膚(はだえ)の下

著者 :
  • 早川書房
4.14
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本棚登録 : 201
感想 : 27
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  • Amazon.co.jp ・本 (684ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784152085610

感想・レビュー・書評

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  •  『あなたの魂に安らぎあれ』、『帝王の殻』に続く火星3部作の完結編
     人間でもない、機械でもない、分子レベルから設計された人造人間「アートルーパー」の慧慈の物語。
     まさに、神林長平らしい作品。ほとんどが慧慈自身の心証記述か、他の人々との会話で構成されている。もちろん、状況変化の記述もあり物語が進んでいくためには必要であるが、それは重要ではない。そのような状況あるいは外部との物理的あるいは音声を介しての情報交換=会話によって慧慈の内部状態=精神=魂がどのように変化していくかに焦点をあてている。
     人造人間が自分の存在意義は何かについて考えを巡らしていくという流れではあるが、その中において、もちろん、人間とは何かを考えざるを得ない。

     前2作との関係もいろいろと盛り込まれているような気はするが、何せ14年の開きがあり、すっかり忘れてしまっている。もう一度読み返したくなってきた。
     この本に関して言えば、単行本が発売された際に購入して、読みそびれているうちに文庫化されてしまった。神林長平の他の作品に比べても長い作品。何度か読み始めて、そのたびに挫折し、今回、やっと読むことができた。そのための時間を取ったと言うことだけど、読んで良かった。

  • 2段組み680ページ超の大作なのに、止め時がわからないくらい引き込まれて読めてしまう作品でした。
    人間の存在、神とは、生きるとは、という大きく重たいテーマに真正面に取り組んだ作品で、どうやったって考えさせられます。

    人間と、完全な機械生命体の機械人と、その中間の構成でできた存在である主人公の三者三様の存在意識、価値観、生命観を通じて、人間という存在を問う哲学にも通じる、本当に素晴らしいSF作品でした。

    出てくるセリフ(言葉)も胸に刺さるものが多く、分厚い本ですがもう一度読みたくなります。

  • 神林長平の集大成というべき本。何度も読み返しては途中で読むのをやめている。読めないんじゃなくて読むのが惜しい。と思う本はこの本だけだ。読み終えると何かが終わってしまう気がして読めない。読みたいのに読めない。

  • SF。シリーズ3作目。
    時系列的にはシリーズの最初。
    上下二段組みで680ページ超えと、もの凄く読みごたえがある。

    われらはおまえたちを創った
    おまえたちはなにを創るのか

    人造人間が人間から自立して、神になる物語。
    人間と人造人間と機械は何が違うのか。
    人造人間は何のために生きるのか。
    慧慈と実加の会話、結末のアートルーパーたちの会話など、感動するシーンも多々あり。
    本当に傑作です。

  • 火星三部作の3作目。作中の年代としては最初。
    2段組みで684ページもある。3冊を同時に図書館で借りると、ちょっとビビる。

    人とは何か。人とそれ以外はどう区別をつけるのか。有機体で生命を作った場合、人とどう異なるのかとか。教育とは何かとか。

    機械人ほぼ無双。「ほぼ」だから完ぺきではない。主体となる意識は集合的意識だから「個」を理解できない。理解するにはどうするかも触れられる。

    一歩推し進めて、集合的意識が分裂したらどうなるかをネタにしているのがアン・レッキーの叛逆航路からなる3部作。

  • 火星三部作の三部目。素晴らしかった。ものすごく好き。火星三部作の中では飛びぬけて好き。もちろん、はじめの二つを読んでいるからこそ更に素晴らしく感じるのだけども。今回図書館でハードカバーを借りてきて、厚み4cm越えですごく重いんだけど持ち歩いて、片手が空いて本を読める状況ならとにかく読み進めた。気になって早く読みたくて。後半家で読む時はほぼ涙し、最後は号泣。ある人造人間の自立と創造、その過程。すごい物語だった。文庫版を絶対購入しなくては。でも最後にとりあえず言いたい。「梶野少佐おまえそんな奴だったのか!」

  • 神林作品はそれなりに読んできたが、その中で最も気に入っている一冊。ただ、読んでから日が経ってしまったので少々うろ覚えなレビューですが。。。

     戦争によって汚染された地球を浄化するため人間が一時的に火星へ離脱し、その間に生涯を浄化作戦に費やす要員として創られた人間、すなわち人造人間のひとりである慧慈軍曹が主人公である。
     人造人間といっても汚染された地球で生きていく程度に遺伝子的に優れていることと、軍人として育てられたので生き残る術に長けている程度しか人間と違わない。任務で人間を殺し、人間と出会う中で、人間と非常に似通う″かたち”をしていながら人造人間は確かに人間ではないことに気づく。まさに「かたち」ではない中身、膚の下に存在する人造人間の本質を、そして対比される人間の本質をごりごりと描き出す。
     人でないものとの対比によって人間を描くというのは神林作品(というかSF作品の多く?)で行われているように思うが、この作品の魅力的な理由は、慧慈が確かに人間とは異なる存在であることを読者は理解するが、それでも彼に非常に感情移入できることではないかと思う。この理由の一つとして思うのは、人間と同じかたちをしていること(同じく火星シリーズの一作である『帝王の殻』のPABも人でない異質な存在だがPABに感情移入はし難い)。もう一つは先ほど「ごりごりと描き出す」と書いたとおり、神林長平によって力強く描かれる慧慈軍曹の思考のリアリティだろう。そして感情移入することによってますます、人間でなくアートルーパー(人造人間)としての生を獲得しようとする慧慈の生き様が鮮やかになっていく。
     そして最後に慧慈達が出す答えになにか無性に救われた気分になった。なんだかダラダラ長々とレビューを書いたが、この一瞬だけで分厚いハードカバー本を読みすすめた甲斐はあったと言えるものでしたね。
     記念すべき一冊目のレビューにしてベタ褒めすぎか、、いや、まぁ、仕方ない。

  • 火星3部作最終話だが時間軸では最初のエピソード。myベスト書籍の1つ。睡眠時間削って読む価値あった。

  • これを読むと神林長平の『火星三部作』が終わってしまう。
    そう思うとなにやらもったいなくて、どうしても読み始められない。
    アンビバレントな宙吊り状態、いつになったら読めるのやら。
    ああ、チキンなオレ ...

  • 火星三部作の最後。
    でもすべてここから始まったのだ。
    われ奇跡を見たり、慧慈理論は真なり!

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著者プロフィール

作家

「2023年 『ベスト・エッセイ2023』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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