / はじまりは疑問
    【所在・貸出状況を見る】
    http://sistlb.sist.ac.jp/mylimedio/search/search.do?target=local&mode=comp&materialid=10301662

  • 映画「レナードの朝」の原作者として知られる脳神経科医の少年時代の回想録。タングステン電球の製造工場を経営していた叔父たち(タングステンおじさん)に助けられて過ごした化学実験三昧の少年時代について。記述だけでも化学の面白さにわくわくする。
    (選定年度:2016~)

  • [ 内容 ]
    「タングステンこそ理想的な金属だ」と、その根拠を力説してくれたおじ、遍在する数の法則を語るおば、真摯に働く医師の両親、発狂してしまった兄。
    強烈な個性がぶつかりあう大家族にあって少年サックスが魅せられたのは、科学のなかでも、とりわけ不思議と驚異に満ちた化学の分野だった。
    手製の電池で点けた電球、自然を統べる秘密を元素の周期表に見いだしたときの興奮、原子が持つ複雑な構造ゆえの美しさなど、まさに目を見張るような毎日がそこには開けていた…だが、化学の魅力は、実験で見られる物質の激しい変化だけではない。
    キュリー夫妻ら、研究に生涯を捧げた人々の波瀾万丈のドラマもまた、彼にとってまばゆいばかりの光芒を放っていたのだ。
    敬慕の念とともに先人の業績を知るにつれ、世界の輝きはいっそう増してゆく。
    豊饒なる記憶を通じ、科学者としての原点と、「センス・オブ・ワンダー」の素晴らしさをあますところなく伝える珠玉のエッセイ。

    [ 目次 ]
    タングステンおじさん―金属との出会い
    「三七番地」―私の原風景
    疎開―恐怖の日々のなかで見つけた数の喜び
    「理想的な金属」―素晴らしきタングステンとの絆
    大衆に明かりを―タングステンおじさんの電球
    輝安鉱の国―セメントのパンと鉱物のコレクション
    趣味の化学―物質の華麗な変化を目撃する
    悪臭と爆発と―実験に明け暮れた毎日
    往診―医師の父との思い出
    化学の言語―ヘリウムの詰まった気球に恋して〔ほか〕

    [ 問題提起 ]


    [ 結論 ]


    [ コメント ]


    [ 読了した日 ]

  • オリバー氏の時代の数や化学の世界への知的好奇心とロマンは、ある種の精神的な逃げ場所になっていた。

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