アニマルズ・ピープル

  • 早川書房
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感想 : 19
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  • Amazon.co.jp ・本 (498ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784152091932

作品紹介・あらすじ

スラム街の人々から"動物"と呼ばれる青年。インドのカウフプールに住む彼は、赤ん坊の頃に巻き添えとなった汚染事故の後遺症で、四本足での生活を送っていた。「おれはかつて人間だった。みんなはそんなふうに言う」と"動物"はうそぶき、その数奇な人生を語りだす。育ての親であるフランシかあちゃんとの生活、愛しい女子大生ニーシャやアメリカから来た美人医師エリとの出会い、そして汚染事故を起こした「カンパニ」と戦う個性的な仲間たちとの波瀾の日々を-世界最悪と言われた実際の汚染事故を下敷きに、みずからの不遇と容姿に苦悩する青年の生き様をユーモラスに描き上げる傑作長篇。コモンウェルス賞受賞作、ブッカー賞最終候補作。

感想・レビュー・書評

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  • 4.15/163
    内容(「BOOK」データベースより)
    『スラム街の人々から“動物”と呼ばれる青年。インドのカウフプールに住む彼は、赤ん坊の頃に巻き添えとなった汚染事故の後遺症で、四本足での生活を送っていた。「おれはかつて人間だった。みんなはそんなふうに言う」と“動物”はうそぶき、その数奇な人生を語りだす。育ての親であるフランシかあちゃんとの生活、愛しい女子大生ニーシャやアメリカから来た美人医師エリとの出会い、そして汚染事故を起こした「カンパニ」と戦う個性的な仲間たちとの波瀾の日々を―世界最悪と言われた実際の汚染事故を下敷きに、みずからの不遇と容姿に苦悩する青年の生き様をユーモラスに描き上げる傑作長篇。コモンウェルス賞受賞作、ブッカー賞最終候補作。』

    冒頭
    『おれはかつて人間だった。みんなはそんなふうに言う。自分じゃ覚えていないけど、当時を知ってる連中は、幼いおれが人間みたいに二本足で歩いたって言うんだな。』


    原書名:『Animal's People』
    著者:インドラ・シンハ (Indra Sinha)
    訳者:谷崎 由依
    出版社 ‏: ‎早川書房
    単行本 ‏: ‎498ページ
    受賞:コモンウェルス賞

  • 主人公はインドのスラム街に住む“動物”と呼ばれる青年。彼はある化学工場事故の後遺症で4本足で生活することを余儀なくされていた。「おれはかつて人間だった」と独白で始まる本書は、工場事故を背景に、育ての親のフランシス、愛しの女子大生ニーシャ、アメリカ人医師エリなど、スラム街に住む人々の生活の様子と、青年の苦悩をユーモラスを交えて描いている。

    化学工場事故、4本足、動物と呼ばれる主人公…そうしたキーワードだけを見ると、とても悲惨な物語のように感じるかもしれないが、このお話の中心はとてもユーモアに富んだ人間ドラマである。化学工場の事故は物語の背景にはなっているが、決してメインテーマではない。あくまで本書のテーマは不遇な青年の思春期における葛藤である。

    人は誰しもコンプレックスを持っている。背が低い、足が遅い、胸が小さい…etc。思春期にあってそれは特に顕著に自己意識の表面に上がってきて、ときには自己嫌悪に陥ってしまう。”動物”と呼ばれる青年のコンプレックスには底がない。事故の影響で四本足で歩く事を余儀なくされ、他人からは“人”としての扱いを受けない。いわば、コンプレックスの塊のような存在だ。しかし、そんな主人公にも自分を人として扱ってくれる存在が現れる。それが女子大生のニーシャであり、アメリカ人医師のエリだ。

    物語は中盤から一気に“動物”の初恋物語へと転じる。しかし、それは決して甘美な語り口ではなく、現実世界に生きる青年の心情を反映したどぎつい語り口で。どうしたら彼女とヤレるか、恋に落ちた“動物”は次第に性欲にまみれるが、コンプレックスの塊である主人公は、四本足歩行で学もない自らを蔑み、ライバルの前になす術もなく立ち尽くす。恋人にもいけすかない態度をとってしまうあたりは、自分の中・高時代を見ているようでツラい。

    コンプレックスを受け入れることは大変難しい。現実世界で人はコンプレックスを受容するというよりは、必死に打ち消しながら生きているようにも思える。激しい拒絶反応をコントロールするためには、ある程度の経験が必要だが、その「決定的な出来事」が起こらないまま思春期が過ぎてしまう人も多いのではないか。
    ある事件をきっかけに自らのコンプレックスと向き合い、受容することになる主人公の“動物”。4足歩行は確かに不遇だが、そうした事件を経験できることはある意味、幸運のような気もする。コンプレックスを打ち消す愛の力に、読者である私は圧倒された。


    物語を一環する”動物”のユーモアに溢れる語り口は読んでいて思わず笑ってしまうし、“動物”の恋模様は物語の推進力となっているので500ページという分量の割にはあっさりと読めてしまう。酔った挙げ句に主人公が初めて女を知るシーンなど、美しい描写にはっとされられる部分も多々あり、さすがブッカー賞の最終選考に残ったのもうなずける。

    化学工場のエピソードが背景になりすぎている点や、クライマックスへ向けた盛り上がりに物足りなさは感じるが、性モラルに厳しいインドを舞台にしているとは思えない大胆な描写がいくつもあり、読み応えがある本であった。

  • 怒涛のおもしろさだった。インド系作家はジュンパ・ヒラリだけではない(ずっとおもしろい)。ルサンチマンの物語だが明るくパワフルでユーモラス。なんと主人公は「人間」ではなく「動物」なのだ。

  • 文学

  • インド・マッディヤプラデーシュ州の州都ボーパール。害虫対策とスラム
    街の雇用問題の解決の為、アメリカ資本の殺虫剤工場が建設された。

    1984年12月2日から12月3日の深夜にかけて、史上最悪のプラント事故
    が発生する。工場から流れ出した有毒ガスは人々を襲い、被害を被った
    のは15万人とも30万人とも言われる。

    このボーパールを「カウフプール」と言う架空の町に置き換えて、事故で
    後遺症を負った青年を主人公とした小説が本書だ。

    両親のことは知らない。発見された時、彼は毛布にくるまれた赤ん坊で
    あった彼は、成長する過程で腰が曲がり、二本足で歩くことが出来なく
    なった。

    「おれはかつて人間だった」。手足を使って歩き、走る自分を彼は「動物」
    と称する。そして、「動物」の生い立ちを聞こうと訪れたオーストラリア人
    ジャーナリストの求めに応じ、「動物」はジャーナリストが残して行った
    テープに自身の生い立ちを吹き込む。

    「動物」が語った内容を忠実にテープ起こしをした内容を掲載する。そんな
    体裁を取った小説である。

    スラムで生まれ育った「動物」の使う言葉は下品だ。下品だが、そこに
    したたかさと強さが秘められている。時にシニカルに、時にユーモラスに。
    スラムで生きる仲間たち、自分の用紙に関する悩みが語られる。

    現実に起こったプラント事故は深刻な問題を抱えている。だから本書も
    シリアスかと言えばそれだけではない。

    両親はなく、フランス語しか解さない老修道女に育てられ、体は変形
    し、健康体の人々とは目線も違う。これだけを書き連ねたなら、不幸の
    どん底なのだが、そんな環境・境遇にいても「動物」はその名の通りに
    たくましく生きている。

    「動物」のたくましさとしたたかさが、かえって原因企業の狡猾さを
    浮き彫りにしているんだな。全体的にエネルギッシュな作品である。

    尚、実在する方のボーパールでは現在でも汚染物質が放置され、
    原因企業であるユニオン・カーバイトから業務を引き継いだダウ・
    ケミカルは被害者たちへの補償に応じていない。

  • 「ここには未来はないからな。全力で今日を生き延びなきゃなんないのに、明日のことなんか考えられるか?」

    かつて化学工場がおこした大事故のため、一夜にして多くの人々が死に、生き残った者も病や障害を負った街・カウフプール。そこは貧しい者の王国、または黙示(アポカリス)の街。
    生まれて間もないころに巻き込まれたこの大事故の後遺症のために脊椎が湾曲し、両手をついて四足で歩くしかないために“動物”と呼ばれるようになった青年が、饒舌に、ユーモラスに、まだ短いが数奇に満ちた人生を語り出す。
    満足な水や食べ物もなく、まともな医療も受けられない貧困のどん底でたくましく生きる街の人々、事故を起こした企業”カンパニ”と戦う仲間、そして動物を引き取って育てた“フランシかあちゃん”のこと――。

    「おれは人間であることを、とっくの昔にやめたんだ」と嘯きながら、同時に体が治ることを切望する“動物”の生き様を描く、泣き笑いの長編小説。

  • 作者のIndra ShinhaはOgilvy Londonのコピーライターだったらしい。
    この物語のモチーフになったのは1984年にインドのボーパールという町でユニオンカーバイト社の向上が起こした史上最悪規模の化学工場の炎上事故とそれによって地域にもたらされた想像を絶する健康被害をうけた人々とのこと。語り部となったのは自分をAnimal:動物とよぶ一人の障害者で彼によって語られる事故後に戦う人たち、ボランティアでやってくる心優しき人たちなどとの出会いを通じて語られる本来あるべき人間像とはというお話がぐっとくる。
    悲しい話ではあるが、力に満ちたお話だった。あまり翻訳物は読まないのだが、この作品の翻訳は原作のパワーをそのまま伝えられているように思う。すごくテンポよく読めるので。

  • 【第2回 twitter文学賞 投票】
    辛辣な言葉とユーモアな台詞に宿る熱いココロ。オスカー・ワオと迷うがこちらに一票。荒井良二さんの装画も素晴らしい!

  • 第2回(2012年度)受賞作 海外編 第5位

  • スラム街近くの工場の実際の事故で
    有害物質が垂れ流され、大勢の人が後遺症を背負った。
    主人公は、背骨が曲がり4本足での歩行を余儀なくされ
    以来、「動物」と呼ばれる身に。
    その動物が異国のジャーナリストから渡されたテープに
    吹き込んだ話をユーモラスに。

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